第1499話 不測の事態

「今更麒麟児の『魔瞳まどう』の効果を疑うわけではないが、我々の使う『青い目ブルー・アイ』とは違って一度掛けさえすればいつでも、このように洗脳状態にさせる事が出来るのかな?」


「そうだね。最初となる一度目が肝心で『金色の目ゴールド・アイ』で深層意識まで踏み込むことが出来れば、後はもういつでもその状態にさせる事は容易になるよ。まぁ、その肝心要の一回目に掛ける事が難しいんだけどね。でもイダラマがコイツを抑えてくれたから、今回は何も問題なく支配下に置く事が出来たよ。他にもコイツを利用する事も可能だったけど、もうさっき命令を出しちゃったからね。先程も言ったけどキャンセルしてやり直すには相当に苦労するけど、もういいんだろ?」


 エヴィは説明不足だったかもと考えはしたが、よくよく考えれば実際に命令を下す前に忠告はしたのだから、やっぱり自分は何も悪くないと考え直してそう告げるのだった。


「ああ。確かに今のお主の言葉を聞いて色々と思い浮かぶ事もあるが、私の目的には左程に影響はないからな。注目を浴びさせて『コウエン』殿達を『妖魔山』に近づけなくさせられるなら上出来だ」


「そうかい? じゃもうコイツに暴れさせるけど、他に何かしておきたい事もないね?」


 今度こそエヴィは最後の忠告を口にする。


 その理由としてはこれ以後はもう、この『はぐれ』の上位『妖魔召士』を使い捨てにするつもりで暴れさせるために『』という意味合いが込められていた。


「うむ。存分に有効活用させてくれ」


「分かった。それじゃ、コイツに暴れさせるね」


 エヴィの言葉にイダラマは頷きを見せると、エヴィの目が再び金色に輝き始めて『妖魔召士』は完全に洗脳状態となって、先程のエヴィの命令を行使しようと懐に手を入れて『式札』を二枚取り出し始める。


 そして同時に妖魔召士が式札を二枚その場に放り投げると、札はヒラリヒラリと舞っていたが、やがてぼんっという音と共に二体の『妖魔』が出現を始めるのであった――。


 …………


「そろそろ交代の時間だな。ちょっとくらい早めに戻るか?」


 エヴィやイダラマ達が近くに潜伏している事など露知らず、町の北側の門前に居た二人の『コウヒョウ』の町役人は雑談を交わしているところであった。


「馬鹿、お前も中央の方で起きた騒ぎの一件くらいは知っているだろ。今は『サカダイ』から雇われてきている『予備群よびぐん』の連中が収拾にあたっているが、こんな時に勝手な真似をすればまた裏で愚痴を言われちまうよ。大人しく交代の時間までしっかりと働こうぜ」


「ちっ! 『妖魔召士』組織のお偉方がこの町の管轄だった頃は楽だったのになぁ。サカダイの『妖魔退魔師』組織の連中が予備群を派遣してくるようになってからは、色々と厳しくなっていけねぇな」


「そんな大声で言うんじゃねぇよ! 何処で奴らが聞き耳立てていやがるかもわからねぇんだぞ? 名主様にでも知られちゃ面倒なんだから言葉に気をつけろよ」


「はいはい、悪かったよ……、ん? 何だあれ」


「あ? ちょ、ちょっと待て! ありゃあ『妖魔』じゃねぇのか!? な、何で町の中に……!」


 役人たちの前に突如として『』が出現を始めたのであった。


 二人の町役人は突如として町の中に『妖魔』が出現した事で驚き慌てふためき始めた。


 彼らも一般的な役人としては優秀なのであろうが、やはり『予備群』の護衛隊と比べると対応が遅いと言わざるを得なかった。


 ――しかしそれは仕方のない事だろう。


 彼らはあくまで町の役人であり『妖魔』の対応を行う者達ではないのだから、こういった『妖魔』が現れる事を想定などをして町を守っているわけではない以上、このような不測の事態を責めるのは酷というものである。


「ま、ま、まさかっ……! 中央の騒ぎの本当の原因は、こ、この『妖魔』だったのか!?」


「に、にげ……っ!」


 ようやく本能で逃げようと考えるに至り、町役人達の足が動き始めた瞬間、目の前に現れた『妖狐』に襲われるのであった――。

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