第1370話 王連、再び

「スオウ様……」


「ああ。どうやら彼らも俺達の事を無視が出来なくなったみたいだね。あの『ヒュウガ』殿の居る場所に俺達が近づけた事を意味しているのか。それとも他の何か理由があったのか。そこまでは分からないけれど、奴らは俺達の事を『妖魔退魔師』だと知っている上で襲ってくるんだ。相手もそれなりに強敵だと思うから気を抜くような真似だけはしないでね」


 スオウが『ナギリ』や自分の配下の『二組』の部下にそう告げると、二人は神妙に頷くのであった。


 彼らは『妖魔退魔師』組織の中でも相当な実力者であり『ナギリ』はあの副総長である『ミスズ』に鍛えられた『特務』に所属する腕利きの妖魔退魔師であった。


 そしてこの先頭グループの『スオウ』と『ナギリ』の両名のチームにいる『二組』の『ヤヒコ』もまた、当代の体制に移ってから数年に渡って『スオウ』の組で隊士を務め上げている。


 この両名も十分に戦力を有する『妖魔退魔師』達ではあるが、それでも先頭グループである彼らが『加護の森』で一度も『妖魔召士』から襲撃を受けてこなかった理由は、やはり『スオウ』組長という存在が大きかったからといえるだろう。


 『攻撃力』という一点では『ヒノエ』組長には及ばず、更には『キョウカ』組長のように戦闘時における立ち回り方や対処法に優れているわけでもない。


 しかしそれでもこの『スオウ』組長と本気でやり合うような事があれば、妖魔退魔師の最高幹部であるスオウを除いた他の『組長格』の両名も苦戦を強いられることであろう。


 現在は『一組』から『二組』へと降格させられてしまった『スオウ』だが、それはあくまで『ヒノエ』の組織に対する金工面等といった貢献度によるモノが大きく、戦闘に必要な能力の面で降格となったわけではない。


 それが証拠にヒノエにその座を奪われるまでは、彼がこれまで『一組』の組長として君臨し続けてきたのである。


 その事は『妖魔退魔師』組織だけではなく『妖魔召士』組織の者たちも知るところであり、当然その『妖魔召士』組織にいた『ヒュウガ』一派に属している者達もその全員が認識をしている。


 下手に手を出せないというのが彼ら『妖魔召士』の共通の認識だったのであろうが、ここにきてその流れが変わりつつあった。


 そしてそれは先程の『スオウ』が口にした通り、彼ら『ヒュウガ』一派の主となる『ヒュウガ』がこの近くにいるという理由なのかもしれないし、または『下位から中位妖魔召士』ではなく、その上の存在である『上位妖魔召士』が本腰を入れてこの場に現れたからなのかもしれない。


 そしてその『スオウ』の予想は間違っていなかった――。


 この先頭グループにいる『スオウ』達に近づいてきたのは『上位妖魔召士』である『ジンゼン』が使役したランク『7』を超えているであろう大天狗『王連』なのであった。


「ふーむ。確かにこの場に居る人間達は誰をとっても侮れぬ『妖魔退魔師』達のように思えるが、やはりお主だけは周りの者と比べても別格のようであるな」


 『加護の森』の高い木の上で『スオウ』達を見下ろしながら『大天狗』の『王連』はそう口にするのだった。


 …………


「す、スオウ様! お、お気を付けください! あの『天狗』の妖魔はどうやら『王連』のようです!」


「あ、あれが噂の……! で、ではあの『ジンゼン』殿も近くにいるのではないでしょうか!?」


 ヤヒコがこの場に現れた妖魔の詳細を口にすると、スオウではなくその隣に刀を抜いて戦闘態勢に入っていた『ナギリ』が返事をするのであった。


 『妖魔退魔師』組織の中でも天狗の『王連』の名と、その『王連』を見事に『式』にしてみせた『妖魔召士』の『ジンゼン』の名は、まさに『妖魔退魔師』組織の『スオウ』のように、相手の組織に知れ渡っているのだった。


「天狗の『王連』か。確かにこの戦っていないのにピリピリする程の『威圧感』は間違いなさそうだね。どうやらヒュウガ殿達も本腰を入れてきたってことで間違いなさそうだ」


 そう言うと『スオウ』は自分に視線を向けてきている『王連』に、自身もしっかりと視線を合わせると自分の身の丈に合っていないような『大太刀』を抜いて構え始めるのだった。

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