第1308話 妖魔退魔師と妖魔の青天の霹靂
「キョウカ殿の頼み通りに『サカダイ』についたはいいが、既にこちらに気づいた人間達が迎撃態勢に入ろうとしているのが見える。このままお主らをここで下ろして去ろうと思うが、お主らの方から追手を向けないでくれと頼んでくれないか?」
空の上でキョウカに『三組』の組員達を『サカダイ』の町へ送って欲しいと頼まれた鬼人は、手で抱えていた二人の妖魔退魔師にそう告げるのだった。
「あ、ああ……! 分かっている。お前が悪い鬼人じゃないというのはここに来るまでに理解しているし、そもそもキョウカ組長のお前への信頼具合を見ていたから直ぐに分かっていたさ」
「も、もう少し配慮という言葉を知って、俺達をここまで運んでくれたらもっとお前を信用出来たんだけどな……」
隊士の一人が妖魔に抱き抱えられた空の上で、吐きそうになっている口元を押さえながらそう言った。
「キョウカ殿が急いでくれと頼むものだから仕方がなかったのだ。そこは許せ人間共よ」
そう告げた鬼人の妖魔は再び『サカダイ』の町を一瞥すると、こちらに向かって複数人の妖魔退魔師衆達が向かってきているのを確認する。
「それではな……」
サカダイから少し離れた場所で鬼人の妖魔は、二人を地上へおろした後に別れの言葉を告げた。
「ま、待て! お前のことは仲間や総長達にしっかりと説明するから、お前も一緒にこないか? な、何か美味い菓子でも食べていけばいい」
「は? お、おい! お前何言っているんだ?」
隊士の一人が妖魔をサカダイの町の中へ誘うのを聴いていたもう一人の隊士が、信じられないと言った様子でそう告げた。
「お、俺はこいつにここまで運んでくれていた空の上で『妖魔』を勘違いしていたかもしれないと考えていたんだよ。もちろん妖魔全員が話せば分かる奴らばっかりじゃないってのは分かっているんだけど、これまで小さい頃から教わってきた
「お、お前……」
どうやらこの若い隊士は『妖魔』とこうして会話をしたこともなかったのだろう。
任務で妖魔と接する機会はこれまでも多くあったのだろうが、こうして人の姿をとっている妖魔とここまで親しく接したこともなかったことで、しっかりと妖魔と意思の疎通が出来たことで彼の中で『妖魔』という印象が変わりつつあったようだ。
――『妖魔』を悪い奴と一括りするのではなく、中には話せば分かる奴もいるのではないか?
この『妖魔退魔師』の組織の中でも『組』の隊士として選ばれる程の幹部である彼であっても、キョウカ組長というキッカケがあったにしても『妖魔』についてこうして考えを改める程に、今回共に行動をしたことで衝撃があったのだろう。
これまで『常識』の中で決めつけていたことが、現実にはそうではなかったと認識した時、人という生き物はもっと詳しく知りたいと考えることがある。それは『常識』よりももっと深い部分である『種族』としての『本能』の部分で是正を行おうとしているのである。
この隊士が思い至った事が、あくまで個人の考えだけという認識で括るのは少しばかり寂しいものがあるといえるだろう。人間という生き物は、柔軟に考えを変えられる生き物なのであった。
そしてそんな考えを持つ人間から、こういった意思を向けられた妖魔もまた衝撃を受けていた。
(まさか俺達妖魔を討伐することを生業とする人間が、こんなことを妖魔である俺に向かって口にするとは……)
――それは妖魔にとって『
これがまだ『妖魔召士』が口にしているのであれば、契約を行おうという下心や本音ではない部分で口にしているのだろうという判断も出来るのだが、彼らは妖魔と契約が出来る人間達ではなく『妖魔退魔師』なのである。
妖魔を討伐する『妖魔退魔師』ではあるが、それ故に『妖魔退魔師』が妖魔を斬るということ以外に利用する術がないと歴史が証明している以上、こんな風なことを口にしている『妖魔退魔師』は『妖魔召士』達より、余程信用が出来る言葉だと、実際にその耳で聴いた鬼人は目の前の人から信じられない程の衝撃を受けたのであった。
更に言えば彼は『同胞』を探すために『妖魔召士』と嫌々でも契約を結んでいた妖魔であり、その目的が達成されずにこのまま山へと戻ろうとしていた。そこにこんな風な言葉を掛けて貰えたことで、もしかしたら協力を取り付けられるのではないかと考えたのであった。
この鬼人と同じ妖魔が聞けば『お前は甘すぎる』とばかりに笑われていただろう。
しかし背に腹がかえられない程の目的がある彼にとっては、あの命を助けてくれた『キョウカ』という人間の元で働いているという目の前の隊士のそんな言葉に、信用が出来るのではとぐらりと揺れてしまったのである。
「ほ、本当に俺達を信用してくれるのか?」
気が付けば『サカダイ』からこちらに向かってきている『妖魔退魔師衆』や『
……
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