最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

第1775話 大魔王ソフィに興味を抱く妖狐

「報復……？　俺は別に『天狗族』にも『帝楽智』殿に対しても特別な感情などは抱いてはいない。ある日突然に俺の前から居なくなろうとも、何とも思わない程度の存在だと認識しているからな」

　含みのある言い方でソフィを見ながら口角を上げる妖狐だった。

　その言い方にソフィも思うところがあったが、しかしどうやら天狗族を滅ぼした事に対して目の前の妖狐は、本当に何とも思っていないようであった。

「では何故この場にやってきたのだろうか？　こやつの『結界』を壊してまで、それも止めようとするこやつと直接争う事も辞さぬというお主の意思は、相当なものだと我は感じておるが……」

　目の前の妖狐は、先程の報復か否かを問うたソフィの言葉とは違い、その言葉を待っていたとばかりに嬉しそうに相好を崩してみせた。

「そんなものは決まっているだろう？　あれほどの『魔力値』を見せられて、更にはその『魔力値』を余すことなく完璧に使いこなしている『魔』の概念の理解者を前に、みすみすこの俺が見逃すとでも思ったか？　お前は間違いなくこの俺を満足させられる。神斗様の言っていた人間の方も非常に興味を抱いたが、俺の中ではそれでもお前の方が魅力的に映ったのだ！」

　両手を広げながら喜々として語る妖狐は、どうやら本当に『天狗』がやられた事による報復ではなく、純粋に大魔王ソフィという実力者を前にして、挑戦者の気持ちで真っ向から戦いたいとそう考えているだけなのだろう。

　その目を見たソフィは先程まで抱いていた怒りの感情が少しずつ薄れていき、目の前の妖狐に対して彼自身も興味を持たされる事となった。

「クックック……！　面白い。どうやらお主は本当に我と純粋な力比べをしたいようだな。しかし我はあそこにいるシゲン殿達の行う調査に同行させてもらっている身だ。今回の『天狗族』とやらとの争いは、我の意思を尊重して優先させてもらっただけに過ぎぬ。我と力比べをしたいと言うのであれば、この山の調査を終えた後にしてもらいたいのだが、それでも構わぬか？」

「山の調査……？　まぁ、別に戦ってもらえるなら俺はそれでも構わんが……。それで？　一体何を調査しているというんだ？　知りたい事があるのならば、特別に俺が全て余すことなくこの山の事を教えてやるぞ？　気になる事があるならば何でも俺に聞くがよいぞ？　何が知りたいんだ？」

　どうやら口ではいくらでも待つと言っている九尾だが、忙しく尻尾を揺らしながら言葉で急かしてくるところをみると、本当は早くソフィと戦いたくて仕方がないようで、早くその調査を終えさせようと惜しみなく協力を申し出てくるのだった。

「う、うむ……。まぁそう慌てるな。そもそも我はお主の名すらまだ聞いてはおらぬぞ？　いきなり現れておいて自分の都合だけを押し付けられるのを我は好まぬ」

「むっ、そういえばまだ名乗っていなかったか？　俺は『王琳（おうりん）』という名でこの山に居るこいつら『妖狐』共の世話をしている者だ。好きなものは強い奴と戦う事で、お前のように『魔』の概念に相当の理解を示している者に非常に興味がある」

　自己紹介のようなモノを行った王琳だが、やはりソフィと早く戦いたくて仕方ないようで、ブンブンと尻尾を振りながらソフィに視線を送り続けていた。

「なるほど、お主は王琳というのか。隣に居るそやつの名は？」

「こいつか？　こいつは七耶咫（なやた）っていうんだ。元々は名前がなかったようだから、俺がこいつを赤子の頃に拾って育てて名をつけてやった」

　そう言って王琳は七耶咫の頭に手を置いて優しく撫でていた。

　七耶咫も先程までは何か言いたそうな表情をしていたが、王琳に手を置かれて撫でられると、う（・）に（・）ゃ（・）う（・）に（・）ゃ（・）と気持ちよさそうな声をあげて、目を細めながらされるがままになっていた。

「ふむ……」

　ソフィは目の前の王琳と名乗った妖狐が自分の部下を可愛がる様子を見て、そこまで悪い妖魔には見えなかった為に、戦闘形態から通常時の状態になって静かに頷くのだった。

「少しそこで待つがよい。シゲン殿に報告に行ってくるとしよう」

「分かった。しかし調査を行う間は俺達も同行させてもらうがいいな？　その代わりに主らの知りたい場所とやらを色々と案内してやる」

「我は構わぬが、その辺の話もシゲン殿に報告してからだ」

　フリフリと九尾を揺らしながらそう告げる王琳に、ソフィは仕方ないとばかりにそう言ってシゲン達の方へと歩いていくのであった。