第1461話 魔神の聖域結界

「――」(それではご所望通りに『結界』を張るけど、貴方が使う『死の結界アブソ・マギア・フィールド』を完全に覆い隠す程の『結界』となれば、相当の規模になるけどいいのね?)


「采配はお主に任せるが、決して失敗は許されぬという事だけは伝えておく」


「――」(……分かったわ)


 そのソフィの言葉を聞いた『魔神』の目が真剣さを帯びていく。


 そして『力の魔神』が手を目の前にかざすと同時に、恐ろしい程の魔力を用いてこの周囲に『結界』を施すのであった。


「こ、これは……!?」


「おい、セルバス! 『魔力感知』をするのもやめておけ! 『漏出サーチ』を使う何ていうのはもっての外だぞ!」


「わ、分かっているが、ヌー!! こ、こんな背筋が凍る程の『魔力』の奔流を間近で浴びているんだぞ! どうすりゃいいって――っ!?」


 『魔神』の『聖域結界』と呼ばれる程の『魔力』そのものがこの場に体現している事で、セルバスは無意識に感知を行ってしまっていたようだ。


 彼程の『大魔王』領域の『魔族』であれば当然『漏出サーチ』など使うことなどはしないが、彼のこれまで学んできた『基本研鑽演義』ので、咄嗟に危機が迫った時に取るべき行動というモノが染み付いてしまっていた事による弊害と呼べた。


「すまぬな、セルバスよ。もう少しだけ我慢してくれ」


「だ、旦那!?」


 セルバスは『魔神』の膨大な『魔力』にあてられて眩暈を引き起こしてはいたが、意識を失う直前に『ソフィ』が右手で強引に『魔神』の魔力の余波を自身に向けて、盾となってくれた為に事なきを得るのであった。


 ……

 ……

 ……


「な、何ですか、唐突に、このような……!?」


 『魔神』の『聖域結界』を感知したのは『セルバス』だけではなく、その張られた『結界』の内側の『牢』に居る『ヒュウガ一派』達にも伝わっていた。


 彼らもこの世界で優秀な『妖魔召士』である。当然に『魔力』の感知を行う事は出来るのであった。


「くっ……! 目を隠されておるせいで何も分からぬ! い、一体何が起きようとしておるというのだ!」


 ジンゼンや他の妖魔召士達の嘆く声を聴きながら『チアキ』は、目隠しの内側で涙をぼろぼろと流していた。


(うっ……、ううっ……! あ、あんな痛くて怖い思いをしたところなのに! こ、今度は何をされるっていうのよ! ひゅ、ヒュウガ様なんかに……! こ、こんな、こんな馬鹿なんかについて来なければよかった! もうあんな恐怖を受けるのは嫌だぁっ!!)


 大魔王『ヌー』が『三色併用』を使うに至り、彼は自分の力をその細部まで知り尽くす為に『チアキ』を実験材料に選んだ。


 その所為で彼女は圧倒的な力の差を見せつけられて、その顔を何度も殴られて汚染した強力な毒などを肺に思い切り吸いこまされた挙句に死ぬことを許されずに、何度も何度も実験を加えられた事で恐怖心を植え付けられて、如何に自分が惨めでちっぽけな存在であるかを思い知らされた。


 もう彼女は『コウゾウ』と戦ってきた時のような自信に溢れた戦いを行う事は出来ないだろう。


 それどころか、もう『妖魔召士』として戦う事すら今後は不可能だという状態にまで『心』を壊されてしまったのである。


 そんな彼女はフラフラの身のままで、この『牢』の中に入れられた。


 そして目を覚まして後悔の念に囚われていたところに、再びあの『煌鴟梟こうしきょう』のアジトで相まみえた『魔神』の『魔力』の奔流を感じ取ってしまい、あの時の恐怖心が再び蘇り、彼女は今どうしようもない程に絶望を味わっているのであった。


 そしてそんな絶望を味わっている『チアキ』の気持ちなど全く知らず、そのチアキ達に命令を出していた首謀者であった『ヒュウガ』は冷静に『魔神』の魔力を感知していた。


(この『魔力』の出所は直ぐ近くからだと感知が出来ているというのに、これまで感じてきた『妖魔』や『妖魔召士』達のような『魔力』とは全くの異質なモノを感じられている。この『魔力』の持ち主は『人間』や『妖魔』が発しているものではないのだろうか? まさかこれはあの『ソフィ』とかいう輩が口にしていた『魔族』とやらの『魔力』だというのか……?)


 ヒュウガは『魔神』の『魔力』を『魔族』のモノだと勘違いはしているが、その勘違いは全く見当外れだというわけでもなく、ソフィという『魔族』の身近な存在のものである事には間違いはなかった。


 ……

 ……

 ……

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