第7話 襲撃者たちの正体

 蝙蝠の群れは一瞬、空に高く舞い上がっていく。

 リアム・ディアスは、呆然と群れを見上げた。その動きはまるでひとつの意志を持った生き物のようだ。

 群れは、武装の男たちに襲いかかっていった。蝙蝠の群れは黒い手が掴みかかるようだった。

 男たちは、自分たちに何が起きているのか理解できていないようだ。

 それは様子を見ていたリアムも同じだ。

 ヴィオレタだけは驚きもせず、その様子を無表情で見つめていた。


 体にまとわりつくように飛び回る蝙蝠たちを追い払おうとライフルを振り回すが効果はない。銃撃を始める者もいたが無駄に近かった、

 やがて黒い群れがすべてを覆い尽くしていく。もはや周辺は群がる黒い群れしか見えない。

 その様子を呆然と見つめるリアムだった。


 気がつくといつの間にか日は暮れていた。

 蝙蝠の群れも消え去っている。残ったのはアスファルトの地面に倒れている男たちの姿だけだ。

 リアムは周囲を警戒しながら車の陰から出ていく。銃を構えながら倒れている男のそばに近づいていった。

「こいつは……」

 体は食い破られ黒い戦闘服も防弾チョッキも無残にぼろぼろだ。こんな事をする蝙蝠がいるのかと驚いていると防弾マスクの下から見えているものに違和感を感じた。

 恐る恐る防弾マスクを外してみるとは現れたのはマネキン人形のようなのっぺりとした顔だった。


「作りものだ」

 不意にかけられて声に振り向くと“レッドアイ”ことミッシェルが立っていた。

「おまえ、いつのまに……」

 ミッシェルは無言で防弾チョッキを引き剥がした、服は食い破られていたがその下にあったのはプラスチック製のボディだった。

「これ、ロボットか?」

「そういったものではないらしいわね」

 腕を掴むとリアムに見せる。

 晒されていた手首は球体関節だった。本当に人形のようだ。

 リアムが指で数回軽く叩いてみる。

「強化プラスチックみたいだ」

「ああ、それ以外にも何か混ぜものがしてあるみたい。金属か何か……重量確保の為か他の理由かも」

「それにしても精巧だったな。人間の動きにした見えなかったぜ……おわっ?」

 アベルの横にいつの間にかヴィオレタが座り込んで覗き込んでいた。

「これがオートマタ自動人形というものよ」

「お、お嬢さん?」

 ヴィオレタに驚くリアム。

「目はあるけど……カメラじゃないわね、どうやって相手を識別していたのかしら? 電波?」

「目の役割を“義務付け”しただけ。それで相手を認識もできる。これが錬金術よ」

 自分を間に挟んで会話するミッシェルとヴィオレタにリアムがムッとする。

「おい、おまえら何の話をしてるんだよ。こいつらの正体が分かっているのか?」

「あんた、まだいたの?」

「はあ?」

 怪訝な顔のリアムを無視してミッシェルは立ち上がった。

「早く車を用意して」

「心配ない。もうすぐ仲間が到着するはずだ」

「そう。ならいいけど、より早く到着できるのかしら」

「あれって?」

 ミッシェルの指差す方から大量のパトカーが向かってくるのが見えた。

「あ……」

 向ってくるのは騒ぎの通報を受けた警察だった。車列の中にはSWATの装甲車も見える。

「とりあえず、ヴィオレタは私が“キャメロット”についれていく。あんたは、警察に事情説明よろしくね」

「えっ? それ俺の役目?」

 そう言うとミッシェルはヴィオレタの手を引くと姿を消した。

「あ? あれ……?」

 一瞬のことにリアムがあたりを見渡したが二人の姿はどこにも見当たらない。そこへ駆けつけた警官たちがリアムに銃を向けて取り囲んだ。

「動くな! 銃を捨てろ!」

 銃口を突きつけられたリアムは、声を出さずに汚い言葉を吐き捨てた。

 仕方なくグロック17を地面に置いて手を頭の後ろにつける

「見てわからないか? 俺達は被害者だ! 襲われた方だよ!」

 リアムの訴えも警官たちには届かない。容疑者を特定できない場合はその場の全員を容疑者として対応するのが警察のルールなのだ。

 SWAT隊員が乱暴に腕を後ろに回して地面にリアムを押し付けた。

「くそっ! くそっ! レッドアイめ……覚えてろよ」



 先に屋敷に向かっていたミッシェルは門の前まで来ると黒いモタードバイクのアクセルを戻した。

 ブレーキをかけたのかわからないほど繊細なコントロールでモタードを停止させるとエンジンを切った。

 後ろに乗っていたヴィオレタがミッシェルの体に掴まりながらぎこちなくモタードから降りた。

「運転上手いわね。ありがとう」

「乗り物は得意なんだ」

 ミッシェルはモタードから降りると門の前に立ち監視カメラを探した。カメラを見つけると手を振る。その後、ヴィオレタを指差して門を開けろとゼスチャーしてみせた。

 映像を見ていた警備スタッフたちが顔を見合わせる。


 門が開かれるとミッシェルはヴィオレッタを連れて中へ入っていった。

 屋敷まで歩いていくと待ち構えていたメイドや執事が扉を開けて待っていた。

 ヴィオレタは手を振りほどくと前を歩いていく

 ミッシェルはその態度に肩をすくめた。

 執事が敬々しく頭を下げる。

「おかえりなさいませ、ヴィオレタ様」

「不覚にも襲撃を受けたわ。民間軍事会社も大したことないわね」

「彼らは人間専門です。敵がどんなものか情報を与えれば対応も違うと」

の世界を理解できるかしらね」

「それはなんとも」

「相手は直接的な行動してきた。しばらく外出は控えるわ」

「賢明でございます」


 ミッシェルは空を見上げた。

 日はすっかり暮れていて空には星が出ている。

 これからはミッシェルの時間だ。日の出までの数時間、ヴィオレタの護衛だ。

 空を見上げていると暗がりの中、鳥が飛んでいるのが見えた。

 フクロウか?

 屋敷のそばには森もある。恐らくそこに巣をもっているのだろう。

 視線を戻すと屋敷に入っていった。


 フクロウは旋回すると庭に植えられた木の枝に止まった。

 目が屋敷に向けられる

 その映像は離れた場所にいる主人の元に届けられていた。

 屋敷の周辺を確認を終えると“死の錬金術師”は意識を戻した。

 

 最初の一手は封じられた。

 だが、これは手の内を知るための牽制にすぎない。

 護衛の装備、戦力は把握した。予想意外だったのは人間の護衛とは別に人外の者に守らせていることだった。

 あれは厄介だと“死の錬金術師”フォマ・チャーノックは思った。

 恐らく相手は吸血鬼の類であろうことは想像できた。奴らはタフで狡猾だ。

 それなりの準備をしなければならないだろう。

 “死の錬金術師”は少し考えた後、オートマタの倉庫へ向かった。

 薄暗い倉庫の中に並ぶ様々な形のオートマタはまるで博物館だ。

 その中で一際目立つオートマタの一群を選び出す。

 目立つ形状だった為、襲撃には使わなかったが錬金術師の最もうまくいった作品たちでもある。

「アキレス・イアディシアム・セカンディ……」

 フォマ・チャーノックは、奇妙な呪文を唱えながらコインの様な金属をオートマなに嵌め込んでいく。

「出番だ。目覚めて我に従え」

 2メートルを超えるオートマタたちが次々と動きだしていった。その姿は古代のギリシャの伝説に出てくる怪物や戦士たちそのものだった。

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