第11話
貨物トレーラーの車列は国道を抜け山道に入っていた。
法定速度で走る車を誰も咎める者はいない。
車列は着実に目的地に近づいていた。
「誰かいるの?」
頭から袋を被らされて視界を遮られていたヴィオレタはそう言った。
袋を取られるとコンバットブーツが見えた。見上げると見ると無精髭の男がヴィオレタを見下ろしていた。
周囲を見るとアサルトライフルを抱えた武装自動人形たちが立ち並んでいる。武装自動人形は微動だにしない。
「そいつらは命令がなければ動かないんだ」
オコナーはそう言うと正面のコンテナに座り込んだ。
「ところであなたは人間?」
「ああ、人間だぜ」
そう言うと銃を抜いてスライドを引いてみせた。いつでも撃てるというサインだ。
「アメリカ人よね」
「わかるかい?」
「訛りでね」
「お嬢さんは人間じゃないんだってな」
オコナーは銃口を向けながらそう言った。一見、非力に見えるヴィオレタに油断はしていないということだった。
「こいつらとは大違いだぜ」
横に並ぶ武装自動人形たちを指差した。
「こいつらの中身を見てみたが良く出来た関節と心臓にあたるような部品があるだけなんだ。何故、動けるのか俺の頭では全くわからねえ。だが俺らが知っているロボットとは違うというのは分かる」
そう言ってオコナーは肩を竦めた。
「あなた、錬金術って知ってる?」
「知ってる。ハリー・ポッターは観たことがある」
「ハリー・ポッターは魔法よ」
「似たようなもんだろう」
「錬金術は、科学に近い考え方で魔術や超自然的な力を研究して技術として使用する」
「ますますわからんね」
オコナーは首を横に振った。
「あんたに言っても仕方がないことだけど、この連中をここまで仕込むのに随分苦労したんだぜ。なにしろ頑丈だが融通がきかないんだ。とにかく会話が出来ないのが一番よくない」
「それが、チャーノックの技術の限界ね。私を創った人とは違う」
「お嬢ちゃん、あんた、本当にこいつらと同じなのか?」
「こんな低レベルの物と一緒にしないで」
「いや、人形なのかってことさ。俺の言葉にちゃんと答えているし会話になってる。俺の頭が狂ってなければ人間と大差ないように思える」
「私の身体を切り裂いて確かめてみる?」
ヴィオレタは、そう言ってオコナーを見つめた。その表情から感情は読み取れない。
オコナーは目を逸した。
「それはやめておく。身体を切り裂かなくとも人形だってのはわかった気がする」
オコナーはそう言ってニヤリとする。
「ねえ、あなた、なんであんな奴の仲間なんてしてるの?」
「あんな奴? ボスのことかい?」
「チャーノックは最低な奴よ」
「ギャラだよ。いい額だったし俺には金が必要だった。それに最低な雇い主は今までもいたしな。でもまさか人形の調教をさせらるとは思ってなかったけどな」
「チャーノックの自動人形たち、いい動きだったわね。おかげで私が高い金で雇った警備会社は散々だったわ。こうして私も捕まったわけだし」
「そいつはどうも。普通の連中は、大概、こいつら相手に戸惑うんだ。何しろ銃で撃たれても倒れないんだからな。俺が相手でも苦労するだろうぜ」
オコナーはそう言って肩を竦めた。
「それより、お前、本当にこいつらと同じ
「本当は血の通った人間かもね。もしかしたら本物のヴィオレタが替え玉を使っているのかも」
ヴィオレタは、そう言うとオコナーをじっと見つめた。子供の言葉には聞こえない。
「かもな……」
オコナーは静かに言った。
「ねえ、あなた高いギャラで雇われたんでしょ? なら今度は私に雇われてみない? チャーノックよりは高い金額を提示できると思うのだけど」
「それも魅力的だが、ボスからは前金も貰っている。それに本当にあんたから金をもらえる保証がない。悪いが断るぜ」
「あなた、いいわね。チャーノックが雇う筈だわ。先に雇えばよかったわ」
オコナーは肩を竦めてみせた。
「ああ……少し、喋り過ぎたようだな。残りの時間は読書でもして過ごすとするよ」
そう言うとオコナーは黒い布袋を再び、ヴィオレタの頭にかぶせて視界を奪った。
一方、ヴィオレタの屋敷ではヴィオレタ救出の準備が進められていた。
屋敷び敷地には救急車や消防車、警察車両が入ってきた。
警備を指揮していたエリック・キャンベルが説明に追われていたが、その間にも再武装したブラック・シーの人間たちが車に乗り込んでいた。連れ去れれたヴィオレタを追うためだ。戦力は半分にまで減っていたが戦うには十分だ。
警察車両が並ぶその中をシルバーの96年型シトロエンAXが一台、ゆっくりと走ってきた。運転席では破壊された中の様子を見ながらアベル・デュモンが恐る恐るハンドルを握っていた。
アベルは、ミッシェルの姿を見つけると軽くクラクションを鳴らす。
「おいおい、ひどい有様だな。一体何があったんだ?」
窓から顔を出してアベルが言った。
「それより頼んだものは持ってきたの?」
「もちろんだよ。ほら」
アベルは黒いバッグを放り投げた。ミッシェルはバッグを受け取ると中身を取り出す。
「ありがとう」
アベルに礼を言うと中から出したガンベルトを腰に巻いた。左右のホルスターには使い古されたコルト・ピースメーカーが一丁ずつ収まっている。
それを見たリアムが眉をひそめたがミッシェル気にせずコルトに45口径の銃弾をつめていく。
「ねえ、あんたのスマートフォン貸してよ。その追跡アプリとかでヴィオレタを追うから」
「あのポンコツでか?」
リアムはそう言って横目でアベルの乗るシトロエンを見た。聞こえたのかアベルが運転席でムッとする。
「邪魔しないで」
「しないさ。でもそんなポンコツよりこっちの方がよくないかい?」
そう言ってリアムが暗闇の空を見上げた。
ヘリの音が近づいてくるのが聞こえてくる。暗闇の中、点滅する航空灯が見えた。
リアムは発煙筒を焚くと庭内の広い場所に放り投げた。
そこを目指してヘリが接近してくる。20m近い大型の機体の姿が見えた。
「
着陸場所は広くなかったがパイロットは、機体を上手く芝生の上に着陸させた。
ブレードの風がリアムたちの上着を巻き上げていく。
「こっちの方が早いだろ?」
リアムがそう言ってニヤリとする。
ヘリに乗り込むと完全武装した特殊部隊の隊員たちが乗り込んでいた。
リアムに続いてヘリに乗ってミッシェルに隊員たちは顔を見合わせる。
「そいつは誰だ?」
「お嬢様の専属警備だ。一緒についていく」
特殊部隊の隊員のひとりがミッシェルはガンベルトに気がついた。
「クールだな。ピースメーカーだろ? それ」
「ええ」
「随分くたびれてるな。使えるのか?」
ミッシェルは目にも止まらぬ速さでコルトを銃口を隊員に向けた。隊員は全く反応できずに唖然とする。
「あんたよりはね」
その様子を見ていた他の隊員たちが笑い出す。
銃を向けられた隊員は気まずそうにして黙り込んだ。
隣に座るリアムがにやりとする。
「見せつけるのはいいが、ほどほどにしておいてくれ。後で俺が文句を言われる」
「それより、ヴィオレタの行く先は?」
「国境を越えそうだ。カルパティア山脈方面に向ってるぜ」
「急がないと」
「こいつは300キロ近いスピードで飛ぶんだ。すぐ追いつくさ。あんたの手品より早いだろ?」
ミッシェルは答えなかった。
準備が整うとUH-60ブラックホークが離陸した。
風を巻き上げ夜空に飛び立つとブラックホークは、カルパティア山脈に向った。
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