第37話
「今後の異世界は変容していくことでしょう」
ヘルヴィウムが言った。
「さて、我は登の元に向かおうかの」
天照大神が言ったと同時に姿が薄くなっていく。
「お待ちください!」
ヘルヴィウムが叫んだが、天照大神の姿は消えていた。
「また、強制の未石召喚を登に行わせたのでしょう。クライム、私たちも行かなければなりません」
「そうだな、登を……俺らの仲間を迎えに!」
ヘルヴィウムとクライムの願いを受けたのだろう、願いの泉が渦を巻き始める。
ヘルヴィウムとクライムは飛び込んだ。
登は、苦しげに首を擦る。
「照らす時、出でよ、天照大神!」
肩で息をしながら、登は天照大神を召喚した。
「すまぬの」
天照大神が登の額に触れ、疲労を回復させた。
「ここか、あの陰の者の墓は」
天照大神が言った。
「陰の者?」
登は眉を潜めて問うた。
「登は陽の者、仁は陰の者。仁は、陰陽師じゃからな。物事に陰陽を当てはめていたのじゃ」
「陰陽師……平安の者か」
始まりの清き乙女の町の出で立ちを思い出す。
「っていうか、なぜここへ?」
登は天照大神に訊いた。
「始まりの者同士でしか分からぬ感情があろう?」
天照大神が『お前は一人じゃない』と朗らかに笑んだ。
「想いというのは厄介じゃ。なんの犠牲も伴わない想いなど存在せぬのに、人はそれさえ綺麗な物語(想い)としてしまうよの」
天照大神の初めて見せる苦笑いに、登も自嘲で返した。
「俺は、『仁の想いを受け継ぎ、世界を救う!』とでも宣誓すれば良かったのだろうな。端から見れば、綺麗な物語。完結の台詞になるのかもな」
「終わらぬ物語(想い)も、終わりとなる物語(想い)も残酷よの」
終わらぬからこそ縛られ、終わるからこそ縛られるのだ、想いに。
「現実世界は、自身の意思で生を紡げる。我々は、その意思により生まれた存在よ。我はずっと天照大神のままじゃ。天照大神であり続けねばならぬ。その想いで生を紡いでいる存在じゃからの」
「……演者のようだな」
登は呟いた。
「演者は、舞台が終われば自身の生に戻れるが、我らは……この異世界の住民はずっと演者でなければならぬのじゃ」
「そっか、そうだよな……だから、俺なわけか」
登は仁ことジンの想いを理解した。いや、すでに十分理解しているからこそ、やるせないのだ。
「俺は演者のようであり、演者じゃない。意思を持って存在する……現実世界と異世界の籍を有する者。二つの世界を繋げる者であり、始まりの者。俺の存在が異世界を変容させていく」
登は宙を仰ぎながら言った。
そこに光の渦が出現する。
「来たようじゃな」
天照大神も天を仰いでいる。
「よお、登!」
クライムがいつもの調子で現れた。
そして、ヘルヴィウムも肩を竦めながら登場する。
「ここに来られたのは、赤子だった登を受け取って以来です。このジンの創造世界は、封印されていましたので」
ヘルヴィウムが少しだけ悲しげな瞳で言った。
「そういう想像を仁がして、この創造世界でジンとしての生を終わらせたからだろ?」
登はもう全て分かっているのだと、ヘルヴィウムに返したようなものだ。
「……ええ、その通りです。あの瞬間まで、私は仁の意図を分かっていませんでした」
「陰陽師らしい想像よの」
「唯一管理ができない異世界だったんだぜ、ここ」
ヘルヴィウム、天照大神、クライムと次々に言葉を紡いだ。
「俺が来ることで、石化が解け、再び息を吹き返す異世界だったからだろ」
登も皆に続く。
そして、大きく息を吐き出した。
仁が願ったことに思いを馳せる。
異世界の理が覆され、時を刻めるようになるはずだ。
「ここから、これから、何をすればいい?」
登は祠に向かって問いかけ、ソッと触れた。
その時、石の祠に亀裂が入る。
最後の封印が解かれたのだ。
ゆっくり、祠は真っ二つに分かれていき、そこに水晶が現れる。
その水晶から、龍が放たれた。
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