第17話 城塞の黄昏(完結)

 半壊した錬金術士の城塞に複合企業オブリビオンのトラックが並んでいた。

 大勢の防護服姿の男たちが動かなくなった自動人形の残骸をトラックの荷台に運び込んでいる。

 周囲は完全武装した軍事警備会社ブラック・シーの特殊部隊隊員たちが警戒していた。

 次々と城内から運び出されてくるのは用途不明の道具やら機械だ。オブリビオンは城塞の中の物を全て回収するつもりであった。


 頻繁に改築されていたと思われる地下室には部屋がいくつもあり、資料室や研究室に分かれている。その中の広い部屋には大量の蔵書と共に奇妙な生物標本が並んでいた。

 標本は深海生物にも見えたが同時に陸上歩行する生き物の特徴も備えている。恐らく生物の専門家が見ても首をひねる生き物ばかりだろう。

「一体なんだ?」

 標本をアルミケースに入れながら作業員が言った。

「余計な詮索はするな。それよりさっさと片付けろ。ここは気味が悪い」

 一緒にいた作業員が強い口調で言う。部屋は照明はあるものの薄暗く冷たい。同時になんともいえない雰囲気があり、第六感がない人間でも長いはしたくない場所だった。

 持ち出し作業を急いでいると、作業者が壁の鏡に気がついた

 大きさは2メートルを越え、壁の上の方にかかっている。取り外しには手間がかかりそうだ

「こいつも持っていくのか?」

 声を賭けられて男が鏡を見上げた

「ただの装飾品だ。放っておこう」

 作業者達は仕事に戻った。やがて蔵書も標本も全て持ち出された後、部屋には古い木製の机と椅子、それと壁にかかった大きな鏡だけになっていた。


 一時間後、音もしなくなった部屋の中、どこからか入り込んだ鼠が餌を探し回っていた。

 鼠は鏡の前に来ると何かを感じ取ったのか、動きを止めた。

 すると突然、鏡から何かが飛び出し鼠をつかみ取って中へ引き込んでしまった。

 一瞬、鼠の甲高い鳴き声が部屋に響いたがすぐに沈黙する。

 そして誰もいなく鳴った部屋の鏡に薄っすらと誰かが映り込んでいく。

 鏡の前には誰もいない。

 映り込んだのは錬金術士フォマ・チャーノックの姿であった。


 おわり

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