第1314話 今後の妖魔退魔師組織の方針

「動忍鬼を『式』にしていた奴はお主が葬ったといっていたな? つまり同胞は契約の身から解放されたということだ! つ、つまり彼女は自由の身となって無事に『山』に戻れたのかもしれないということか!」


 元々彼は自分と入れ替わりに『妖魔山』に同胞は戻っている可能性はあると考えていたようだが、ここにきて更に現実味を帯びて複雑そうな表情から一転して、嬉しそうに笑みをこぼし始めるのだった。


「そうだと良いのだがな……」


 ソフィは何か思案を進めるような表情をしたかと思えば、目の前の鬼人にとって気になるような呟きを口にするのだった。


「何? それは一体どういうことだ?」


「あやつはタクシンとの契約が無くなった後に、どうやらお前のように『式』にされた『同胞』や、あやつの仲間の妖魔を救い出そうと単身で『退魔組』の者達の元へ向かおうとしておったのだ。玉砕覚悟の復讐を考えていたのだろう」


 ソフィの言葉を聞いた鬼人は血の気が引いたように青ざめていた。


「一応は考え直すようにと我は別れ際にあやつに告げて、あやつも迷ってはいるようではあったが、最後は納得するような表情をしておった。しかしこれまでの自分が操られて望まぬ戦いを強要されておったことを考えると、いつ再び鬱憤を晴らそうと動き出すか分からぬといえる。一度でも復讐に思い至った者は、決して達成されるまでその思いが晴れることは無いだろうからな。後はどれだけ動忍鬼が自らの心を抑えられるかにかかっておるだろうな」


 ソフィはそう言いながらあの時に動忍鬼に『報復をするのならば、それに相応しい力を身につけてからにしておけ』と自身が動忍鬼に対して告げた言葉を思い出していた。


(相手が組織で動いている以上は、同胞を想い復讐を考えていたであろう動忍鬼が、単身であのまま里に救いに向かったところで、志半ばにやられてしまうだろうと考えて、我はもう少し力をつけてから行動をするようにと告げたが……。あやつの気持ちを考えれば相当に酷なことを告げたものだと我は後悔をした。正論を告げたつもりの我か、それともあやつ本人によるこれまでを加味した感情か。どちらが正しかったのかは、今でも正確な答えを出せないでいるが、それでもこうして目の前に居る妖魔のように、動忍鬼自身を想って自らも『妖魔召士』と契約を果たして彼女を探しに来てくれたものもいた以上、やはりあの時に我が告げた言葉は正解だったように思う)


 『加護の森』で直接『動忍鬼』に告げた言葉と、その後に『ケイノト』の裏路地で『エイジ』達の話を聞いた後に思案するに至ったことや、こうして『サカダイ』の本部に現れた鬼人の同胞の思いを考えた上で、やはり動忍鬼には、今は辛い我慢を強いることになるだろうが、それでも死んでしまってこうして目の前に居る同胞達を悲しませるくらいならば、動忍鬼にはどうかあの時の自分の言葉で思い直してもらえていたらと結論に至ったソフィであった。


「お主が最後に俺の同胞と別れた場所は『加護の森』だといったか? ひとまず最近まで同胞が生きてくれていた事と、居た場所が知れたことは非常に助かった。教えてくれて感謝するぞ人間」


「うむ……」


 ソフィは鬼人に人間と間違えられたことを訂正しようかと少し悩んだが、ミスズ達とは違ってそこまで説明する必要性はないと判断して、そのまま素直に感謝を受け入れるのであった。


「しかしまた『加護の森』ですか。ヒノエ組長の報告でも『ヒュウガ一派』は『退魔組』の連中を連れて『加護の森』を拠点にするかもしれないと言っていましたね」


 ミスズは口元に手をやりながら思案顔を浮かべてそう告げた。


「ミスズ様! 確かにその情報は間違いがないかと思われます。ケイノトの門前に現れた『妖魔召士』達の中には『王連』を使役する『ジンゼン』という妖魔召士の姿はありましたが、ヒュウガやその側近達の姿はありませんでしたので、先にもしかすると『森』に向かった可能性があります」


 そこでこれまで『鬼人』の妖魔の今後の処遇にほっとしていた『三組』の隊士の一人が、もう『鬼人』のことは大丈夫だろうと判断した上で、ようやくキョウカに託された報告をするのだった。


「ああ。確かにそれは間違いないだろうな。俺を使役していた『ミョウイ』という契約者であった『妖魔召士』達もキョウカ殿をケイノトの南にある森に誘導し終えたあとは、ヒュウガ殿と『加護の森』で合流すると言っていた」


 どうやら別の場所に居た者達が口を揃えて、ヒュウガ一派の向かった先が同じ場所であることで、間違いなさそうだと判断するミスズであった。


「分かりました、ご報告感謝します」


 ミスズはヒノエや鬼人の妖魔、それに『三組』の隊士達に感謝の言葉を告げると、そのまま総長シゲンに向き直って再び口を開く。


「総長。ひとまず『ヒュウガ』殿は『加護の森』に向かっているとみて間違いはないでしょう。そしてどうやら『退魔組』にも彼らの一派が向かっているのは、そこに居る『三組』の隊士達の様子からみても確かでしょうから、これから組織の隊士を二手に分けて『ケイノト』と『加護の森』へ向かわせようと思うのですが、よろしいでしょうか?」


「構わん。だが向かわせる隊士は決めているのか? 先程の話ではどうやら加護の森に居る者達は『ヒュウガ』殿だけではなく、大天狗を使役する『ジンゼン』殿、それにヒュウガ一派にはまだ『キクゾウ』殿や他にも多くの『妖魔召士』組織に属していた『上位妖魔召士』も居る事だろう。妖魔退魔師を向かわせるにしても並の戦力で向かえば返り討ちにあうと見た方が良さそうだ」


 最高幹部の者達の『組』に在籍する『妖魔退魔師』であれば『上位妖魔召士』とも渡り合うことは出来るだろうが、当然に妖魔退魔師衆では『中位妖魔召士』までなら何とかなっても、ランク『6』以上の妖魔と契約をする『上位妖魔召士』以上の相手は荷が重いだろう。


 その点を踏まえて戦力を二手に分けると口にしているのだろうと、シゲンは半ば確信をしてはいるが、確認のためにミスズに尋ねるのであった。


「はい、もちろんです」


 副総長ミスズはお任せくださいとかばかりに、ずれていた眼鏡をくいっと上げながら返事をするのであった。

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