第13話 城塞
その城塞が建設されて数百年が経っていた。
かつて侵入してくるペルシア軍に備えたものであったが城塞としての活躍はなかった。そして今は錬金術師フォマ・チャーノックが拠点として活用している。
彼が城塞を手に入れてからは、錬金術の研究用に改築され続けていてそれは今でも続いている。その守りは鉄壁で外壁のいくつかは鋼鉄とチタン合金素材で補強されていた。それだけではない。魔術的呪術を施し、超常的な敵からの侵入も防いでいる。
そして城内ではチャーノックの造った自動人形たちが武器を持って昼夜問わずに警備と作業を続けていた。
鋼鉄製の頑丈な門が開かれるとトレーラーの車列が入っていく。
ディーゼルエンジンの低い音が周囲の森に鳴り響いていった。
コンテナが開かれ、中にいたオコナーが降りた。すると仲間の傭兵が駆け寄って来くる。
「城にヘリが接近してきたぞ。スティンガーで撃ち落としたが、この場所はバレてる」
オコナーは少し考えた後、答える。
「きっと追跡されたんだ。GPS探知機を持ってこい」
オコナーは、コンテナからヴィオレタを降ろすと、探知機をかざした。
「何をするの?」
「あんたにGPS発振器が仕掛けられてる。それを探す」
「携帯電話は持っていないわ」
「ああ、そうだな。それは確かめたはずだからな。おっと……」
探知機がヴィオレタの左手までくると反応を示した。
「……見つけたぜ、これだ」
オコナーはヴィオレタの左手薬指から指輪を外すと足元に落として踏む潰してしまう。
「迂闊だった。もっと早めにチェックするべきだった」
「残念だったわね」
ヴィオレタは表情を変えなかったが声は喜んでいた。
「なあ、オコナー。これはちょっとした意見なんだが……」
仲間の傭兵が声をかけてきた。
「俺たちの居所は突き止められてる。追手が来る前に、ここは放棄した方がいいんじゃないか?」
「賢者の石を取り出す設備はここにしかない。邪魔が来たとしても賢者の石を取り出す間は食い止るのが俺たちの任務だ」
「できることはやるがよ、撤収の可能性も考えておいてくれよ」
その時の警報アラームが鳴った。
監視カメラをリモートしたタブレットPCの画面を見ると誰かが門に向って歩いてくるのが映っていた。
「どこのバカだ?」
ズームアップするがどういうわけかはっきり姿が映り込まない。
「なんで対象物だけがぼやけてる。妨害装置でも使ってやがるのか?」
オコナーがリモートカメラの調整をしてみたがやはり映像は変わらなかった。
傍にいたフォマ・チャーノックがタブレットを覗き込む。
「あの吸血鬼だ」
「あん?」
「吸血鬼は鏡に映らない。カメラのレンズを通しても同じだ」
「ヴィオレタの屋敷にいたあの女の事か?」
「ああ、吸血鬼だ。迎え討て」
フォマ・チャーノックはそう命令するとヴィオレタを連れて城内の地下室へ向かった。護衛の自動人形数体が後をついていく。
「やれやれ、やはり心臓に杭をぶち込んでおけばよかったぜ……お前たち、ついてこい!」
オコナーは、後ろにいた戦闘自動人形に命令した。人形たちはライフルを抱えるとオコナーの後についていった。
ミッシェルは城塞の門を見上げた。
偽装用のコンタクトレンズを外すと赤い瞳があらわになる。
瞳を通して見えるのは、魔術的な防御を施した結界とハイテクの警備装置だった。
ハイテク警備システムは吸血鬼には意味を成さない。だが併設されている魔術的な結界はミッシェルの吸血鬼が入れないようになっている。
だがそれは魔術や呪いなど超常的現象に対しての反応なのだ。逆に物理的な攻撃には無反応だという事になる。
ミッシェルは、GL-06グレネードランチャーを取り出すと、グレネード弾の装填を始める。
グレネード弾を装填し終えると構えて門に狙いをつけた。
「暗いうちから悪いけど、お邪魔するよ」
射たれたグレネード弾が門に直撃して爆発した。壁に刻まれた呪文は破片となって飛び散って意味を成さなくなってしまう。こうなると吸血鬼や魔術避けの呪文も効力を発揮できない。
ミッシェルは難なく門を突破した。
双眼鏡を爆発を見てオコナーは驚いた。
「くそっ! あいつ、やりやがった!」
ミッシェルが破壊された門を通り抜けると城内に配置されていた戦闘自動人形たちが姿を現した。
アサルトライフルを構えて進んでくるミッシェルに狙いをつけている。
「撃て!」
オコナーの号令とともにミッシェル目掛けて銃撃が開始された。だがミッシェルの動きは、その場に残像を残すほど素早く、銃弾を難なく避けていく。グレネード弾を再装填すると戦闘自動人形たちに撃ち返した。戦闘自動人形たちはグレネード弾の爆発で吹き飛んでいく。たとえレベルAの防弾ベストを着させていようと爆発には耐えられない。自動人形たちは次々と吹き飛ばされていった。
「化け物め!」
オコナーはバレットM82対物ライフルを抱えて塔の上階まで登ると悠々と進むミッシェルに銃口を向けた。
スコープにミッシェルを捉えると引き金を引く。
発射された12.7ミリの弾丸がミッシェルの心臓を周囲の肉片ごと吹き飛ばした。血しぶきが煙のように飛び散っていく。
「やった!」
だが次の瞬間、オコナーは目を疑う。ミッシェルの肉片はまるで動画を逆回しするかのように元に戻っていったのだ。
再生したミッシェルは塔の上で射撃位置にいるオコナーを見上げた。
危険を感じたオコナーはもう一度、射撃をするべく再びスコープを覗き込む。だがミッシェルの姿が見当たらない。
全体を把握しようとスコープを離した時だった。目の前に黒い蝙蝠の群れがオコナーに突っ込んできたではないか! 塔の中が大量の蝙蝠の群れで覆われていく。
オコナーは群れに捕まり、身体が宙に浮いていく。必死でもがくが無駄だった。なんとか腕をベストに持っていくと手榴弾を手に掴んだ。
一か八かだ!
そう思ったオコナーは手榴弾のピンを抜いて群れの流れに持っていかせた。
数秒後に爆発が起きた!
群れの中から放り出されたオコナーは床に強かに身体を打ちつけてしまう。
四散した蝙蝠の群れは塔の中から飛び去ると居館に向かっていく。錬金術士チャーノックがヴィオレタを連れて入った場所だった。そこには地下に通ずる道がある。
オコナーは、身体をなんとか起こすと血だらけの手で無線機を取り出した。
「吸血鬼が居館入り口に向かった! 守りを固めろ! 絶対通すな!」
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