第1309話 妖魔退魔師組織にとって、前代未聞の出来事
ヒノエのサノスケを交えた『イツキ』の報告によって総長シゲンや副総長ミスズは色々と考え込んでいた様子だったが、その彼らの居る本部に『サカダイ』の見張りを行っていた妖魔退魔師衆によって『サカダイ』の町に現れた『妖魔』の報告を伝えられるのだった。
「その妖魔と共に居るのは、キョウカ組長の三組の隊士で間違いないのね?」
「はい。しかし三組の幹部の方々は頑なに共に居る『鬼人』に攻撃をせぬようにと我々に告げておりまして、我々は妖魔を取り囲んだまま逃げられないようにはしてはいるのですが、誰もどうしていいか分からず……。そのまま手出しを行わぬまま囲んでいるだけに留まっています!」
ミスズはその報告を受けてちらりと総長のシゲンの方を見ると、視線を向けられたシゲンはコクリと頷くのであった。
「分かりました。妖魔退魔師本部はその妖魔を『
「か、かしこまりました!」
妖魔が『妖魔退魔師』本部がある『サカダイ』の町に入るという
…………
そして『サカダイ』の『妖魔退魔師』本部に妖魔退魔師衆に連れられて『鬼人』の妖魔とキョウカ組長の『三組』に属する隊士二名が姿を見せるのだった。
現在この場には宛がわれていた部屋で寛いでいたソフィや、ヌー達もミスズに指示されて集められていた。
ヌーはテアと楽しそうに談笑していたところに招集されたために不機嫌さを露わにしていたが、ソフィが説得したことで、渋々とこの招集に応じてヌー達も『大広間』に姿を見せていた。
そこに遂にキョウカに頼まれて『三組』の隊士を運んできた『鬼人』の妖魔が『大広間』に入ってくるのだった。
元々キョウカの組の組員達を『サカダイ』へ運んだ後は直ぐに去ろうと考えていた『鬼人』だったが、その隊士の今後も仲良くしたいという熱のこもった視線と言葉を信じた妖魔は、自分の思惑も相まってこの場に留まって言われた通りに『妖魔退魔師』本部がある『サカダイ』の町の中に足を踏み入れてここにきたのであった。
手足を縛っているわけでもなく、自分の足で堂々と『サカダイ』の町の中を歩いてこの妖魔退魔師の『本部』にまで来たのは、ノックスの世界の歴史上を省みてもこの鬼人が
「どうやら貴方は鬼人の妖魔のようですが、私の言葉を理解出来ますか?」
ミスズは『妖魔退魔師』本部に初めて足を踏み入れた鬼人に向けて言葉を掛ける。
「ああ。もちろんだ……」
鬼人は緊張した面持ちのままで素直にミスズに言葉を返すのだった。
「ミスズ副総長! この妖魔は我々に敵意はもっておりませ……」
キョウカの組の隊士はミスズが妖魔に尋問を行おうとしたことを察して、まずはここまでの経緯を話そうとしたが、最後まで言い切る前にミスズが軽く手を挙げて『待ちなさい』とばかりに声なき言葉で隊士を制したため、彼らはそこで口を噤むのであった。
『妖魔退魔師』は上下関係がキッチリしている組織であり、こうして仕事を行っている状態のミスズやシゲンに対して、たとえ彼ら幹部やその上の組長であってもよっぽどの事がない限り逆らうことは許されない。
喋るなと制止された以上は、如何に報告があってもミスズから許可が出るまで待たなければいけないのが通例であった。当然キョウカの生死がかかった一刻を争う状況というのであれば、叱責を覚悟で彼らは口を挟むことも厭わなかっただろうが、ここに来る前のキョウカはその段階ではなかったために、ミスズに従う『三組』の隊士達であった。
「私の話が通じるのですね? それならば最初に貴方に言っておきます。ここは貴方のような『妖魔』を討伐することを生業とする組織の本部です。そのことは貴方は理解してこの場に立っていますか?」
ミスズは眼鏡をくいっと上げながら丁寧ではあるが、抑揚のない一定の速度で話された。その様子はまるで台本に書かれている言葉を淡々と読みあげているかのようだった。
「ああ。もちろん理解している。俺を妖魔と知った上でこの場に迎え入れてもらって感謝する。当然俺はお前達に危害を加えるつもりはない」
「結構。それでは貴方に少しこちらの質問に答えて頂きますが、よろしいですね?」
「何でも聞いてくれ」
形式ばった内容でミスズから少しずつ決められた速度で話が進められていく。
――しかしこれは仕方のないことであった。
この鬼人の妖魔が先程口にしたように、人間達に危害を加えるつもりがないとはいっても『妖魔退魔師』組織とはそもそもが『妖魔』を討伐することを目的とされている組織なのである。
その本部に妖魔が足を踏み入れること自体が前代未聞なことであるために、総長と副総長がこの場で形式上とはいってもしっかりと安全確認を行ったという結果を残すことが今後のためには必要なのであった。
総長シゲンや副総長ミスズだけではなく、この場にはソフィ達やヒノエやスオウといった各組長や副組長も集まっている。
シゲンやミスズが決めた事である以上、この場に居る誰もが異論を挟むことをせずに、成り行きを見守るのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます