　コウヒョウの町で前時代の『はぐれ』であった『妖魔召士』達と『イダラマ』が合流して話を行っている頃に『サカダイ』の『妖魔退魔師』本部では、当初の予定通りに『ソフィ』が『ヒュウガ』達の『牢』を含めた部屋全域に例の『結界』を施すところであった。

「それでは本当に『魔力吸収の地（アブソ・マギア・フィールド）』を『牢』を含めたこの部屋全体に張るが、本当にいいのだな？」

「はい、ソフィ殿。宜しくお願いします」

　ソフィ達が居る場所は『ヒュウガ一派』が居る『牢』がある場所の近くではあるが、この場所はまだ『牢』が直接見える場所ではなく、その襖を挟んだ一部屋前の待機所となる場所の更に扉の前である。

　この『結界』の事を『ヒュウガ』達に事前に知られるのを防ぐ為でもあったが、もしこの本部に敵が侵入してきた場合、外側の『廊下』と『牢』の間の『待機所』から万が一を考えて『結界』を施す事によって、より効果的な結果を生み出すだろうと『ソフィ』が判断したのであった。

「うむ。一度『結界』を張ってしまえば『効力』の調（・）節（・）な（・）ど（・）は（・）出（・）来（・）ぬ（・）か（・）ら（・）気（・）を（・）付（・）け（・）る（・）の（・）だ（・）ぞ（・）。たとえ『魔力』を使わざるを得ない状況下に置かれたとしても『魔力枯渇』を感じた時点で極力使用を止める事だ。その『魔力枯渇』を感じた時点から僅か数秒後には、貧血状態に近い感覚を覚え始めて眩暈を引き起こし、その後は更に短い時間で死に至る。間違っても『魔力枯渇』を起こした状況からで『魔法』……いや、お主ら妖魔退魔師とやらであれば『青』のオーラを纏わせるのは止めておくことが賢明だ」

「当然だな」

「ああ、旦那がここまで分かりやすく注意してくれたんだ。その上でそれでも旦那の言葉を無視して『魔力』を使うような、どうしようもない馬鹿はここで死ぬべきだな」

　ソフィがこういった風に『使うな』と断言する時は、間違いなく言う通りにした方がいいだろう。

　それは『妖魔退魔師』の者達よりも、この場では『ヌー』や『セルバス』といった『アレルバレル』の世界で大魔王であった彼らの方が理解しているようであった。

「わ、分かりました。ここを見張る者や、今後増やした護衛の者達にもきつく伝えておきます」

　副総長ミスズはソフィ達の言葉を聴いて、慌ててそう告げるのだった。

「まぁ、そうだな……。忠告の為に少しばかり脅かしてしまったようだが、数日以内であれば我が何とか出来るかもしれぬ。万が一の時には我に何とかしてくれと遠慮せずに言ってくれミスズ殿」

「は、はい。その時はよろしくお願いします。ソフィ殿」

「うむ」

　ミスズの言葉に頷いたソフィは、次にこの場に『魔神』を出現させる為の詠唱を行う。

　――次の瞬間。

　この場に再び見目麗しい女型の『力の魔神』が姿を現すのであった。

　『魔神』を初めて見た者達は驚愕の目を浮かべて、驚きの声をあげるのだった。

「――」（まぁ！　またこんなにも直ぐに呼んでくれたのね、ソフィ！）

　周りの目や声など全く気にしない様子を見せながら『魔神』は、嬉しそうにソフィに声を掛けてくるのだった。

「うむ。またある程度多くの『魔力』を使う必要が出てきたのだ」

　ソフィが素直にそう告げると嬉しそうだった『魔神』の表情が少しだけ陰りを見せた。

「――」（……嘘でもいいから、私に会いたかったって言ってくれればいいのに）

「む？　何か言ったか？」

「――」（いいえ、何も言ってないわよ？　それじゃ『魔力』を返還するわね）

「うむ、頼むぞ」

　『魔神』の言葉は『契約者』以外には、神位を持つ同じ『神々』にしか伝わらないため、この場に居る者達は『魔神』が何かを告げているのは理解出来るのだが、その言語が違うために『ソフィ』が口にしている言葉から内容を把握しなければならず、この一連のやりとりでは何の話だったのか、さっぱりわからずにいるのだった。

　そうこうしている内に『魔神』はソフィに『魔』の『力』を返還し始める。

　するとソフィの『魔力値』の絶対数が跳ね上がっていき、ヌーは否応なしに反応させられるのだった。

（ちっ……！　この化け物の素の状態でさえ、とんでもない『魔力』をしてやがる。ここから更に何倍も上昇しやがるっていうんだから、全くやってられねぇよな）

　この素の状態のソフィが相手であっても『アレルバレル』の世界の『魔界』に生息する『魔族』達に対して、恐ろしい程の威圧感を与える事が出来る程であるのだから、よっぽどこの化け物（ソフィ）にとっては、あの強者揃いの『アレルバレル』の世界であっても、退屈な『世界』に映っていたのだろうなとばかりにヌーは考えるのであった。