第1474話 大魔王エヴィの慧眼

「わ、若造が調子に乗るなよ!」


 イダラマの暴言と取られてもおかしくない程の言葉を聴いていた元『守旧派』の『妖魔召士』の一人が、まさに衝動的という言葉が相応しい程の勢いで喋り終えた瞬間のイダラマに向けて『捉術』を放とうとばかりに、恐ろしい速さで『印行』を結び始めていく。


「やれやれ……」


 『同志』であったその『守旧派』の『妖魔召士』の男がイダラマに攻撃しようとするところを見た『アコウ』と『ウガマ』は、入口から護衛の役割を果たすべく『青』を刀に纏わせてイダラマを庇おうと動き出そうとしたが、イダラマはその二人を一瞥すると軽く首を横に振った。


「「……」」


 一足飛びで他の『妖魔召士』達の頭を飛び越えて『イダラマ』に向かおうとしていた『アコウ』と『ウガマ』は、そのイダラマの視線と仕草に動きを止めた。


 本来『妖魔召士』の護衛であれば護衛主が如何に制止しようとも『護衛』である以上は護衛主の命を守る事に専念するものだが、どうやらこの『アコウ』と『ウガマ』は余程、イダラマのすべき事を信頼しているのだろう。


 その信頼を以て、今は動く必要がないと判断したようである。


 そして『アコウ』達と同様にイダラマの隣に居た『エヴィ』もまた『妖魔召士』が『魔力』を伴って『印行』を結んでいた僅かな時間だけイダラマの方に視線を送ったが、イダラマの周囲に『魔力』が『スタック』させられているのを見て、その『スタック』と『妖魔召士』の『捉術』に使う『魔力』の量から一瞬でと判断したようで、そのまま欠伸あくびを始めるのであった。


「目上の者に対して取るその態度も気にわぬが、お主の危険なその思想をこれ以上は野放しにするわけにはいかぬ!」


 そう口にしながら先程怒号を発していた『妖魔召士』が、遂に印を結び終えたようで『イダラマ』に『捉術』を使おうと迫ってくるのであった。


「全く哀れなモノだな。自分の想像を超える物を認められない愚かで頭の固い遺物めが」


 ――魔瞳、『青い目ブルー・アイ』。


「馬鹿が! ワシら上位の妖魔召士に『魔瞳まどう』を使うなど無意味だ!」


 ――魔瞳、『青い目ブルー・アイ』。


 攻撃の『捉術』の始動に入っている『守旧派』の『妖魔召士』であったが、それでもイダラマの『魔瞳まどう』に対して、即座に対抗の『魔瞳まどう』を用いて相殺を行うのだった。


 そして間合いに入り込んだその男は、もはや無抵抗状態となっているように見える『イダラマ』の首を目掛けて『動殺是決どうさつぜけつ』を放った。


「何と容易い。意識を背けさせる為に放った『魔瞳まどう』を相殺しただけで満足し、そのような悪手を放つとはな」


 確かに『動殺是決』は殺傷能力が高く、相手に対応策が取れない時に限ってはこれ以上はない程に効果を示す事の出来る『捉術』ではある――。


 ――が、しかしそれは本当に『無抵抗』であればの話だが。


 単に『魔力値』が高いだけの者が『最上位妖魔召士』と呼ばれるわけではない。


 あらゆる状況に応じていくつもの対抗策を準備して、実際にその用意している対抗策を上手く扱う事が出来る者が本来の『最上位妖魔召士』とされるものなのだ。


 ――異端であるが故、異常であるが故に、自身の求める道を孤独に模索し続けた男『イダラマ』。


 自分の求める道を歩み続けてきた彼が、その途次に『会得』の境地に至った『技法』。その数多の『技法』の一つがこの場で実演される事となった。


 ――『魔利薄過まりはくか』。


 『守旧派』の妖魔召士がイダラマの首を掴もうと手を伸ばしたが、妖魔召士が掴んだと思ったその瞬間に、掴んだ手からイダラマの首が消失する感覚を覚えるのだった。


「なっ……!?」


 確実に仕留められると考えていた『守旧派』の妖魔召士は、イダラマが自分の手から離れていく感覚を受けて驚きに目を丸くするのだった。


 そしてその様子を隣で見ていたエヴィは、片目を閉じながら『イダラマ』の『スタック』されていた場所に視線を向けるのだった。


(今のイダラマの『魔力』の『スタック』の使い方は、これまでの『捉術』とかいう攻撃手法とは違い、明らかに僕らの世界の『魔法』を使う時に近い使い方だった。しかし『ことわり』も使ってはいないし『発動羅列』さえ表記がなかった以上は今のも『捉術』の一部なのかな? 効果自体は一見『時魔法タイム・マジック』のようだけど、あの『魔力』の使い方を見るに『エイネ』さんや『ホーク』さんに近いモノを感じる。やっぱりイダラマは侮れない人間だね)


 ここにきて改めてイダラマという人間の強さを認めるエヴィであった――。

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