第1313話 探していても見つからなかった理由

「お、お主! そ、それは本当なのか!?」


「うむ。我達が別せ……、いや『ケイノト』に向かう途中の『加護の森』という場所で迷ってしまったのだが、そこで我達を妖魔と勘違いしたのか、ゲンロク殿の組織の者達に襲われてしまったのだ。そこで我達も身を守ろうと手を出した時に、お主の先程言っていた『動忍鬼』という名の頭に大きな角を生やして、これくらいの長さの大きな鉈を持った妖魔が、タクシンとかいう名の男に使役されて無理やり戦わされそうになっていたのだ」


 ソフィは別世界からこの場所に来たということを、この鬼人の妖魔にはわざわざ話す必要はないだろうと道に迷ったという体で話始めて、実際に起きた出来事を思い出しながら目の前の妖魔の男に話すのだった。


「か、加護の森? そ、それでどうなったんだ! あの子は無事なのか? はっ! い、いや、ま、まさかお主……!!」


 ソフィの方を両手で掴んで必死に無事なのかと叫ぶように鬼人は口にしていたが、実際にその同胞と戦ったソフィがこの場に居ることで、彼の同胞はこの青年に殺められたのではないかと想像したようで、ソフィを射殺そうといわんばかりに鋭い目で睨みつけるのであった。


「お主が考えた通りに我はその『妖魔召士』の組織の者と戦う時に『動忍鬼どうにんき』と戦わされはした。しかし我はお主の同胞を救おうと立ち回り、しっかりとタクシンとやらの洗脳の類の術式を解いて解放までを行っておいた。安心してよいぞ?」


 あえて誤魔化を行っていないと証明するように、ソフィは彼の同胞と戦ったと強調を行った上で、殺めたりはしていないと断言するのであった。


「そ、そうか! お主はあの子を助けようとしてくれたのか。そ、それは感謝をするが、あの子はそれでどうなったのだ? あの子の自由を奪った奴の名は『タクシン』と言ったな? そいつは今何処に!?」


 勝手に誤解をしてソフィが『同胞』の『動忍鬼どうにんき』に手を掛けたと思い込んでいた鬼人の妖魔だが、ソフィの言葉にしっかりと感謝をしつつも同胞を無理やりに長い期間『式』にしていた『妖魔召士』とみられる男の居場所を突き止めようとするのだった。


「悪いな。そのタクシンって野郎はもう。俺が直接この手で葬ってやったからな」


 ソフィに詰めかけていた鬼人の妖魔に、後ろで腕を組んで話を聞いていたヌーが口を挟むのであった。


「な、何……?」


「先程も言ったがこちらは何も事情を知らなかった。森で迷っていた我らは、そのタクシンとかいう奴らや『退魔組』とかいう組織の連中に突然襲われて、自分の身を守るために仕方なく戦ったのだ」


 この妖魔はこの件に関しては初耳ではあったが、既にこの場に居るスオウやミスズ、そして総長のシゲンには少し前にこの同じ本部でソフィの口から説明は行われていたために驚きはなかった。


「どうやら貴方の大切な同胞とやらは『妖魔召士』の組織の人間で間違いはないようですが、直接『式』にしていた人間は『妖魔召士』ではなくて『特別退魔士とくたいま』という『退魔組』に属する退魔士だったようですね」


 動忍鬼から事情を聞いていたソフィは、確かに動忍鬼からは自分を無理やり『式』にしてきた『タクシン』という男のことを『妖魔召士』と呼んでいたが、どうやらミスズが言うように『妖魔召士』ではなくて『特別退魔士とくたいま』というのが実際には正しい彼の役職だったのだろう。


「くそっ! 俺がいくら探しても見つからないわけだ!」


 彼は『ミョウイ』という『上位妖魔召士』を使って、組織内で『鬼人』を『式』にしている連中を探っていたわけだが、彼の探している大事な同胞は『妖魔召士ようましょうし』組織の下部組織の『特別退魔士とくたいま』が契約をしていたのだから、いくら『妖魔召士』を調べていても同胞の名が出て来ないのは当然のことだったわけである。


 『妖魔召士ようましょうし』は前時代から合わせると、戦死者や引退者を含めても相当な人数がいるのだから、彼が今日までその真相に辿り着けず、見つけられなかったのも仕方がないといえば、仕方のない事であった。

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