第1310話 ソフィの信頼を得た者達
キョウカの頼みで『三組』の隊士をここまで運んできた鬼人は、現在『サカダイ』の町にある妖魔退魔師本部で、ミスズから色々とここまでの経緯を尋問形式で尋ねられていた。
元々彼が『妖魔召士』の式であった事から『キョウカ』に彼が命を救われた事。
その後に『ケイノト』に『ヒュウガ一派』が現れた事を本部に知らせて欲しいと頼まれてここに『隊士』達を運んできた事等が伝えられた。
尋問を終えたミスズはシゲンを一瞥すると、シゲンも大きくミスズに対して頷いた。
そのシゲンの頷きを確認したミスズは再び鬼人の妖魔に向き直り、改めて口を開くのだった。
「そうですか、よく分かりました。キョウカ組長の頼みを聞いて頂いて感謝します」
そして聴取を終えたミスズは満足そうに頷いたあとに、何と鬼人の妖魔に頭を下げて感謝の言葉を告げるのであった。
「あ、アンタも俺のことを……。妖魔の俺を信用してくれるのか?」
サカダイの町の門前で『三組』の隊士が自分を信用してくれた時のように、この目の前の位の高いであろう『妖魔退魔師』もこうして話を聞いてくれて頭を下げてまで感謝の言葉を告げてくれたことに鬼人は驚きながらそう尋ねるのだった。
「キョウカ組長が貴方を頼ったのは後ろのキョウカの組の子達の様子からも分かります。そしてキョウカ組長が貴方を頼ったというのであれば、貴方は信用に値する妖魔だと、副総長である私と総長であるシゲン様も認めました。今後人を襲うようなことがあれば話は別ですが、そんなことを起こさないと約束してくれるなら、こちらも貴方に危害を加えないと約束しましょう」
本来、こんな簡単に妖魔を信用することなど有り得る筈がないことであったが、此処に居る『妖魔退魔師』組織に属する全員が『キョウカ』組長という存在を信用している。
特に副総長ミスズは形式上に仕方なく尋問を行ったが『三組』の子達をここまで運んできた時点で、すでにミスズはこの妖魔のことを
総長シゲンや副総長ミスズの決定に、キョウカの『三組』の隊士の一人は満足そうにしていたが、それ以外のこの場に居る妖魔退魔師や妖魔退魔師衆、それに組長格のヒノエやスオウは反対とまでは言わないが、少し複雑そうな表情を浮かべていた。
どうやら『妖魔退魔師』組織としての決定にしても、彼や彼女達は『妖魔』を討伐することを目的としているために事情があるにしても人間を襲う妖魔を討伐する妖魔退魔師が『妖魔を庇護する』という決断に全面的に賛同するとまではいかなかったようである。
しかし後ろで成り行きを見守っていたソフィは、このミスズやシゲンが下した決定に嬉しそうな表情を浮かべていた。
「クックック! 妖魔とやらを討伐するお主が『事情』を加味したことで正しく判断を下せている。本当に素晴らしいなお主やシゲン殿は。我は本当にお主達に感銘を受けた」
ソフィは目の前でミスズやシゲンが下した判断を褒めたたえるのだった。
――彼は過去に大魔王『ダルダオス』達が『アレルバレル』の世界の『魔界』を支配していた時代に『精霊族』が『魔族』に滅ぼされそうになっていたことで『魔族』と敵対の道を選んで滅ぼされかけていたが、その敵対の意思を向けたいわば『宿敵』となる種族を前に、ソフィは自分の一存で『精霊族』全てを魔族達の反対を押し切って『
――『坊主憎けりゃ袈裟まで憎い』という言葉がある。
この場合で言えば人間を襲うのが妖魔というのが『妖魔退魔師』の認識であり、そんな組織に所属する者達は目の前に妖魔が現れると『妖魔自体は悪』という偏向的な視野に囚われて思想が一方通行になってしまうモノである。
たとえこの妖魔が人間を襲っていなかったのだとしても『妖魔なのだから今は襲わなくてもいずれは人間を襲うだろう』という決めつけを行い、穿った見方をして全体を一括りに考えてしまう。
それは個人の問題というわけではなく、社会の中で集団生活を行う人間に多い傾向であるが、とくに『妖魔退魔師』の組織では『人を襲う妖魔達から人を守るために自分達は存在しているのだ』という意思が根本の部分にあるために、そんな妖魔を討伐せずにおくという決定は『ヒノエ』達のような妖魔退魔師と、他の世界に生きるソフィやヌーにセルバスといった魔族とは少しばかり考え方が掛け離れているのであった。
当然ソフィは『アレルバレル』の世界の『魔族』を取り纏めるという『立場』に居る者として、ヒノエ達の考えていることも理解が出来る。
しかし同じ妖魔退魔師であるミスズやシゲン側の部下達を従わせる権利を行使する側として、しっかりと導いていくために穿った目を向けずにしっかりと必要な決定を下せたことにソフィは、この場に居る他の魔族のヌーやセルバスとも違う考えを持つ事が出来たのであった。
先程のソフィの称える言葉とはそういう意味合いが込められており、必要な時にしっかりと正解の判断を下せる意思と決定を実行する強さに上に立つ者として『シゲン』や『ミスズ』の判断に、同調を示したのであった。
自分というモノをしっかりと持って他人や常識に流されずに、反感を買うと分かっていても間違っていないと判断したことに筋をしっかりと立てる者が、妖魔退魔師組織のトップに居ることをここにきてソフィは明確に理解した。
ここまでスオウから『シゲン』や『ミスズ』のことを聞いてはいたが、こうしてソフィが間違いないと判断した瞬間は、今この瞬間なのであった――。
纏める側である立場に就いているソフィは『妖魔退魔師』組織を信ずるに値する『組織』なのだと、この場で全幅の信用を得る事となった。
「は、はぁ。あ、ありがとうございます。ソフィ殿……」
「ふっ」
ソフィに感謝の言葉を告げるミスズと、椅子に座って胸の前で手を組んでいたシゲンは静かにソフィとミスズの様子を見て無意識に笑みを漏らしたのであった。
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