第8話 打倒リーダー

 学校に通うときは、だいたい朝同じくらいに支度が整った仲間と一緒だった。特にみんなで行くために誰かを待つことはなかった。人によってその日の最初のコマも違えば、自習室を朝から使ったり使わなかったりというのも人それぞれだった。だから、お互いのリズムを尊重することが、最優先だった。

 だが、この日は波長が合ったのか、翔太も智久もせりかもほぼ同じ時間に下宿を出ようとしていた。珍しく、4人での登校となった。

 

 校舎に入ると、大判の紙が掲示されていた。先月の模試の結果だった。科目別の順位と得点、総合順位と得点、事細かにすべて掲載されていた。


 総合成績

 1  鳴海玲央  841

 2  種市佳奈  839

 3  及川せりか 782

 4  工藤紘一  776

 5  葛西陽太  774

 6  千葉智久  771

 7  相馬舞   770

 ……


 「え、やばっ、リーダーがトップじゃん!さすがだな!」

 「ミルキーウェイのみんなはやっぱり上位にたくさんいるね。でも玲央くんはさすがだね。」

 「やっぱ玲央は違うなぁ。わたしもがんばらないと!…あれ、翔太はどこ?」

 「うるせぇ!…ほら、英語は良かったんだよ!…おっ、英語載ってるじゃん!13位で!」


 英語

 1  種市佳奈   200

 1  千葉智久   200

 1  鳴海玲央   200

 4  及川せりか  198

 5  相馬舞    196

 6  葛西陽太   190

 ……

 12 工藤紘一   176

 13 石川翔太   170

 13 神太一    170

 ……


 


 「お、ほんとだね、やるじゃないか翔太君。」

 「っておい、智久満点かよ……ほめられても嫌味にしか聞こえないぜ…」

 「ははっ、ドンマイ翔太!」


 東大を目指しているのは自分だけなのだから、校内で1位といっても喜べる身分ではなかった。担任の吉沢にも、校内で1位じゃなかったら退学と言われていた。


 「お、玲央くんおはよう!下宿のみんなと一緒?」


 話しかけてきたのは、英語と数学の授業で一緒になる種市佳奈たねいちかなだった。

 

 「いやぁ、勝てなかったかぁ。玲央くんはさすがだね。」

 「そんなことはないだろ。もう一回やったらわからないし。」

 「そうだね。来月の模試では負けないから!」


 科目別も載せているのは、できるだけ多くの生徒の名前を載せて上げようという学校側の配慮なのだろう。だが、結果として、自分の名前と、種市の名前が順位表の上部分をことごとく埋めてしまう状況となっていた。


 「おいおい、あの二人が鳴海と種市か…」

 「二人だけ別次元だもんな…」

 「なんか頭だけじゃなく雰囲気も違って感じるよな…」

 「同じ浪人のはずなのになんか憧れるわ…」


 一限が同じ授業なのもあり、周囲の視線を感じながら種市と教室に向かった。




 吉沢に英語の質問をしていたら、帰りが遅くなってしまった。急いで下宿に戻った。みんなすでに夕食を終えようとしていた。


 「おっ、リーダーのお帰りじゃん!」

 「おかえり、玲央くん。」

 

 何だかせりかの様子がおかしい。


 「せりか、お前から話せよ!こんなかで一番玲央に近いんだから!」

 「そうだね。せりかさんが話すのが一番だと思う。」

 「わ、わかったって!」

 

 どうやら他のみんなは事情をわかっているようだ。


 「せ、宣誓!私たちは!玲央を次の模試で打倒することを誓います!」

 「何を言っているんだ?」

 「ここからは僕が説明しようか。」

 「そうだな!頼むぜ智久!」

 「僕たち玲央くんの実力を今日の掲示で思い知ってね。連合軍を組んで玲央くんに勝負を挑むことにしたんだ。」

 「どういうこと?」

 「普通に勝負しても勝てっこないから、俺ら連合軍は科目で役割分担して、その合計点で勝負するぜ!智久が国語と世界史、俺が英語と倫政、せりかが数学と物理と化学だ!」

 「冗談じゃない、いいとこどりしたら勝てるわけないだろ?…というか翔太お前英語なら智久の方がいいだろ。」

 「それ言ったらおしまいだろ!俺にも参加させろよ!」

 「それに、これで合計点出したらちょうどいい感じなんだから!」


 3人の言う役割分担で先月の模試の連合軍の得点を出すと、829点だった。それもそうだ。せりかと智久の担当科目はほぼ満点、翔太が多少足を引っ張ってる程度だから、そういう点数になる。


 「面白そうじゃないか?玲央くん。」

 「ここまで言ったら逃げないよね、玲央!」

 「勝負だ!リーダー!」


 ここまで言われれば乗らざるを得ないだろう。それに、次の模試は気を引き締めないと種市に負けるかもしれない。いい機会だ。


 「わかった。その勝負、乗ろう。」

 「よっしゃあ!」

 「玲央、もうちょっとなんか煽って来るとかないわけ?『敗北の味を教えてやるよ』みたいなさ!」

 「……敗北の味を教えてやるよ」

 「そのまんま言っても芸がなーい!」

 「ははっ。玲央くんには似合わないね、そういうセリフ。」


 次の模試は七夕の日だった。決戦にはふさわしい。……こいつらに敗北の味を教えてやるか。


 その日は自室でひたすら世界史の暗記をした。興奮しているつもりはなかったが、なかなか眠れなかった。やっぱり興奮しているのかもしれない。

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