第1497話 イダラマの策
「うむ。
「なるほどな。俺達が『妖魔山』でしっかりと役に立つかどうかを試したってところか。何度かお前の実力を見聞きしているだろうに、あの野郎も随分と慎重な事だな」
イツキと戦っていたシゲンの衝撃波と呼べるようなモノを『
「あのシゲン殿がそれ程までに懸念を抱くのだ。どうやらエヴィが居るであろう『妖魔山』は相当に注意が必要かもしれぬな」
「旦那……。本当に俺もついて行かなくていいんですか? この身であっても『
「クックック! 無理はせずともよいぞセルバス。その気持ちだけ受け取っておく」
「そ、そうですか。まぁ俺なんかが付いて行っても逆に足手まといにしかならねぇだろうし、仕方ないっすね。はっ、はは……」
先程のヌーとの会話で思うところがあったのか、どこかセルバスは自嘲的にそう告げる。
ソフィはそのセルバスの様子に困ったように手元に口をやると、直ぐに何かを思いついた様子だった。
「そういえばお主、ここに
「え! し、シグレ殿の傍にですかい!?」
急に自分の好いている女性の名が出た事で、セルバスは傍から見ていても分かる程に挙動不審になるのだった。
「ミスズ殿に話を通しておこう。お主も『加護の森』では活躍を見せたようだし、頼めば会わせてもらえるだろう」
「そ、そんな大それたことはしちゃいませんが……! 気持ちが嬉しいです旦那! ありがとうございます」
「うむ。何事もなければ明日にでも『ゲンロク』殿のところへ向かう事になるだろう。お主も今はゆっくりと身体を休ませておくのだぞ、ヌーよ」
「ふんっ! いちいちそんな事言うんじゃねぇ、分かってる」
腕を組んでセルバス達の会話を聴いていたヌーは、突然のソフィの言葉に鼻を鳴らしながら応えるのだった」
(シグレ殿とちゃんと話すのは『旅籠町』以来か。あの変わり様は驚いたが、納得できる理由だった……。少しは落ち着いてくれているといいんだがな)
セルバスはここに来た時に髪をかき乱しながら『妖魔召士』を相手に暴れていた『シグレ』の姿を思い出しながら、胸中でそう呟くのだった。
……
……
……
一方その頃、イダラマ達は『コウエン』達とは反対方向を歩いて町の外へと向かっていた。
彼らの向かう先は『コウヒョウ』の北側の出口であり、その先を歩いていくと目的の『妖魔山』があった。
そのイダラマ達の後を赤い狩衣を着た一人の『妖魔召士』が、虚ろな目を浮かべながらエヴィ達の後ろをついてくる。
どうやら彼はエヴィの『
そしてイダラマ達は町の北側を見張る町役人達の姿が見え始めると、自分達の護衛やエヴィに小さく声を掛けた。
「よいか? ここから『妖魔山』の麓までは目と鼻の先だが、ここからは『予備群』達の見張りの数は多くなるだろう。すでに『妖魔召士』組織から『妖魔退魔師』組織に『妖魔山』の管理が移っている以上は『妖魔退魔師』組織の者が居るのは当然の事だが、そこで先に話をした通りにこやつを使って『妖魔山』の麓で派手な騒ぎを起こさせる」
イダラマの言葉にアコウやウガマ、それに彼の護衛達が静かに頷きを見せる。
「複数の『予備群』が取り押さえようと現れるだろうが、こやつは上位の『妖魔召士』だ。取り押さえられるまでには相当に時間を稼げるだろう。その隙に我々は『コウヒョウ』の役人共や『妖魔退魔師』組織の間諜の目を掻い潜って『妖魔山』の中へと入るのだ」
「その作戦で本当に大丈夫なの? ちょっと強引すぎる気もするけど……。それにさっき僕の大事なメダルを掠め取ろうとした『妖魔召士』達も戻って来るかもしれないんだよね? そこで僕達の事を話されたら元も子もないと思うんだけど……」
蔵屋敷から出た時にもある程度は話を聞かされていたエヴィだが、あまりにも作戦の内容が薄く、あってないようなモノである為にイダラマが考えた作戦にしては浅すぎないかと、そして結局は自分達の存在の事は『同志』達から漏れ出るんじゃないかと懸念を告げるエヴィだった。
「もちろんそれが狙いでもある。彼らも前時代の『守旧派』の『妖魔召士』達だ。妖魔山の麓で騒ぎを起こした『はぐれ』の『妖魔召士』の元に『同志』の『妖魔召士』達が現れれば、既に『妖魔山』の管理権を移されるという情報を得ている者達にしてみれば、山の管理権を移す事に納得がいかない前時代の『妖魔召士』達の一派の計画的な犯行だと勝手に邪推をしてくれるだろうし、そもそも彼らは『サカダイ』の『妖魔退魔師』の本部を襲撃しようと企てていた者達なのだ。元々何をしようとしていたかを問い詰められてしまえば、彼らも目的が『妖魔山』に入る事である以上は、黙って引き下がるしかなくなるだろう」
「まぁ、イダラマがそういうならいいけどね。ご所望通りにコイツを暴れさせればいいんだろう?」
「そうだな。では大騒ぎを引き起こさせる為にも『コウヒョウ』の北側の入り口でひとまず高ランクの『式』を出させてくれ。そうすれば先程の騒ぎで出張っている予備群共が集まってくるだろうからな」
「ああ。分かったよ、イダラマ」
平然と『妖魔召士』だった者とは思えない事を口にするイダラマだったが、そんなイダラマにエヴィも何でもないかのように応えるのだった。
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