第1315話 ミスズの考える編成

 本部の大広間で『総長』や『副総長』それに各組長格に副組長格。そこにソフィ達も加わって、今後の方針の話し合いが行われていた頃、この『妖魔退魔師』本部の一室で捕縛された『妖魔召士』二名が呟く程の小さな声で会話を行っていた。


 小声で話しているのには訳があった。それはこの部屋の直ぐ傍で監視を行う『妖魔退魔師衆』の姿があるからである。


(いつまで我らをここに閉じ込めておくつもりだろうか?)


(それは分からぬが、奴らとて馬鹿ではない。このまま我らを利用して『ヒュウガ』様の元へ向かおうとする筈だ。つまり奴らは我らを傷つけるような真似はしないだろう)


(そ、それもそうだな。それにしてもあの小娘には驚かされた)


(ああ、私も奴らの話す話の一端を聞いていたが、どうやらあの小娘は何やら我ら『妖魔召士』を恨んでいて、それであの場でお主を襲おうとしたのだろう)


(全く信じられぬような小娘だ。しかしミスズ殿があの場で見て見ぬふりをせずに止めたのだから、ひとまず此処にいる間は安全であろう。どうにかしてあの小娘が居なくなるまで従順なふりを続けておくべきだろうな)


(うむ。ひとまずは奴らの出方を窺おう。どうせ奴らは我らに手を出せぬのだ。知らぬ存ぜぬをひたすらに突き通しておけば、奴らもそのうち諦めて我らを解放するに違いない)


(然り、然り)


 そこに突然扉が開いたかと思えば、二人が大人しくしているかどうかを確かめに、見張りの妖魔退魔師衆が顔を覗かせるのであった。


「お前達、大人しくしているか?」


 二人は密談をしていたことを悟られぬように、互いに別の方向を見るのだった。


 ……

 ……

 ……


 シゲンから編成を任されたミスズは『ヒュウガ』一派を追って『加護の森』へ向かう者達と、ケイノトの『退魔組』へ向かう者達と二手に組織の隊士を分ける編成を数秒間のみ思案顔を浮かべて考えていたが、直ぐに顔を元に戻すと再びシゲンの方を向いて口を開いた。


「『加護の森』へはこの私と『特務』。そしてスオウ組長と『二組』の者達に向かって頂き、ケイノトの方へヒノエ組長と『一組』の者達に向かって頂こうと思っています。そして出来ればですが、ソフィ殿にもあの『魔法』を使って頂き送って頂きたいと思っているのですが……」


 ミスズはシゲンへの報告を行いながら、途中でソフィの方を見て申し訳なさそうにそう告げるのだった。


「む?」


「前回あなたに『ゲンロク』殿の里に送って頂いたことでソフィ殿の使う『魔法』というものは、大変に優れたものだということを自覚致しました。もしよろしければ今回も『ヒュウガ』殿達を捕縛するためにお力をお借り願えないでしょうか……」


 ミスズは眼鏡を外しながらそう告げて、ソフィに頭を下げた。


「うむ。我の方は構わぬよ」


「本当ですか! ご協力感謝致します」


「ソフィ殿、本当に感謝する」


 ミスズが感謝の言葉をソフィに告げた後、直ぐに総長の『シゲン』も椅子から立ち上がって、共にソフィに頭を下げるのだった。


「そ、ソフィ殿!! ぜ、是非私にも『魔法』とやらでケイノトに送って頂きたい! た、頼む!」


 それまで大人しく事の成り行きを見守っていたヒノエ組長は、再びソフィの目的地へ送る事の出来る『魔法』を使うという話を聞いて、目をキラキラさせながら口を挟むのであった。


「お待ちなさい。貴方はケイノトの『退魔組』の様子を窺いながら『キョウカ』組長と合流を目的とする編成です。優先度は『加護の森』へ向かったとされる『ヒュウガ』殿の方なのですから、ソフィ殿にはまず我々とスオウ組長を優先していただきたいと考えています」


「そ、それなら私達が『ヒュウガ』殿達を追わせてくださいよ! ミスズ副総長達がキョウカ組長と合流したらいいでしょう?」


「コウゾウは私の隊である『特務』に所属する予定のあった隊士です。その隊士に手を掛けたヒュウガを捕縛するのは副総長にして『特務』の隊長である私の務めです!」


「な、なんだそりゃ。ヒュウガを私にさせてくれてもいいじゃないですか!」


「ヒュウガ殿を殺すのではなく! 遊びじゃないんですよヒノエ組長!」 


「私だってコウゾウのことを大事な仲間だと思っていましたよ! アイツを一緒に鍛えるって約束したのを覚えているでしょう!?」


 どちらがソフィの『魔法』で目的地へ向かうかから始まって、いつの間にかヒュウガを捕縛するのはどっちかという話に移行しながら揉め始める『妖魔退魔師』組織の副総長ミスズと組長ヒノエであった。


 別に一度使ったら『魔力』がなくなって使えなくなるわけではないため、ソフィはどっちも送ると提案しようとした矢先に、後ろで控えていたヌーが、決死の覚悟を決めたような『セルバス』の顔を一瞥したあとに舌打ちをしながら口を開いた。


「おい! 俺も『加護の森』へは一度行った事があるから、俺がてめぇらを『加護の森』へ送ってやるよ。その代わり、こいつも一緒に連れていくと約束しやがれ」


「「え……?」」


 言い争いをしていたミスズとヒノエ、それに自分の肩を叩かれたセルバスは、驚いた様子で大魔王『ヌー』の顔を見るのであった。


 ……

 ……

 ……

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