21.『決別』

 栄光は既に無い。

 名誉も大義も消え失せた。

 積み上げた歴史も、文化も、その全てが"過去"という名の巨大な坩堝の中で灰と化した。


 自分おのれを知る者はもはやこの世界にいない。

 皆、先に行った。行ってしまった。


 残されたのは憎悪の焼け跡と、亡くしたモノの残滓と、忘れられない痛みと、切っても切れない未練だけ。


 ——それでも。


 まだ、縋り付くことが出来るなら。

 まだ、想いを寄せることが出来るなら。


 何の因果か、また引き寄せられたこの地に立っていることを許してもらえるなら。


「俺は戦う」


 姿かたちが変わっても。

 見える世界が変わっても。

 生きる時代が変わっても。


 何のために?

 誰のために?


 答えはもう出してある。


「お前もそうなんだろう?」


 だからここに来たんだろう。

 だからそこにいるんだろう。

 過去の記憶に、亡霊に魅せられ、取り憑かれているから戻ってきた。


「……待ってろ」


 今、自由らくにしてやる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る