第43話
【新異世界マスター情報】
山田登。黒所属。(ヘルヴィウム担当)
-メイン世界-
『世界はたくさんの想いでできている』
-二つ名-
天照大神命名、陽の者。
-召還-
青龍の鍵。(依り石・タンザナイト)・右手首
玄武の鍵。(依り石・黒水晶)・両足
白龍の輪。(未石)・右手首
麒麟の導き。(未石)・心
天照の輝き。(未石)・首
-スキル-
神獣使い。未石召還。真実の瞳。
-未分類-
高潔な青龍。(仁の水晶)
-貸し出し-
『神声』。(カウンター未設定)
*随時更新予定
登が異世界に戻ると、タブレットが振動した。
「……ヤバくね? 一旦帰宅するか」
「そんな簡単に帰すわけないですよ」
「だな」
登をガッシリ掴むのは、ヘルヴィウムとクライムである。
「この情報に関して何か報告することは?」
ヘルヴィウムがニコニコしながら言った。
不気味なニコニコ顔である。
「いやあ、これってば異世界マスター協会が大騒ぎ案件だぞ」
クライムはニヤニヤしている。
癇にさわるニヤけ具合だ。
その時、タブレットが振動する。
「たぶん、呼び出しでしょう。ん? 違いますね」
【引退マスター復職情報】
異社会保険組合ザガン。銅所属。(黒に派遣)
サポートマスターとして復職とする。
登とヘルヴィウム、クライムは互いに顔を見合わせた。
「よっ!」
三人に声をかけるのは、もちろんザガンである。
老村から出てきたザガンが三人に手を上げた。
ワープでやってきたのだろう。
「登、久しぶりだな。んで、この前はありがとな」
ザガンが登をハグする。
「ちょ、やめてください!」
「いやあ、まさか『神声』に取り込まれて実態がなくなるなんて思ってもみなかった」
どうやら、ザガンは『神声』の被害者だったようだ。
「お前が助けてくれなきゃ、俺らは透明人間のままだったからな」
「ザガンさんでしたか」
登は狭間世界で透け透けの影を思い出す。その一人がザガンだったのだ。
「呼び出しでなく、サポートマスターが派遣されたのはなぜです?」
ヘルヴィウムがザガンに問う。
「三人とも呼び出したら、黒の業務が滞るだろ?」
黒所属は、現在三名だけなのだ。
他の色は系列色含め、多くの異世界マスターが在籍しているが、黒だけは増えない。やっと、登が入ったばかりである。
「確かに、ここ最近本業以外で手間取って、異世界マスターとしての業務が滞っています」
ヘルヴィウムが腕組みしながら言った。
「そんでよ、登の異世界マスター研修は俺が担当するから、二人は滞った業務を優先してくれ」
ザガンの言葉に、ヘルヴィウムとクライムが頷く。
「そうですね、その方がいいでしょう。ザガン、お願いします。クライム、さっさと業務遂行しましょう」
二人がゲートを開く。
「登、何かあったらタブレットで」
黒所属の三名だけのグループで連絡を取り合える設定を、タブレットでしてある。
『ヘーグルクラスルーム』というふざけたものだ。
登は肩を竦めて二人を見送った。
「さてと、まずは登の創造世界に案内してくれ」
「了解」
登はゲートを開き、ザガンと共に潜った。
泉のほとりに青空教室が開設された。
教師はザガン、生徒は登。おまけにウィラスである。
なぜか、鍵の青龍や高潔な青龍も登の両サイドに陣取っている。
麒麟と玄武は、願いの泉に浸かって気持ち良さげだ。
そして、なぜか天照大神がハンモックで揺れながら授業を見学していた。
「……」
ザガンの視線が遠い。きっと、登と二人で研修をするはずだったに違いない。
まさか、神様やら神獣が勢揃いされるとは思ってもいなかったのだろう。
「……ザガン、始めてくれ」
登は未だに遠い視線のままのザガンに言った。
ザガンがハッとして登を見る。
「お、おおよ……ゴホン」
やっと、現実に戻ってくれたようだ。
「えーっと、まずは……」
皆の視線がザガンに向けられて、ザガンの頬がヒクついた。
「青赤黄白黒以外の異世界マスターカテゴリーなんだろ、ザガンってさ」
登は、この状況を飲み込めていないザガンを促した。
「そうそう。えっとな、異世界マスターってのは基本は五色に色分けされている。五色は現役ってやつな」
「じゃあ、ザガンのように引退した異世界マスターは銅所属になるのか?」
話の流れから考えれば、そういうことになるだろう。
「大体合っている。引退マスター全員が銅に所属するわけじゃないんだ。サポートマスター登録をした者のみが銅に所属することになる。異社会保険組合で引退保証の話をしたのを覚えているか?」
確か、引退保証をつけると現実世界に戻れるとかいうものだった。
「羽左衛門のだろ?」
羽左衛門は引退保証を契約していたから、現実世界の生を全うできるのだ。
反して、ファレイアは引退保証を契約していないので、『記憶飛ばし』の現実戻りが濃厚だった。
「その『記憶飛ばし』ってさ……」
現実世界の映画を、登は思い浮かべていた。
ザガンが懐からライトを取り出す。
強烈な発光ライトを浴びると、記憶が消えるというアイテムである。
異世界マスターとしての記憶が消えるのだ。
「まあ、最近では引退する異世界マスターのほとんどが『記憶飛ばし』の現実戻りを選択する。普通に戻る選択をするんだ。異世界で過ごすと、普通に生を全うすることがいかに素晴らしいことか身をもって知ることになるから」
登は考える。もし、自身が引退することになったらと。
登自身は普通の生ではない。普通ってことが、登には元々実感のないものだ。
今、この異世界で経験したことの方が、登の人生において最も濃くて色あせないものである。まだ異世界マスターになったばかりだが、ここで多くのことを学んだ。
「俺は、『記憶飛ばし』を望まないけどな」
「ああ、俺と同じだな。羽左衛門もそうだ。『記憶飛ばし』を望まない者は、引退すると現実世界か異世界籍かを選択できる。俺は異世界籍を選択して、羽左衛門は現実世界を選択した。引退保証の主たるものは、引退するときに望む籍を得られる保証なんだ」
さらに、ザガンは続ける。
研修らしくなってきた。
「引退保証のオプションで、サポートマスター登録ってのがあるわけよ。サポートマスターってのは、引退異世界マスターが請け負うことになっている。新人異世界マスターのサポートが主な役割だ。今さ、生み出され続ける異世界の管理で、異世界マスターはてんてこ舞いなわけ。所属長が新人を研修するんだけど」
ザガンが登を見て肩を竦めた。
「うん、わかった」
黒のように多くの異世界を管理するところは、新人研修まで手が届かないのだ。
もちろん、黒だけではないのだろう。系列色として、細分化されればされるほど異世界の管理はスムーズになるが、それを担う人材の育成に時間が割けなくなるようだ。
「それに、異世界マスター召喚されても、ここに馴染まない者もいる。受け入れられないんだな、異世界ってのが」
登は浦島友也を思い出した。友也は異世界マスターではないが、ヘルヴィウムのモンスター天国に恐れを成していた。
現実世界の人間が、この異世界を理解するには根底を覆さなければ無理だろう。それこそ、物語の中に転生した主人公のようなことが、自身に起こっていると理解できるか。
簡単に人が殺され、騙される物語の世界。魔物や神獣が存在する世界。脳内のキャパがオーバーする者がいてもおかしくはない。
安全な日本から、内戦の戦地に真っ只中に突如放り投げられたような感覚に襲われるのだ。
「それで、『記憶飛ばし』が必要なんだ。順応できない者は、これで元の現実世界に戻ってもらう。その役割も含めてサポートマスター制度が作られたんだ」
登は、銅所属ザガンの意味合いを理解した。
「今回のサポートマスターは、今までとは違うがな。登は規格外だ。本当にサポートしなきゃならない」
ザガンがタブレットを掲げた。
「『神声』カウンターをさっさと作れと、異世界マスター協会から指示されている」
登とザガンはハンモックを見た。
天照大神が、七つの珠をジャグリングしていたのだった。
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