第24話

「さて、異世界管理組合に着きました」


 話しているうちに、目的地に到着したようだ。

 登は大きな建物を見上げる。


「なあ、これっていわゆる天空城?」


 建物は浮いていた。遠くから大きく見えたのは、五階分ほど上空に浮かんでいたからこそであろう。


「あの世界観には脱帽よね」


 アンネマリーが感嘆を漏らしながら言った。天空城の世界観とは、いわゆる勇者が主人公のあれだと思われる。

 どの想像にも、それなりに登場するのが天空城だろう。


「まあ、心躍る想像ですね」


 ヘルヴィウムも追随した。

 登は見上げて入口を探すが、どこにも見あたらない。


「ところで、どうやって入るわけ? あ! ゲートか」

「いえ、ここはあれで入るのです」


 ヘルヴィウムが地上にある四阿を指差す。天空城の真下はシンメトリーの庭園になっており、四方位に四阿があった。

 登は首を傾げる。


「近くに行けば分かりますよ」


 ヘルヴィウムに続いて一番近くの四阿に向かった。

 レンガ造りのお洒落な四阿だ。

 中に入ると……渦巻きが光っていた。

 登は、これをなんというか知っている。


「ワープかよ」


 言わずにはいられない。ポーションと同じく本物を目の前にしているのだから。


「あの発想も称賛ものです。あれ以前は『何処でも扉』を採用したこともありましたが、何せ扉ですしね」


 登は老村時と同じく突っ込まないでいた。


「このワープ体制を、登の創造世界でも整えなければいけません。アンネマリーが行き来できるように」

「はい?」


「異世界住民が他の異世界に移動するための体制ですから。アンネマリーもクライムの管理する令嬢の巣窟から、ワープで老村にバイトに来ています」

「巣窟じゃないわ! ほんわか楽しい令嬢牧場とせめて呼んでほしいわ」


 アンネマリーが口を尖らせる。せめてと言うことは、ほんわかなどしていないだろう。それこそ、大奥や後宮のようなドロドロした戦いを想像させた。

 登は若干引きつり笑いを溢すしかない。


「つまり、ゲートを開かなくても異世界住民は移動できるわけか」

「異世界マスターの創造世界と、居住確立異世界、組合や協会等の創造世界だけですがね」


 登は頷く。


「了解。想像して創造すればいいのか?」

「ワープは専用の職人がいるのですが、登は創造できそうですね。ワープの申請もこの異世界管理組合に出さねばいけないのです。それによって、他の異世界マスターに情報が共有されますから」


 タブレットに全送信されるのだ。


「では、行きましょう」


 登とヘルヴィウム、アンネマリーは青く光る渦巻きに一歩踏み出す。

 一瞬にして視界が変わった。




 待合椅子が並んでいる。

 異世界マスターが札を持って座っていた。

 前方の掲示板に番号が表示されると、異世界マスターがゾロゾロと移動する。


「○○番、青所属マスター、ジン様。申請の『石』はこちらで間違いはありませんか?」


 引換所とかかった札の下で、異世界マスターが『石』を受け取っている。

 登はその光景を現実世界でも見た。


「市役所みたいだな」


 もしくは病院の会計のような感じだ。


「あのシステムを参考にしましたから」


 天空城が市役所かと、登は少しだけ残念な気持ちになる。夢が覚めたような感じだ。


「ここ五階は、一般的なモンスターを貸出すところになります。六階はレアモンスター貸出し、七階は一般的な諸々の申請を受け付けています。つまり今日の目的地です。八階が神獣貸出し所になります」


 ヘルヴィウムの説明に、登は頷くしかない。


「さて、ワープロビーに行きましょう」


 エレベーターロビーのような言い回しに、登は内心突っ込んでいた。

 貸出し所の奥へと進む。


「……コンビニか?」


 老村とは違うコンビニがあった。看板には『七百十一』つまり『711』のことだろうが、登は老村と同じく突っ込まない。


「ここは異世界管理組合が運営する七百十一の商品を取りそろえているコンビニです」


 ヘルヴィウムの老村とは取り扱う商品が違う。派遣するモンスターや人材用の物が主流のようだ。

 衣服が陳列されているのが珍しい。ドレスやメイド服、単なる布の服やミスリルのローブなども並んでいる。


 コンビニの奥にATMが並んでいる。

 そこには、さっき話に出ていた異世界住民が列を成していた。


「私の給金、弾んでね」


 アンネマリーがウィンクする。

 登は苦笑いを返すしかない。


「タブレットと連携して送金できますから、よろしくお願いしますね」


 ヘルヴィウムが言った。


「費用の相場が分からないんだけど」

「あとで、給金表はタブレットに送信しておきます」


 登は頷く。


「心付けを忘れないでね」

「もしかして、チップ?」


 アンネマリーがニッコリ笑んだ。


「あ、はい」


 笑みの重圧に屈する以外に登が、アンネマリーからの視線に逃れる術はないのだ。


「行きますよ」


 ヘルヴィウムの後を追う。ATMの横を通り、奥へと進んだ。

 円形のホールのような広場が現れ、数字が浮かぶワープが壁に沿って幾つも並んでいる。

 上から見れば、大きな円周に小さな円が並んでいるように見えるだろう。


 中央の床に案内が表示されている。さっき、ヘルヴィウムが説明した何階に何があるのかを案内している。

 ヘルヴィウムの説明より詳しい各階の案内がある。


「おいおい、覚えてください」

「了解」

「秘書に聞けばいいわ」


 アンネマリーが胸をはった。

 登は、秘書をつかせたヘルヴィウムとクライムの気遣いにやっと気づいた。

 登の疑問や問題を、アンネマリーに伝えれば解決への道筋を開いてくれるだろう。何せ、異世界の先輩なのだから。

 スキル『令嬢の微笑み』を操れる実力者なのだから。


「では、行きましょう」


『7』と光るワープに足を踏み入れる。

 一瞬で視界が分かるのは経験済みだ。

 五階の貸出し所とは違い、申請の種類によってカウンターが違う。これも現実世界の市役所に似通っている。

 足下に色違いの案内表示がある。幾つもの線を乗り継ぐ電車のような案内表示だ。


 青が住民登録の線で、赤がモンスター登録の線。それを辿っていけば、申請カウンターに辿り着くのだろう。

 その他に、ギルド申請やら異社会保険組合出張所やらと多くの案内色がある。


「俺らは……これか」


 真っ黒な線の上に四神獣が描かれている線があった。

 ヘルヴィウムが先に進み、登とアンネマリーはついていく。

 黒光りするカウンターへと案内線は繋がっている。漆のカウンターは螺鈿の細工が施されていて、特別感が半端ない。

 いかにも過ぎると、登は内心思っていた。


「まあ! ヘルヴィウムさん。本日はどのようなご用件で?」


 カウンターにいた女性が明るい声をかける。

 その声に反応して、カウンター奥からゾロゾロと女性が現れた。


「ようこそ、アマテラスカウンターへ」


 皆がいっせいに言った。



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