第1498話 遂に開始される、イダラマの作戦

 『コウヒョウ』の町の北側の門陰でイダラマ達は話を進めていく。


 虚ろな目を浮かべる『妖魔召士』を囮に使い、自分達は『妖魔山』へ堂々と入ろうという作戦であるが、この作戦はイダラマ曰く前時代の妖魔召士の『同志』達を『妖魔山』へ入らせないようにする意味も含まれているようであった。


 ――こうなってしまった事には当然のように理由がある。


 当初の目的では『同志』達と共に『妖魔山』に向かうつもりではあったのだが、蔵屋敷に突如として現れた『ライゾウ』と『フウギ』の持ち込んだ『捕えられた同志を助けて欲しい』という話に『サクジ』という前時代の妖魔召士であった男が乗っかってしまい、予定は大きく狂ってしまう事となったのである。


 時間が経てば経つほどに『妖魔山』に入る事が難しくなるというのに、彼ら『同志』達は予定通りにイラダマ達と『妖魔山』に向かう事を拒否して信じられない事に『妖魔山』の管理権が移された『妖魔退魔師』組織の本部がある『サカダイ』の町に乗り込もうと言い始めたのである。


 それでは何のために、イダラマ達は彼ら『妖魔退魔師』達の目を盗んでここまで来たのか分からなくなってしまう。


 イダラマは早々に彼らと『妖魔山』にのぼる事を諦めて、自分達だけで『妖魔山』へ向かおうとしたが、サクジはそんな決断を行うイダラマが気に入らなかったようで、当てつけるように『イダラマ』を自分勝手だと罵り、これだから『改革派』の者達は信用が出来ぬと告げて『同志』達の気持ちを扇動するように言葉で捲し立てた。


 サクジの行いを見たイダラマは、頼りになる筈であった『同志』達が、今後は逆に自分達の行動の妨げになってしまうと考えたのである。


 これまでの歴史上でまだ誰一人としてやり遂げた事のない、イダラマの持つとある『野望』を叶える為には、単なる路傍に転がる石であろうとも邪魔になる可能性があるモノは排除しなければらない。


 蔵屋敷の中で自分より年下であるイダラマが、サクジに対して反抗的な態度を取った事が原因ではあったのだが、それでもサクジはわざわざイダラマに対して余計な真似をしなければ、彼にとって『邪魔』だとは思われなかっただろう。


 その所為でイダラマに目をつけられる事になったのだから、サクジは余計な自尊心のせいで買わなくてもいい恨みを買ってしまったのであった。


「じゃあ、早速始めるけど準備はいい?」


「うむ。こいつに『式』を出させた後は、あの入り口の者達を威嚇させるように『式』に命令をさせるように指示を出してくれ。そしてその場で待機させて『予備群』達が集まってきた時を見計らって、そのまま一気に『妖魔山』へ向かわせてくれ。ああ、出来れば『鳥』にコイツを乗らせて空から移動させて注目を浴びせるようにさせて欲しい」


 イダラマはエヴィが扱う『魔瞳まどう』の精密性をある程度理を解している様子で、事細やかに指示を出すのだった。


「もう、注文が多いなぁ……。まぁでも君の考えた作戦に必要だと言うならば従うけどさぁ」


 ブツブツと文句を言いながらもエヴィは目を金色にさせる。


 ――次の瞬間、キィイインという音が周囲に響き渡ると、同時にこれまでも虚ろな目を浮かべていた『妖魔召士』の男は、完全にその目から色を失くして更に深い『催眠』状態へと入るのであった。


「よし、これでいつでも指示を下せるよ、イダラマ。既に屋敷で杭は打っているからね。この『催眠』状態にしておけばコイツの意識は完全に失くなっている。でも無意識下では動けているから本能で指示に従い続ける事が可能だよ。じゃあさっき言ってた通りに指示を出すけど、本当にいいんだね? 一度命令を出してしまえば、やり直しには再び無意識状態から、微睡状態まどろみじょうたいにまで戻す必要性があるから時間が掛かるよ」


「ああ、やってくれ。集まるであろう『予備群』の数次第では厄介になるだろうから、手加減などを考えずに確実に『妖魔山』の麓へ行けるように命令してくれ。捕まってしまう事に比べれば、人間達の犠牲を出す方がまだマシだからな」


「……」


(ソフィ様は『アレルバレル』の世界で『人間界』には手を出すなといつも仰られていたけれど、ここは『アレルバレル』の世界じゃないみたいだし『人間界』じゃないから、なら……!)


「よし、お前はこの世界では偉い人間なんだろう? 自分の偉さをここで誇示しちゃおうか! お前の契約している『式』の中でもとびっきりに強い『式』ってのを出してこの場でお前の強さを証明しろ! お前の好きなように動いていい! だけど絶対にお前を捕えようとする『人間』達に捕まっちゃだめだ。皆から注目されたとお前が思えた時点で空を飛べる『式』を出して、一気に『妖魔山』へ向かえ! その後はお前を捕らえようとする人間達を殺してもいいよ。あ、それから捕まりそうになったらお前は『妖魔山』の管理はこれからも『妖魔召士』のものだと声高に叫ぶんだ。絶対に渡さないぞぉって叫ぶんだよ?」


 ――魔瞳、『金色の目ゴールド・アイ』。


 キィイインという甲高い音が更に周囲に響き渡ると同時に『催眠状態』の妖魔召士は『洗脳状態』へと入り、虚ろな目が徐々に元の目に戻っていき、覚醒状態になって口を開き始める。


「ワカった……! そレに妖魔召士とハ、トテも優レタモのたチナのダ! ぞんブンに我ラのチカらを知らシメテみせヨうゾ!」


 少しだけ普段と声色が変わってはいるが、自分の意識で喋っているつもりで『妖魔召士』は、喋り始めるのであった。


 ……

 ……

 ……

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