第25話

「今日は、天照大神様の担当の日でしたか」


 ヘルヴィウムが答える。


「ええ、明日にはイザナミノミコトの担当に変わっていたわ」


 どうやら、日本古来の神が働いているようだ。

 確かに天照大神の異世界は多く存在する。確立異世界となっているのは理解できる。

 登の目の前に、多くの天照大神がいるのだ。色んな姿形で。


 日本古来の姿の者をいれば、現代的な衣の者もいる。ここは、コスプレ会場ですか? と問いたいほどに。


「これ、お前たち」


 全身に浸透するような声の主が、奥からしずしずと歩いてくる。多くの天照大神がさっと下がった。


「彼女が最初の天照大神様です」


 ヘルヴィウムがコソッと告げる。

 登は、ぞわりと全身が身震いする。

 アンネマリーに至っては、恐れ多いとばかりに後方へ退いている。


「新たな異世界マスターの申請と、神獣の申請に来ました」


 ヘルヴィウムが天照大神に言った。ヘルヴィウムも若干いつもとは違いキリッとした雰囲気だ。


「手首を」


 天照大神が登を促す。

 登は天照大神の存在の大きさに、自然と右手首を差し出していた。


「青龍の鍵か。何やら、面白いことよ。『白龍』に『麒麟』かえ? それに……ぬしも始まりの者か」


 登は最後の言葉に疑問を抱き、天照大神を見る。


「ええ、彼は初めて二連の鍵を操り、創造得ぬ神獣を誕生させましたから」


 登は少し引っかかったが、そういう意味かと頷いた。


「して、どうする?」

「登録はしますが、『石』はまだですので貸出し不可でお願いします。それから、タブレットの支給も」


 最初の天照大神が軽く手を上げると、いっせいに他の天照大神らが動き出した。


「世界は創造したか、陽の者よ?」


 天照大神が登に向く。


「陽の者?」

「名の姿が、我にはそう見えるのでな。そちは我にとっては陽の者よ。名は世界を跨ぐと変容する。法名もそうであろう?」


 仏様になり、極楽浄土に向かうときにお坊さんから授かる名のことだ。


「新たな陽は登る。昇るではなく登る者よ。始まりの創造世界はあるのか?」


 天照大神の言葉を、登は雰囲気でしか理解できなかった。問いたい気持ちもあったが、言葉にはできない。


「登はすでに、創造世界を生み、管理しています」


 ヘルヴィウムが代わりに答えた。

 登はさっきから違和感を覚えている。

 天照大神の言葉への返答が、何か違っているような気がしていた。だが、ちょっとした違和感でしかない。引っかかる程度だ。


「見せてくれ」


 天照大神が登の額に手をかざした。


「……なるほど、なんと素晴らしい世界よ。穢れなき生まれたての世界。陽の者、岩戸を頼む。そちの世界なら我は住めよう」


 ざわめきが起こった。


「天岩戸?」


 登はうろ覚えの日本神話を思い出す。


「天照大神様、まずは遊びに行く程度がよろしいのでは?」


 ヘルヴィウムが口を挟む。


「そうよの、そうしよう。ワープ職人をすぐに」

「それには及びません。登は想像し創造できる者です。しばしお待ちを。必ず、知らせを出しますから」


 何やら、ヘルヴィウムが焦っているように登は感じた。


「そうか、ならば待つとしよう。出張る場が増えるのは嬉しいことよ」


 天照大神がそう言って、登の首に手を伸ばした。


「え?」


 登は天照大神に首を掴まれたのだ。


「天照大神様!」


 ヘルヴィウムが焦った声を出す。

 天照大神は、姿が半透明になり登の首に光る輪が浮かび上がる。

 ウィラスの時に経験した感覚だ。

 登の首に、数珠のような輪がクルクルと回っている。


『面白いことよ』


 脳内に響いたと同時に、光は弾けて天照大神が目前に現れた。


「何、少し遊んだだけぞ」


 周囲の焦りを気にも止めず、天照大神が愉しげに言ったのだった。




 さて、異世界管理組合から『ヘルヴィウムのモンスター天国』にゲートを潜った。


「はぁぁぁぁ」

「ふぅぅぅぅ」


 ヘルヴィウムとアンネマリーが大きく息を吐き出して脱力する。


「おいおい、どうした?」


 クライムが首に紐を括りつけた人面コウモリを何十羽も持って近づいてくる。コウモリでなければ風船お兄さんと呼べそうだ。

 アンネマリーが腰を引いているが。


「アマテラスカウンターだったのよ!」


 アンネマリーが大声で伝える。コウモリは苦手なのだろう、逃げ出して老村に入った。


「もしかして、最初の天照大神様が直々に対処したとか?」


 クライムがそんなことはないだろうという口ぶりで言った。


「そのまさかです」


 ヘルヴィウムが答えたと同時に、何やら懐が振動した。

 登は懐の無限仕様のポケットからタブレットを取り出す。ヘルヴィウムもクライムも同じくタブレットを確認した。


【新異世界マスター情報】

山田登。

黒所属。(ヘルヴィウム担当)

天照大神命名、陽の者。

青龍の鍵。(依り石・タンザナイト)

白龍の輪。(未石)

麒麟の導き。(未石)

天照の輝き。(未石)

創造世界在り。(未ワープ)

神獣使い。

*随時更新予定

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る