第1385話 ナギリの決着の行方

 禁術を施されて無理矢理にランクを上げられた『妖魔』達や、退魔組の護衛剣士達を倒したナギリは、残っている退魔組の『特別退魔士とくたいま』と、その背後の空の上で鳥の妖魔に跨りながら歯噛みしているジンゼンを視線で捉えると、ゆっくりとそちらに向かって歩き始めていく。


「下がってください!」


 残っている護衛剣士の『ミナ』は、魔力枯渇を起こす寸前のヒイラギを下がらせると、震える手を誤魔化すように刀を握りしめるのだった。


「!?」


 しかしそんなミナの目の前までナギリが一瞬で移動を行ったかと思うと、ヤエ達と同様にあっという間にミナの意識を断ってみせるのだった。


「み、ミナ……?」


 あっという間の出来事に意識がついていかず、ヒイラギは自分を下がらせて庇おうとしてくれた『ミナ』の名を呼ぶが、返事がかえってくることはなかった。


「く、くそっ……!」


 ヒイラギが悔しそうに手印を結び始めたのを見たナギリは、今度はヒイラギを無力化しようと動こうとしたが、そこで唐突に接近する『魔力の波』のようなモノを感じて空を見上げる。


 ――そしてそれは、上空から『ジンゼン』が放つ魔瞳『青い目ブルー・アイ』の発動の余波であった。


 ナギリはヒイラギを後回しにして、上空からの『ジンゼン』の『魔瞳まどう』の回避を優先する。

 このままでいれば確実に動きを止められてしまうと判断した為であった。


「ちっ……! 虚を突いてさえ、外されるか!」


 一昔前までならば妖魔達に対して、必中させられるのが当然だと思われていた『青い目ブルー・アイ』だが、対象が同じ人間である『妖魔退魔師』になった途端、あっさりと『魔瞳まどう』は使い物にならなくなってしまった。


 今ではもう当時の安心感など感じられなくなってしまい、妖魔退魔師に使用しようともなると、今のジンゼンが行ったように相手の虚を突いた時でしか効果見込みはない。


 更にはそれすらも躱されてしまっている始末であった。


「ジンゼン様! 後ろです!」


「むっ!?」


 ヒイラギの叫び声に慌てて反応したジンゼンが振り返るが、もうその時には三日月型の衝撃波が迫ってきているところであった。


「い、いつの間に!?」


 驚きの声をあげたジンゼンだが、もはや『式』に指示を出す時間の余裕はなかった。


「くっ、くそっ……!!」


 ジンゼンは仕方なく跨っていた『式』から飛び降りると、下に居る退魔組の『クキ』達に視線を送る。


 その視線を受け取ったクキは、直ぐ様ヒイラギに向けて口を開いた。


「ヒイラギ! お前は魔力が残り少ない。俺がジンゼン様を何とかするからお前は『妖魔退魔師』の居場所を探れ!」


「わ、わかった!」


 クキはヒイラギに指示を出すと、直ぐに懐から新たな『式札』を取り出そうとした。


 ――その時であった。


「悪いが邪魔をしないでもらおう」


「ぐはっ……」


 忽然と姿を消していたナギリは、いつの間にか『クキ』の背後に立っており、そのクキが『式札』を投げようとした瞬間に、意識を遮断されてそのまま前のめりに倒れるのだった。


「くっ……!」


 空から落ちてくるジンゼンは、自分を受け止めてくれる筈だった『クキ』が倒されたことにより、地面へと真っ逆さまに落ちていく。


 身一つで戦ってこられた『妖魔退魔師』とは違って身体能力だけならば、ほとんどの『妖魔召士』は普通の人間と変わらない。


 更に『青』といったオーラも纏えない以上は、このまま待つのは死である。


 慌ててヒイラギがジンゼンを助けるために何かを行おうとしたが、それよりも『ナギリ』の行動の方が早かった。


 ――刀技、『疾風はやて』。


 ジンゼンが自分の跳躍で届くところまで落ちてくるのを待ってから、ナギリは一気に飛び上がって下から『ミスズ』副総長の直伝である刀技をジンゼンに繰り出す。


 恐るべき速度で何度も斬られたジンゼンは、彼もまたナギリによって意識を失わされるのだった。


「ミスズ副総長から与えられた任務は、お前達だからな。生かしておいてやるから感謝するんだな」


 そう告げて落下するジンゼンを抱きかかえたまま、地面に着地するナギリであった。


 ……

 ……

 ……

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