第1386話 ヒュウガへの報告

 空からジンゼンを抱えて降りてきたナギリを見て、ヒイラギはその場でひっくり返るように尻もちをついた。


「どうやらそっちも片付いたようだな?」


 そして時同じくして『ヤヒコ』もまた、前方にいたランク『5』の妖魔と、それを使役した『妖魔召士』を片付けて戻ってきたようであった。


「ええ。それよりも『ヤヒコ』さん。妖魔召士の方はちゃんと生かしてますか?」


「もちろんだ。副総長の命令を忘れたわけじゃないさ。それよりそっちはまだ残っているようだが」


 そう言ってヤヒコがナギリから視線を尻もちをついて倒れているヒイラギへと向けるのだった。


「う、うう……!」


 どうやらヒイラギは『妖魔退魔師』と戦う事が如何に馬鹿げていることなのかを改めて理解したのだろう。


 『退魔組』内では圧倒的な魔力を誇り、同じ退魔士達からは尊敬の目を向けられるヒイラギ達『特別退魔士とくたいま』だが、そんなものは結局『妖魔退魔師』の前では何の役にも立たない。


 禁術を用いる事で一時的に下位の『妖魔召士』と並ぶような『式』を手にする事が出来るようにはなったが、それでも『妖魔退魔師』が相手とあっては、あっさりとやられてしまう。それが現実のようであった。


「何やら絶望しているところ悪いが、お前も縛らせてもらうぜ? これも任務だからな悪く思わないでくれ」


 そう言いながらナギリは抱えていた『ジンゼン』をヤヒコに預けると、ゆっくりとヒイラギの元に近寄ってくる。


「俺に逆らうつもりはない。勝手にしてくれ」


 あんなに有利な状況で戦局を覆されたとあっては、もうヒイラギは抵抗する気力も湧かなかった。


 そもそも『魔力枯渇』を起こしかかっているヒイラギには最初からそんなつもりもないようだったが。


 その言葉を聴いてナギリは頷くと、この場に居る『退魔組』の者達と『ヒュウガ』一派の妖魔召士を全員捕縛するのであった。


 クキやジンゼンを含めた『退魔組』の護衛剣士達も全員が意識を失ってはいるが、誰も死なせてはいない。


 あれだけの数を相手に全員を生かして捕らえる難しさは、いったい如何程であろうか――。


 それを行ったのが『組長格』ですらない妖魔退魔師達だというのだから、黙って縛られながらも胸中では『こんな化け物集団を敵に回して勝てるはずがなかった』と改めて実感する『特別退魔士とくたいま』の『ヒイラギ』であった。


 ……

 ……

 ……


 スオウやナギリ達がまだ戦っていた頃、森の奥側の洞穴で報告を待っていた『ヒュウガ』は、自分の元に近づいてくる魔力を感知するのだった。


 その魔力の持ち主が誰のものかを察したヒュウガは、警戒心を解いてその魔力の持ち主がこの場に姿を現すのを待つのであった。


 そしてヒュウガが感知してから数分後、待っていたその魔力の持ち主の『キクゾウ』が『黄雀こうじゃく』を連れ立ってヒュウガの前に姿を見せるのであった。


「お待ちしておりましたよ『キクゾウ』。ある程度の事情は『ジンゼン』から伺いましたが、貴方は魔力枯渇を起こしていた『ジンゼン』の代わりに『妖魔退魔師』を屠って頂いていたようですね?」


「え? い、いや……、それが……」


 その妖魔退魔師と戦って敗れそうになった事を伝えにこの場にやってきた『キクゾウ』は、出鼻をくじかれた格好となってしまい、言葉に詰まるのであった。


 キクゾウからいい知らせが聞けるだろうと、信じて疑わなかったヒュウガだったが、歯切れの悪い返事をしたキクゾウに眉を寄せるのだった。


 そして一体何があったのかを詳しく追及しようとしたところに、キクゾウの傍にいた『黄雀こうじゃく』が先に口を開くのであった。


「ヒュウガ殿。確かに我々はあの忌々しい天狗の『王連』の代わりに『妖魔退魔師』の襲撃に向かったのだが、情けない事にこの通り、返り討ちにあってしまったのだ」


 そう言って『黄雀こうじゃく』は自身のなくなった方の腕を見せながら『キクゾウ』の代わりに報告を行うのであった。


「なっ……!? そ、それは誰にやられたというのですか? ま、まさか……、私の命令に背いて『ミスズ』殿を襲撃したわけではないでしょうね!?」


 『黄雀こうじゃく』から事情を聞かされたヒュウガは血相を変えながら、そう口にするのだった。

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