第8話



〜3年前の如月隼斗〜


「はぁ...」


盛大なため息をついたのはこの俺、如月隼斗。たった今好きな人に振られました!!!その場にいるのが怖くなって逃げてきました。あはは...


「好きだったんだけどなぁ...くそぉ...うぅ。」


鼻水をすすりながら河川敷で寝そべっていた。


------ゴロゴロ!


「うっわ!びっくりした!!雷か...って、やっべ、めっちゃ降ってきやがった!」



涙で濡れて雲のこと見えてなかったなんてなぁ。




-------ん?あれは?女の子?


フラフラとした足取りで俺は交差点へと向かう。淡いモヤがかかり視界は最悪。そこには、目から光を失い今すぐにでも壊れてしまいそうな女の子が立っていた。


綺麗だなぁ...なんて、思ってる場合じゃねぇ!!


「おい!待て!!!」


遠くからなるクラクション。無表情で飛び出す彼女に俺は無意識に手を差し伸べていた。




(その時ふいに花の香りがした。)




「おい!危ねぇだろぉ!」


そう言って運転手は走り去った。


歩道脇にへたり込んだ彼女は俺にこう言った。




------「なんで死なせてくれないんですか?」


その目は酷く霞んでいた。




「いや、なんでって言われても、そんな顔されちゃ助けるしかねぇだろ!」


「私は...何もかも失って、生きてる意味が無いんです!!あなたはそんなのも知らないで勝手に私を助けた!どうしてくれるんですか!?」


彼女は必死の形相を浮かべていたが。その瞳の奥にはなにか、縋るようなものが見えてたまらなかった。


「なぁ、あんたになにがあったかはわからない。けどよ。あんたの本心は死にたいなんて思ってねぇだろ...」


「そっ、そんなことあるわけないじゃないですか!適当なこといって正義感を押し付けないでくださ...」




------プッツン。ここで俺は何かが切れた。




......「...チッ...ごちゃごちゃうるせぇんだよ!!」




------ビクッ...


「お前がどんだけ辛いかなんて俺にはわからねぇ!けどよ!俺もさっき好きな人に振られて、周りからも笑われて、泣いて走ってきたんだよ!それなのに、どーゆーわけか死にそうなやつを助けちまって、ほんっとになんなんだよチクショウ!!」


「な、なにが言いたいんですか...」




(そんな期待するような目すんなよ...死にたかったんじゃねぇのかよ。)




「生きる理由ならまた見つけりゃいい!悔しいなら見返せばいい!どんだけ叫んでどんだけ嘆いても結末は変わらねぇんだよ!!大事なのは『これから』お前がどうするかって選択だ!メソメソして泣いてばかり...!そんなみっともねぇことしてねぇでその可愛い顔をもっと笑顔にしろよバカが!」


------っ!!!!!


その刹那、私は感じた。あぁ。この人も辛いんだ。私と同じでどん底に突き落とされたかのような状況なのに。なんで。なんで...


「なんであなたは...そんなに強いんですか...ひっく...わぁ、わたしなんて、泣いてばかりで結局何もできなくて...」




------その時軽く頭を撫でられた。前からは彼のすすり泣く声が聞こえる。




そうか。この人は。どんなに辛くても前を向いている。どんな困難でも立ち向かう勇気を持っている。どんだけ突き落とされても這い上がる事を諦めていない。そんな彼だからこそ、私の心をここまで包んでくれる...。


------その時上から光が差し込んできた。


(心が少しずつ晴れていくのがわかる。そんな優しくされちゃうともう死ねないじゃないですかぁ...。)


私はここで、なにかが切り替わった。気持ちの区切りが着いたのかもしれない。全部じゃないけど。前を向けるくらいには身体がスッキリしていた。



------------------------------



彼は頭から手を離した。



「なぁ、頼むからさ。死ぬなんてやめて考えなお...「わかりました」......え、ほんとか!?」


「はい。あなたにここまで言われたんです。少しは這いつくばって見ようかと思います!どんなに無様でも見苦しくても。あの人たちを見返せるくらいに私は強くなります。」


すると彼女はぎこちない笑みを浮かべてくれる。俺はたったそれだけの笑顔で今日の出来事が報われた気がした。


------「雨、止みましたね?」


「そーだなー、通り雨だったのかな〜」


「困りましたねぇ、これからどうしましょうか」


横を見るとシワを寄せて困り顔で唸ってる彼がいた。


...ドクン


え...


今のなに...?


なにこの気持ち。心臓の鼓動が速い。どうしたんだろ。


「あっ、こんな時間...戻らなきゃ!!やっべ!次の授業すっぽかしたら殺される!それじゃあまたな。元気でな?いつか強くなってまた会える事を祈ってる。」


「あの、まって!名前だけでも教えてください!!」



「《 如月隼斗 》だ!じゃーなー!!」



「あのー!!!...はぁ。」


行ってしまいました。私の心を動かすだけ動かして先にいなくなるなんて。でも...



「如月隼斗くんかぁ。」




私を地獄から救ってくれた王子様。そんな彼に...





-------初恋をしてしまいました。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る