第1475話 行われる格付け
前時代の『妖魔召士』組織に属していた『上位妖魔召士』の捉術を躱したイダラマは『
「くっ……、くそっ!」
「いくら『同志』であったとしても、私に攻撃を仕掛けてきた者を許すわけにはいかぬ」
「そ、その『捉術』は……! ま、待て、待ってくれぇっ!!」
イダラマに腕を掴まれて逃げられない『守旧派』だった妖魔召士の男は、悲痛な表情を浮かべながらイダラマに懇願するが――。
――僧全捉術、『
イダラマの放ったその『捉術』は、対象とする相手から強引に『魔力』そのものを奪い、その対象を即座に『魔力枯渇』にさせる『捉術』である。
しかしこの『捉術』の真に恐ろしいところは、術者が『最上位妖魔召士』と呼ばれる者達であれば、相手を『魔力枯渇』させるだけではなく、その対象者の持つ根本の『魔力値』自体を根こそぎ奪い、二度と『魔力』を操る事を不可能にする事も可能なのである。
――妖魔召士が使う『捉術』の中で、最も残酷といわれている『捉術』の一つであった。
「これでお主はもう二度と『
そしてそう告げながらもイダラマは視線を『コウエン』や『サクジ』に向ける。
そしてその両名だけではなく、他の者達も『魔力』を奪われた『妖魔召士』の方に意識を向けているのを確認した後、イダラマは素早く視線をエヴィに向けるのだった。
「……」
何とこの場に居る者達のほとんど全員が『妖魔召士』を見ている中で『エヴィ』だけが、イダラマの視線に直ぐに気付いて眉を寄せていた。
(ククッ……! 流石は麒麟児だ。本部付けであった『妖魔退魔師』組織の所属の予備群『アコウ』と『ウガマ』でさえ、私の視線に気づいていないというのに、やはりこの麒麟児の洞察力だけは侮れぬ……!)
イダラマは満足といった様子で口角を吊り上げると、今も視線を交差させている相手であるエヴィから軽く視線を外して再びその『守旧派』の『妖魔召士』を一瞥すると、正面を向いたまま腕を掴んでいない方の手の人差し指だけを上げて自分の左目を指さして、唇だけを速やかに動かしておもむろに『
大魔王『エヴィ』はそのイダラマの自分に向けた声なき合図を理解して『コウエン』と『サクジ』、それに周囲の者達の様子を見た後に、どうやら問題ないと判断したようで、ゆっくりと視界に入る位置に移動する。
そのエヴィの移動を見たイダラマは、直ぐに掴んでいた男の手を離した後に、軽く男を前に押してみせる。根本の魔力を奪われた『妖魔召士』は茫然自失といった状態の表情を浮かべていたが、押されたことで驚いて『イダラマ』の方を見ようと顔をあげたが、そのイダラマの背後に居る『エヴィ』の金色に光る『目』を見てしまうのだった。
――そして、男はそのまま地面に力なく崩れ落ちるのだった。
「「き、きさまぁ……!」」
『同志』がイダラマによって妖魔召士と名乗れなくされる様を見せつけられた事で、その場にいた前時代の『妖魔召士』達は『イダラマ』を明確な『敵』と認めたようで、魔力を纏わせ始めて戦闘態勢に入るのだった。
「おっと、これ以上『イダラマ』に手を出そうとするならば、今度は僕もまざらせてもらうよ? 僕はこれでもイダラマの護衛だからね」
エヴィは気付かれる前に『金色の目』の使用をやめて元に戻しながらそう告げて、イダラマの前に立ちながら『金色のオーラ』を纏わせ始めるのだった。
「「くっ……!」」
この町の居酒屋でこのエヴィが暴れるところを見ていた『同志』の妖魔召士達は、厭そうに顔を歪めながらも戦闘態勢を崩さなかった。
そしてこの部屋の入り口に陣取っていた『アコウ』と『ウガマ』も『同志』達を挟撃するような形で刀を抜いて戦闘態勢に入りながら得の刀に『青』の創成付与を行い始める。
一触即発となったこの場の中で『コウエン』は腕を組んだまま、イダラマに『魔力』を奪われた妖魔召士の様子を見ていたが、やがては視線を上げてイダラマの方に向け始めるのだった。
「イダラマ、矛を収めてくれ。お前が本気だという事は分かった。このまま『妖魔山』へ向かうというのであれば、勝手にするがよい」
「こ、コウエン殿!?」
隣に立っていた『サクジ』は『コウエン』の言葉に信じられないといった様子であった。
「お主らも出している『魔力』を引っ込めろ。ワシらはこの後『サカダイ』の『同志』を救出しにいかねばならぬだろう? ここで『同志』と争っていても仕方があるまいて」
この場に居る『同志』達の中で一番『力』を有しているであろう『最上位妖魔召士』の『コウエン』がそう告げると、攻撃態勢に入っていた『妖魔召士』達の多くが、一斉に『魔力』を消すのであった。
「ま、待ってくれ! コウエン殿! こ、このままこのイダラマを許すと申されるのか!? 我らが『同志』に『修劫』を放って『妖魔召士』の命ともいうべき『魔力』を奪ったこの
しかしコウエンの言葉に納得がいかない『サクジ』だけは、未だに『魔力』を纏わせながら悔しそうにそう言葉を発するのであった。
「仕方あるまい? お主はあの不可解な『新術』を用いる『イダラマ』と、その横に居る面妖な術を操る少年に、後ろに居る『サカダイ』の町の本部付きクラスはある『
コウエンは諭すようにサクジに告げながらも、その視線は『エヴィ』が纏っているオーラに向いていた。
どうやらコウエンは『イダラマ』よりも『エヴィ』をこの場で相手にする方が面倒だと判断している様子であった。
この場に居る者達は組織を離れる事となった『はぐれ』と呼ばれる『妖魔召士』達ではあるが、戦力外とみなされて組織を追い出されたというわけではない。
あくまで前時代の組織の長であった『シギン』から『ゲンロク』へとその座が移った事で、自ら組織から距離を置いた者達も多く居るのである。
当然『コウエン』は別格だとしても『サクジ』や他の者達も前時代の『妖魔召士』組織で『上位妖魔召士』とされていた強者揃いの退魔士達なのである。
そんな彼らは今の『同志』の魔力を一瞬で奪って見せた『イダラマ』が、如何に手の届かない程の存在かを頭でしっかりと理解していた。
――だからこそ『コウエン』の言葉に従う他なかった。
「ちっ……!!」
これ見よがしに大きな舌打ちをしながら『サクジ』は、自分から見て若造であった『イダラマ』を睨みつけながら大人しく引き下がるのであった。
当代の『最上位妖魔召士』と呼ばれる者達は、黄金時代とも呼べる前時代の『妖魔召士』組織であれば『サクジ』達のような『上位妖魔召士』と『魔力』に大差はなかった筈なのだが、どうやらどう足掻いても自分では『イダラマ』には勝てないと『サクジ』が悟った結果でもあり、この瞬間に『イダラマ』と『サクジ』の明確な『格付け』が行われた瞬間でもあった。
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