第1774話 力の魔神と九尾の妖狐
妖魔退魔師の総長シゲンが決意した旨をミスズに告げた頃、鬼人族の集落に報告に戻ろうとソフィが口にしようとしたその時であった。
「――」(ソフィ!)
魔神がソフィに向けて声を発したと同時、その魔神が張った『結界』に向けて高密度の『魔力』が込められた攻撃が行われて、あっさりとその『結界』は粉々に砕け散った。
「――」(何だと……?)
これまで下界の存在では、大魔王ソフィ以外に亀裂すら入れられたことがない筈の『力の魔神』の『聖域結界』が、たった一撃加えられただけで亀裂どころか、破壊されてしまった。
――だが、その壊された『結界』は、ソフィに危険を知らせた後に直ぐさま魔神が張り直した事で、一瞬の内に『結界』は元通りに再生され始める。
しかしどうやら攻撃を仕掛けた者達は、すでに『魔神』の張り直した『結界』の内側へと入り込んでいたらしく、真っすぐに無抵抗に見える状態のままでソフィの元へ近づいてくるのであった。
「――」(下がれ……。
先程のソフィの放った『
「ほう? 珍しい事だ。こんな下界の山の一角に『
しかし『力の魔神』の威圧を一身に浴びている筈のその『妖狐』は、堂々とした足取りを保ったままで、余裕綽々といった様子で視線を魔神に返しながら笑みさえ浮かべてそう言うのだった。
そして今度はその『妖狐』が『金色』のオーラを纏いながら、威圧を放っている『力の魔神』に『魔力』が伴った『
パキッ! という硝子が割れるような音が周囲に響いたかと思えば、魔神が自身の周囲に張っていた『結界』の一部に亀裂が入り、更に『妖狐』が射貫くように目を細めると、その魔神の『結界』はパリィンという音と共に、あっさりと砕け散るのだった。
「俺はお前に用はない。
魔神はソフィの前で、自分の『結界』があっさりと割られた事で恐ろしい形相を浮かべ始める。
それはソフィを守る絶対的な盾である筈の自分の『結界』が、こんな風にあっさりと壊された事に対する自分の無様さと、 『
そしてあっさり『結界』を再生させた後、直ぐに魔神は目の前の『妖狐』の首に手を伸ばした。
――しかし、魔神が『妖狐』に伸ばした手は、妖狐の見えない程の速度で振り切った手に、あっさりと腕の先から切断されてしまい、そのままクルクルと魔神の腕から離れた手は宙を舞うのであった。
「――」(
しかし魔神は無表情のままで自分の腕を直ぐに再生させると『敵』と明確に認識した『妖狐』を睨みつける。
――最早、冗談では済まされない。
これ以上の失態は、大魔王ソフィの自分に対する
『力の魔神』は白いオーラを自身の周囲に展開すると同時、山から見える周囲一帯の景色が、魔神の纏うオーラと同一と呼べる程の真っ白な空間へと変貌を遂げていく。
どうやら『力の魔神』は、下界で二度目となる彼女の『
一度目は数千年前に大魔王ソフィを本気で消滅させようと動いた時、そして今回が二度目という事である。
もう『力の魔神』は目の前の妖狐を消滅させる事しか考えていない。
それ以外にはもう大魔王ソフィから得た『信用』を取り戻す事が出来ないと、本気でそう判断しているからであった。
――しかし、次の瞬間。
「やめるのだ、魔神よ。そやつは我に用があるらしい。話をさせてくれ」
もう何を言っても誰も止められないと思わせる程の『殺意』を『妖狐』に向けて戦闘態勢に入っていた『力の魔神』だが、ソフィの鶴の一声と呼べるその一言で、あっさりと敵の間合いの中でその動きを止めるのだった。
(ほう……? 俺の間合いの中でこれ程までに無防備になれば、そのまま首を刎ねられていてもおかしくはないと、これ程の戦力値を有している『神』であれば容易に想像がつくだろうに。曲がりなりにも『神格』持ちの神が、一介の下界の存在に対してこれ程までの忠誠心を持つか、面白いな……)
自分の間合いの中で無防備となった魔神を見て、その妖狐は改めて感心をしながらソフィの方に視線を向けるのだった。
「我に何か用があるようだが、ここに居た連中の為に、我に報復をしようとやってきたのだろうか?」
ソフィはそう口にしたが、目の前の存在が『天狗族』ではない事は『魔力』で理解している。先程の『
しかしそれでもこの山で天狗と親しい間柄であったのであれば、別の種族だろうと報復を行ってくる可能性は否めない。先程の『魔神』とのやり取りを見て、すでに『天狗族』の首領といっていた女天狗より、この目の前の『妖狐』の方が戦力値も魔力値も上なのはよく分かっている為、報復にきたというのであればそれなりに本気で相手をしようと考える大魔王ソフィであった。
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