第二夜「魔法つかい、斎月くおん」(Aパート)①

 誰にも見えない。

 誰にも聞こえない。

 斎月さんに抱きかかえられ、日の暮れて月の光の射すビル街を駆け抜けることしばし。

 ビル群の途切れた、線路沿いの造成地。

 そこでぼくはようやく、地上に降りることが叶ったのだった。


 斎月さんによる抱っこ状態での移動というのもそれなりに趣があるものではあったけれども、多少ふらつくものの、自分の脚で地面に立てるというだけのことがこれほどありがたいと思ったことはついぞなかった。

 その斎月さんはと言えば、いつの間にやら件の狩衣風の戦闘服から、最初に彼女を見たときのブラウスとプリーツスカートの姿に戻っていた。


 そして現在、ぼくのすぐそばに立っているのはまあともかく。例の白刃こそ掌にはないものの、注意深く周囲の様子を伺っている。

 どうもまだ彼女が警戒を解ける状態ではないらしく、ぼくも余計な口は挟まずに、彼女の次の動作を待つことに徹していた。


 尚、重大な問題が一つあって。

 斎月さんが、ぼくのすぐ傍に張り付き、しっかりとぼくの右手を握りしめている。

 まあ、状況から察するに、何があっても即座に動けるようにとか、手を握っていればぼくが不用意なアクションを起こすのを防げるとか、――あとは、ぼくを安心させたいとか、そういう意図のものであろうと言うことは分かるのだが、あまりにもその度合いが過ぎている。


 これではまるで、――まるでぼくを逃がすまいとしているようではないか。


 人気のない日暮れの造成地。

 小学生の女の子と手をつないで二人きり。

 しかも、未だに彼女の上着を肩から羽織っている。

 ……絶対に、人に見られたくない姿だった。


 まあ、ぼくは現在、制服の上着がぼろぼろに裂け、自分で流した血で赤黒く染まってしまっているので、そもそも人前に出られる状態ではないのだが。

 そして、ふとに気になってみれば、斎月さんの方は上着をぼくに貸してしまったせいで、一筋の汚れもない真っ白なブラウスと、プリーツスカートだけの姿になってしまっている。

 いかにも寒々しいいでたちでであるし、同時に、強くこうも思う。


 ――ああ、こんなにも小さな子だったのか。


 ブラウスの襟元から除く首のラインも、スカートとソックスの間に見える両脚も、白く、折れそうにか細くて、痛々しいほどで。


「あの……これ、返しましょうか?」

「いけません」


 ……いい加減罪悪感が酷くなってきたので、せめて上着を返させてもらおう、と思ったのだが、どうも彼女にしてみれば、さっきの物言いによるなら「優先順位が上」なことらしくて、ぴしゃりとそれは断られてしまい、引き続きこの、彼女が着れば膝くらいまでの丈になるだろう、いかにも女の子物らしい刺繍やフリルがついた白い上着を肩からかけていることを薦められる。


「……まだ、それを羽織っていた方がいいです。わたしのことは、気になさらずに」


 そういわれてしまっては、ぼくは彼女の好意に甘んじるしかなく。

 さっきまでのやり取りからすればまた嫌味の一つも降ってきそうではあったけど、びゃくやはと言えば、上空を旋回し、定期的にカラスの声で何事か斎月さんとやり取りしているのみである。


 例の合成音じみた声にももう慣れてきたし、あの声で混ぜっ返すように当てこすりでも言われていた方がまだ間が保ったのではという気さえ今はしている。

 彼女だけが一方的に気を張り詰めさせ続け、懸命にぼくに気を使ってくれているというのがひしひしと感じられるこの状況が、どうにも辛い。


「……あ、もうすぐ車が来ることになっていますから、それまで、少し待ってください」

 と、またしても、斎月さんがぼくの心中を察してくれたようで、そんなことを教えてくれた。

 ああ、そういえば、たしか最初会った時にもそんなことも言っていたな。

 ……何もかも、もう今更だけど。


 あの公園でびゃくやを見つけ、彼女と知り合った。

 そんな事さえ、何か随分と昔のことのような気がする。


「あの、斎月さん」


 おずおずと、彼女に声をかけてみた、そんな時だった。


「クァァッ!」


 ひときわ甲高い声を上げ、羽ばたきの音をさせながらびゃくやが舞い降りてきた。

 さっきまでは彼の声も人の言葉に聞こえていたのだが、今は普通にギャアギャアと鳴いているようにしか聞こえなかった。


 一瞬、もう彼の言葉が聞き取れなくなってしまったのではないかという疑いを抱いてしまう。

 ぼくが彼と会話できること自体イレギュラーな事であったみたいだし、何かの間違いで彼の言葉がわかるようになっていたというならまた突然判らなくなる。ということだって当然あるわけなのだから。


 が、すかさず斎月さんが

「びゃくや、わたしたちに判るように言って」

 と、眉を顰めながら言うと、びゃくやはいかにもしぶしぶと言う語調で、

「……車だ、来タ」

 短く、そう告げた。

 その一言は問題なくぼくにも聞き取れた。

 つまり、彼はぼくと口をききたくなくて斎月さんにしか判らないようにカラスの鳴き声でやり取りしていたようだ。

 どうも、本格的に彼の機嫌を損ねてしまっているらしい。

 まったく、そもそもの状況把握が未だ不十分ではあるのだが、ぼくというのは彼女らにとってよくよく厄介物であるらしい。


 そうして、彼の言った通り、砂塵を蹴立てて、造成地の斜面を登り、エンジン音を響かせ、ヘッドライトを輝かせて一台の車が近づいてくるのが見えた。

黒いリムジンだの、軍事用のトラックだのを想像していたものの、そういうことはなく、買おうと思えばかなり値の張るグレードのものらしくはあるものの、ごくごく普通の、市販の乗用車だった。


 斎月さんが軽く手をあげると車はスピードを落とし、ぼくたちの目の前で停止した。

「結構、普通の車なんですね。もっとすごいの想像してました」

「……そういうのもありますが、今日はこちらです、街中を通りますので」


 ああ、なるほどそういうものだろうと頷いていると。


「とットと乗リタまえ!」


と、頭上から刺々しい声が聞こえてくる。


「いや、そんな風に言われても……」

 あきらかに精一杯気を使ってくれている斎月さんはともかく、さすがにこう急かされるとこちらからも問い質し。抗弁したくなる。

 この車はどこに行くのかとか、そこにいけば安全なのかとか。が。


「――今からあなたを、わたしの家にお連れします。そこに着くまでは〝安全〟ではないと考えてください」


 と、話がこじれる前に斎月さんが端的に聞きたかったことは教えてくれたので、それは口の中に収めた。


 運転席を見れば、黒いスーツに身を包んだ、目つきの鋭い無表情な女性がハンドルを握っている。

「あ……じゃあ、失礼します」

 とりあえずそう声をかけてみるけど返事はなく、

「そうイウのいいから」

 普通に車内に乗り込むようびゃくやに促されて、特に目隠しだのをされるということもなくバックシートに腰を下ろす。


 次いで、斎月さんがぼくの隣へと乗り込んできた。

 びゃくやが斎月さんの膝の上にその身を落ち着けたのをもって、斎月さんは、

「お願い」

 と指示を出す。運転席の女性は無言のまま一度頷いてアクセルを踏み込んだ。


 車を走らせている間。斎月さんもぼくも、一言も喋ることはなかった。

 ぼくが黙っているのは、彼女がまだ警戒体制であるというのが如実に伝わってくる以上余計なことは言わない方がいいであろうと判断したからだが…。

 ――なんで、ぼくは手を繋いだままなのだろうか。


「斎月さん、――その」

「……はい、どうかなさいましたか?」

 目線を窓ガラスに向けたままの斎月さんに、そっと声をかけてみる。


「手が、痛いです」

 ずっと握られっぱなしのぼくの左手は、先端の血行が止まって白くなっていた。


「え……? あ……!」


 斎月さんが声をあげる。

 大人しげで、行儀のいい態度を崩さない彼女だけど、この時ばかりは少々狼狽えてしまっているようだった。

「その……すみません……わたしは、その……」

「あ、いえ……別に、それほど痛いというわけでは……」

 クールなポーカーフェイスはそれほど乱していないのだが、さすがに彼女も大分気まずかったらしく、しばらく俯いた後、再び窓の外へと目を向けてしまう。

「一応、これは、必要な、こと、ですので……」

 切れ切れにそういうその姿にぼくは、本当にあれだけの戦いぶりを見せていた少女と同じ子なのだろうかなんて思うと共に、これだけ世話になっておいて誠に失礼なことながら、


「この子、かわいいな」


 なんてことすら、思ってしまったりもした。


「何をやっテルのかね、君たちは」


 斎月さんの膝の上からはそんな声が聞こえてきた。


「黙って」

「黙ってください」


 奇しくも、似たような台詞が、ぼくと斎月さんの口から同時に飛び出していた。

「――着きましたよ」


 数十分車を走らせ、市街の中心部から少し離れた山の手の宅地で到着した、斎月さんのご自宅。


 とりあえずは、まあ動物病院ではなかった。


 そして、こちらは多少予想していたのだが、とんでもない豪邸であった。


 敷地もかなり広大だし、周囲に木々が立ち並び、森の中に建っているような印象を見る者に与える佇まいは、文化財だの史跡だのに指定されていてもおかしくないような歴史と風格を感じるものだった。


 それも映画のセットのようなものではなく、丁寧に管理して、修復と補強を続け、長い年月をそこに住む人とともに過ごしてきたものだという重みと温かみみたいなものさえ持っている。


「ご苦労様」

 車庫に着けた車から降りた斎月さんが労いの言葉をかけると、黒いスーツの女性はぺこりと会釈を一つすると、――そのまま目の前で、一枚の紙となった。

 ひらりと斎月さんはそれを掌に収めると、綺麗に折りたたんで懐へと納める。


「……もう、何でもアリですね」

「そうですか?」

「この程度で驚いテイたら、こレカら先、もット悲しいことがいっぱいあルゾ、きみ」


 どうやらそういうものであるらしい。

 彼女らとぼくの認識の違いに愕然とする。

 これから先のことを考えるとどうしたものやらだが、後悔だけはするまい。

 ……何があっても、ぼくは彼女に従うと決めたのだから。

 ああ、そういえば。

 女の子の家に招かれたのは生まれて初めての経験だった。


 よっしゃあ。


「……では、どうぞ中へ」

 促す斎月さんに、一度訪ねてみる。


「えっと、斎月さんの家族の人とかは?」


 一応聞いておかなければなるまい。

 いきなり口封じされるようなことこそなさそうなものの、この流れだと、どうしたって十分かそこらで説明してもらい、簡単なアフターケアで済むという話ではないようだし。

 そうなれば、彼女の家族とも顔を合わせるだろう。

 少なくとも、ぼくだったら愛娘がいきなり血まみれの男を家に連れて帰ってきたら平静ではいられまい。


 大体ぼくはそうでなくても義父譲りであまり他人から信用される男ではないのだ。

 下手をすれば袋叩きだ。


 そんなことを考えていると、斎月さんから


「いませんよ」


 と、短くそう返された。


「この館にいるのは、わたしとびゃくや、それと今日から御剣さん。その三人だけです」


 その声は、特に何ら感慨がないものであるかのようなもので、普段口癖のようになっている、「すみません」とか「ごめんなさい」とかの言葉さえ出てこなかった。

 とりあえず無言でいることもできなかったので、


「――そうですか」


 と、彼女の後について廊下を歩きながら、そう返しておいた。

「ええと…ここが食堂です。どうぞ、テーブルの好きな席についてください」


 斎月さんに連れられて館の中を案内され、導かれたのは、紹介されたとおりの広間だった。

 外観から見た通り、いやそれ以上に、内装の方も立派なもの、大した御殿だ。

 壁や柱などの仕上げも、並べられている調度品や敷かれている絨毯、壁や棚に飾られている美術品も、その一つとってもミツヒデさんが毎月どこから用立ててくる額では到底手が届くまい。


 こういうものの価値を金銭でしか判断できないというのは恥ずべきことだけど。最初に思ったのはそんな事だった。


「それとも…それとも、お話しするのはわたしの部屋での方がいいでしょうか?」

「え……? あ……い、いいえ」

 多分間抜けな顔で周りを見回していたのであろうぼくにかけられた、その微妙にずれた申し出に、ついこちらも戸惑って母音だけしか口にできなくなってしまったものの、

「い……いえその、すみません、ここで結構です」

 かろうじて、そう答える。さすがに女の子の個人部屋にこんな時間に上り込むわけにもいかないだろうし。


「くおん、こウイう年の男性は、伴侶でもない女性の部屋に気安く上ガロうとはアマり思わナイものだ」


 捕捉するようにそう言ったびゃくやに対して、斎月さんは得心が出来たという風に頷いた。


「――そうか。すみません御剣さん、どうも気が回らなくて」


 いや、むしろさっきから、あなたは大回転でしょう。

 気まずくなってしまわなかったことに、びゃくやに対して感謝しなくてはいけない。

 彼が気にしてるのは、斎月さんの面目のことだけだろうけど。


「では、何か飲み物を用意してきます、待っていてください。びゃくや、御剣さんを見ていてあげて」


 言い残して、斎月さんは踵を返し、食堂から出て行ってしまう。

 広い食堂に、ぼくとびゃくやだけが残される。


「あー……もっとこう、すぐに大がかりな精密検査みたいなことをされるかと思ってました。けど、いいんですかね、たとえば……」

「カァ……」

 と、二人だけで部屋に取り残されると、何だか急に間が持たなくなってくる。

 とりあえず話しかけてはみるものの、返ってくるのはあたりまえのカラスの鳴き声だけで。


「あの……それ辞めてもらえませんか。もうあなたの言葉判らなくなっちゃったんじゃないか。って不安になるから」

「――調べナクてもわたし達は知りたいことはもう知っている。君が聞きたイコとはくおんから聞きタマエ。話すか話さなイカ、彼女が決メル」


 ――そういうことだそうなので、それ以上話しかけるのはとりあえず慎んだ。

 

 そのまましばらく待っていると、斎月さんが戻ってくる、手には、銀のプレートと白いマグカップがあった。


「ハーブティーにしようかと思いましたが、好き嫌いがありますので、ホットミルクにしてみました。好みで蜂蜜を入れてください。体が温まりますし、気持ちも落ち着くと思います」


 カップを受け取りながら、とりあえず尋ねてみる。


「……ええと、安全かどうか。っていう問題は、ひとまず解決された。……そう取ってもいいでしょうか?」

「まあ、そうなります」

 銀のプレートをテーブルに置き、椅子に腰を下ろしながらカップを持つ斎月さんは、この屋敷の住人であるということに似つかわしい、少し冷たいけどどこか不思議な気品のあるお嬢様、と言う雰囲気で、さっきまで見せていたような、作ったような笑顔もいまはない。


 ああ、この子は、どちらかというとこっちの雰囲気が地なのか。

 ということは、やっぱり、さっきまではかなり無理をさせてしまっていたようだと、申し訳なくも思う。


「では、話を初めてもよろしいですか?」

「じゃあ、お願いします」


 そう応えてからカップを傾け、暖かい液体を流し込んでゆく。

 ほのかな甘みが胃に伝わり、多少なりとも緊張をほぐした。


「では、まず、わたし達が何と戦っていたのか、そこから説明したいと思います。今の段階では、あなたからすればわたし達が魔法つかい同士で勝手に殺し合いでもしていて、それに巻き込まれたのではないかという受け取り方もできますから。それではそもそもわたし達を信用していただけないだろうというのが理由です」


 まあ、もしも、彼女というよりも、彼女の言うところの魔法つかいがそういうことをする種類の存在であるなら、彼女がわざわざぼくを助ける必要はないだろうし、今のところ思いついてもそれは端から思考の中で切り捨てていたのだが。


「また、私たちの存在は、そもそも根底からしてそこに立脚しているからです」 


 それには頷ける。

 さっき見せてもらった、彼女のいかにも正義の味方然とした姿が、実際にその通りのものであるとして、そういったものは大体において、襲ってくる敵がいることを前提にしてなりたつものであるから。


 ――それが別の正義であろうが、敵には敵の事情があろうが、一切関わりなく。


「――ウィッチ。それが、さっきあなたも目にした」


 少し間をおいて、斎月さんはどこか苦しげな声で、思い切って口にするように、その単語を発した。


 〝ウィッチ〟――それはまるで、〝死〟とか〝戦争〟のような、みだりに口にすべきでない言葉であるかのような口調だった。

 そうもなるだろうと思う。なにしろそれはぼくや彼女にとっての、


「――わたし達の、敵の名前です」


 それを聞きながらぼくが軽く頷いたのを確認すると、斎月さんが続ける。


「あれは、あれは、――わたしたち人類の天敵。そう呼ぶのがわかりやすいでしょうね。」


 その口調は淡々としたものであるものの、どこか辛そうなものを引きずっていて、こうしてそのくだりを人に語ること自体、彼女にとっては苦痛であるのかもしれないと思わせた。

 彼女は、アレらと、戦っている、殺し合っている。

 なら、これまでにどんな出来事を経ていても、おかしくない。

 けれど、何が彼女にそうさせるのか、彼女はそれを、自分から途中でやめることだけはしなかった。


「ウィッチは、通常の生物を素体として誕生します。特定の条件下において、生物の体内にウィッチを発生させる源となる何らかの記号のようなものが入り込み、その生物の体を作り変えることによってです。素体となった生物。行動様式、強さ、危険性、分類法は何通りかありますが、共通することと私たちにとって重要なのは、…人間を、ヒトを、活動のためのエネルギー源として捕食すること」


 そこまで言って、斎月さんは言葉を止める。


「ウィッチは、ぼくたちにとって危険な、敵対種族。いまのところは、そういう理解でいいですか?」


 その問いに、斎月さんは無言のまま、こくんと一つ頷いた。

 続けて、もう一つ聞いてみる。


「……その、いつからいるんですか。…ウィッチ。というのは」

「それは」

「いつカライるのかは我々にも判ラん」

 斎月さんに代わるようにして、びゃくやが脇から答えた。

 彼の言葉は相変わらず冷たいけど率直だ、内容はともかく、わかりやすくてむしろ助かる。


「人間が猿から人間になったのと同じ時から、とイウ者もいルガな」

「…あの、ではあなたは?あなたはどういう存在なんですか?」

「わたしカ?わたしハマあ、見た通りノコういう生き物だ」


 ばさりと左右に白い翼を広げ、びゃくやがぼくの問いにそう応じた。

 発音は癖があるが、それはどこか皮肉っぽい口調だった。


「あくまで手続きした上で、彼女のサポートを仰せつかっている。人間の味方になった元ウィッチでも、君の生き別レの兄弟でも、一周目の君ノ変ワリ果てた姿でモナいから安心していたマヱ」


「いや、そういうことはぼくも別に、期待してたわけではないんだけど」


 後は、ウィッチについて聞いておきたかったのは、もう一つ。


「それから、あいつはなんだったんですか?見たところ、蜘蛛でも蝙蝠でもなさそうだったけど」


「ああ、あれは報告によると、シーアーチンウィッチ。海栗のウィッチです」


「海栗? ……そうか……海栗か」

 そっかー、ぼく、ウニで死にかけたのか……

 何もウニを差別する気は毛頭ないし、それこそ蝙蝠や蜘蛛だったらいいというわけではないが、何か物悲しい物があった。


「不服カね?」

「いや、それはまあ、もうどうでもいいです」


 うん、それに関してはあきらめがついた。話の続きを、と促す。


「では、次に、わたし達について」

 気を取り直したように、斎月さんが再度口を開く。

 今度はあまり彼女も辛そうではないので、少し安堵する。


「わたし達は人間を守るために、ウィッチと戦う力を得た者たちの末裔です」

「それが――魔法つかい。ということなんですね」

「あまり、驚かれてはいないようですね…」

「いや。……だって、納得するしか、ないですよ」

 そう答えるのだけど、ていうか、これ、そもそもぼくが聞かせもらっていい話なんだろうか?

 そこまでのことをこんなに簡単に詳らかにしてもらえるとはあまり期待していなかっただけに、逆に戸惑ってしまう。


「……わたしは、その司令部にあたる、教皇院という機関に所属しています」

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