第1371話 王連の誘いの一撃
「ほう。お主もあの
「さて、どうだろうね?」
『王連』は大太刀を構えるスオウを見ながらそう告げると、スオウもその王連の視線にしっかりと合わせて口を開いた。
(この妖魔の言うおなごというのは『キョウカ』組長の事だろう。あのキョウカ組長と戦って無事に生き延びられているという事からも間違いなくランク『8』に匹敵するとみて間違いないだろうね……。やはり『天狗』は厄介だね)
スオウはそんなことを胸中で呟きながら得の大太刀を水平に持ち上げ始める。
「カッカッカ、実際にどうであるか試してやろうぞ」
『王連』はそう告げると懐から羽団扇を取り出すと同時に木から地上へと飛び降りて、持っている羽団扇に『魔力』を注ぎ込み始めるのだった。
(何だ……? あの羽団扇を使って攻撃を仕掛けようというつもりなのだろうけど、飛び道具として扱うつもりなのであれば、わざわざ木から降りてこない方が都合がいいと思うんだけどな)
スオウ程の力量を持つ妖魔退魔師であれば、相手が木の上であろうが地上であろうがそこまでの大差は感じられないが、それでも地上の方が遥かに戦いやすいという事には変わりはない筈である。
そうだというのにわざわざ降りてくる理由がわからずに訝しそうに眉を寄せながら『王連』の行動に疑問を持つのであった。
――しかしその疑問の答えは直ぐに分かる事となるのであった。
「自ら地上へ降り立つとは……。どうやら我々『妖魔退魔師』というモノをはかり違えたな『天狗』!」
『ヤヒコ』はそう言うと得の刀に『瑠璃』を纏わせ始めたかと思うと、尋常ではない速度で『王連』に向けて先手必勝とばかりに襲い掛かっていくのだった。
「あ、ま、待たれよ! 『ヤヒコ』殿!」
「駄目だ、ヤヒコ! 止まれ!!」
スオウとナギリが同時に叫ぶようにヤヒコに静止を呼びかけたが、今が好機とばかりに考えた『ヤヒコ』の足は止まらずに『王連』に攻撃を仕掛けるのであった。
「ふーむ。やはり本命を絡め取って仕留めるというワケにはいかぬか……」
口では残念そうにそう告げる『王連』だったが、恐ろしい速度で迫ってくる妖魔退魔師を見た彼の表情には笑みが浮かんでいるのだった。
そしてそこに恐るべき速度で『王連』に肉薄してきていた『ヤヒコ』は自分の間合いに入ったと確信して『瑠璃』を纏わせていた得の刀で斬り伏せようと振り切った……つもりであったが――。
(なっ……!?)
ヤヒコは王連の目の前で急に足が止まったかと思えば、振り切ろうとした得物の刀を持つ手も止めてしまうのであった。
――否。厳密には手も足もヤヒコの意思で止めたのではなく、止められたという方が正しい。何故ならヤヒコの動きを止めたモノは『王連』の『神通力』のせいだからである。
「カッカッカ! 残念だったな? しかし儂らのような『天狗』を相手にするのならば、もう少し思慮深く行動をとった方が良いぞ? この程度の誘いに乗るようであれば、妖魔退魔師としての名折れである」
どうやら木の上でこれ見よがしに羽団扇に『魔力』を込めた事や、隙を作るように木から飛び降りてみせたのもわざとであったらしく、王連は笑みを浮かべながら余裕綽々と言いたげに注意を促し始めるのだった。
そして王連は持っていたヤツデの葉の形をした羽団扇をヤヒコに向けると、煌々と灯りを放ちながら集約された『魔力』が一層激しさを増し始めると恐ろしいほどの風が発生し始める。
そのまま地上で発生した風は空へとヤヒコを巻き上げるように吹き始めるが、その瞬間に動けないヤヒコを救出しようと二つの影が同時に発生した風の元へと近づいてくる。
――その影の正体は『スオウ』と『ナギリ』であった。
同時に王連達の元にたどり着いた彼らは声を掛け合うような事もせず、一瞬だけ互いに一瞥しあっただけで意思の疎通を行うと、スオウはまだ少し距離のある『王連』に向けてその場で得の大太刀を水平に振り切ると同時に、衝撃波を前方へと飛ばした。
「ぬ!?」
妖魔退魔師と名乗れる程の刀の達人であれば、この三日月型の衝撃波を飛ばせる者は、そこまで珍しいことではないが、それでもスオウの放つ衝撃波の速度は信じられないほどに速く、流石の『王連』もその場から離脱せざるを得ないと判断して、直ぐ様その場から離れた。
それをみた『ナギリ』も行動を起こして、発生している風で巻き上げられ始めていた『ヤヒコ』の更に上空へと飛び上がって自らも風の上昇気流にのって空へと浮き上がっていき、並び立つ森の木のてっぺん部分の高さくらいまで僅かな間に浮き上がらされた。
しかし何とか両手足を伸ばしてあの『キョウカ』が行ってみせたような態勢をとった後に、強引に自分の下に同じく上昇気流にのって空を浮いているヤヒコが自分の元に近づいてきたところを確認すると、そのまま強引に『瑠璃』を纏うと前方に向けて、あの時の『キョウカ』と同じく器用に伸ばしていた足を閉じてみせる。
そしてそのまま前を見据えて前傾姿勢を強引に取った後に刀を振り切って三日月型の衝撃波を飛ばして、強引に竜巻上の風の檻を抜け出すのであった。
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