第1476話 決裂

「だが、イダラマよ。先程も言ったがここでお主らがワシらと『同志』達を助けに行かず、そのまま『妖魔山』へ向かうのであればここでワシらとは別れる事になる。お主の目的とワシらの目的は『妖魔山』に関してであれば利害が一致しているのだ。共に向かった方が互いに利があると思うのだがな?」


 そう話す『コウエン』は、今日ここでイダラマと合流する前と、した後では明確にイダラマを見る目が変わっていた。


 どうやら実力をの一端を示したことで、コウエンから見ても『イダラマは侮れない強者』という印象になったのであろう。


 まさに対等と呼ぶにふさわしい『最上位妖魔召士』と認めたようである。


「申し訳ないが、この隣に居る麒麟児は一刻も早く『妖魔山』へ向かいたいようなのでな。ここで『サカダイ』にまで戻るという選択は取ることは出来ぬようなのだコウエン殿。こんな結果になった事は非常に残念でならないが、先に『妖魔山』へ向かう事にさせて頂く」


 イダラマがそう告げると『コウエン』は、ちらりとイダラマが麒麟児と呼んだ青い髪の少年『エヴィ』の方に視線を向けるのだった。


 コウエンの視線の先に居るエヴィは、自分がイダラマの話に利用された事に気に食わなかったようで、不満な様子を浮かべていたが、話の流れ的にはイダラマに賛成の為に、むくれた様子を見せながらも大人しくしているようであった。


「そうか……。だが、我々も『同志』の救出を成功した後はお主を利用して『妖魔山』へ入らせてもらう事になるが、それは構わないのか?」


「ああ。それは勝手にして頂いて構わぬよ『コウエン』殿。本当であれば私の目的に協力をしてもらおうと考えていたが、このような不測の事態が起きた以上は仕方があるまいて。私とて『サクジ』殿の言い分は分かるつもりだし、本当であれば助けに行きたいとも考えていたが、今はどうしても『妖魔山』でやらねばならぬ事もある。だから『同志』を助けに行けぬ代わりだと思って『妖魔山』へは今後も自由に入ってくれて構わぬ」


 コウエン達やこの場に居た『同志』達は、訝しぶるようにイダラマを見るのだった。


 本来『妖魔山』に入る事など『はぐれ』となった今では相当に厳しく『妖魔召士』組織を敵にするつもりでもなければ『妖魔山』には入れないのである。


 だからこそ、イダラマからこの話を持ち掛けられた時は、相当な対価を要求されると考えていたが、蓋を開けてみれば労せず『妖魔山』へ入る事が可能となったわけである。


 もちろん事情があったからこその結果ではあるが、そんな簡単に許していいのかとばかりに『コウエン』達は考えるのであった。


「そうか……。この場に居る者達の中にはお主の振舞いに納得いかぬ者も多数居るだろうが、結果としてお主のおかげで『妖魔山』に入る事が可能となったのは事実だ。恩に着るぞイダラマよ」


 まだイダラマを睨みつけている『サクジ』や他の妖魔召士も大勢居たが、コウエンがそう告げると先程の男のように突拍子もなく襲おうと考える『守旧派』の妖魔召士も現れず、成り行きを見守るように静かにイダラマとコウエンの両名の様子を傍観するのだった。


「ところで……。お主も気持ちは分かるが先走りすぎだ。イダラマがどのような『妖魔召士』かは直接手を出したお主も理解しただろう?」


 コウエンはイダラマとの会話の後、直ぐに先程イダラマに根本の『魔力』を奪われた『妖魔召士』の男に声を掛けるのだった。


「え……? あ、は、はい!」


 『魔力』を消失したことが原因なのか、茫然自失となって打ちひしがれていた男は、そのコウエンの声に返事をしてはいたが、どこか目が虚ろにしているのであった。


「イダラマよ、その男の『魔力』を戻してやってはくれぬか? もう二度とお主を襲わせるような真似はさせぬ」


「ええ、それは構いませんよ。私とて本気で奪ったままにしておくつもりはなかった。あくまで大勢の者達に襲われるのを防ぐために見せしめを行ったに過ぎませんでしたからね」


 イダラマはそう言うと、直ぐに先程放った『修劫しゅうごう』で奪った『魔力』を元に戻してやるのであった。


「お、おお……! わ、ワシの魔力が……! も、元通りに!!」


 男は歓喜の声をあげながら喜びを露にするのだった。


(た、確かに『修劫しゅうごう』で奪った『魔力』を同じ人間に戻す事は可能だが、あ、あんなにも平然と元に戻す事が出来やがるのか!)


 満足気に頷いているコウエンの横で『サクジ』は、あっさりと『魔力』を元に戻して見せたイダラマに畏怖すら覚えるのであった。

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