第1311話 鬼人の探す同胞の存在

 キョウカという存在が背後にあったからこそともいえるが、人間に悪さを行う妖魔の討伐を生業とする集団。その『妖魔退魔師』組織は今後、こうして本部に足を踏み入れた『鬼人』を客分と認める事となった。


 他の妖魔退魔師達も『妖魔』を客分として扱うことに一定の混乱を生じるだろう。そのことは組織の最高幹部である『ヒノエ』や『スオウ』そして各組の副組長たちの様子を見ていても予想が出来るる事である。


 しかし当代の総長と副総長が認めている以上、縦社会の権化ともいえるこの時代の『妖魔退魔師』組織では、徐々に認めざるを得なくなっていく筈である。


 ソフィも難しい事といえる『妖魔退魔師』の抱えることになるだろう問題に対して、あっさりとシゲンとミスズが判断を下した事に素晴らしいと喝采を行ったが、やはりそれ以上に当事者である『鬼人』の妖魔は嬉しそうな表情を浮かべていた。


 ――


 それも契約を行うことで関係が結ばれる妖魔召士達とは違って、この妖魔退魔師はこれまでの『ノックス』の世界の歴史上は『妖魔を見れば妖魔を討伐する』これこそが隊士達共通の認識をする者達であり、そこに話し合う議論を挟む余地などなかったのである。


 それが当代の『妖魔退魔師』組織はしっかりと話し合う事が出来た上に、あまつさえ『妖魔退魔師』の総長と副総長という首脳陣トップが『妖魔』に生存を許したのである。


 こんな歴史的なことを行えたのだから、本部に初めて足を踏み入れたこの『鬼人』の妖魔は、何ともいえない感動が彼の中に生まれていたことであろう。


 だからこそ彼は『妖魔』の自分を信用してくれた『妖魔退魔師』の権威達に自分が何故『山』から下りてくるに至ったのか、何故『妖魔召士』と契約を結びに至ったのか。それを全てこの場で吐露することに決めた。


 その内容とは『妖魔召士』達に望まぬ契約を結ばれてしまい、そのまま山から連れ去られたとみられる彼の親しくしていた若い『同胞』のことであった。


 彼はその同胞を探す為に自身も『妖魔召士』と契約を結んで『式』となったが、その妖魔召士がキョウカにやられた現在もついぞ『同胞』を見つける事が出来なかった。


 彼と契約を交わした『妖魔召士』は『ヒュウガ一派』ではあったが『妖魔召士』組織の全体で見ても『上位妖魔召士』とされていた程の『魔力』を有する者であった。


 そんな彼と契約を結んでから色々と独自に調べるだけではなく、直接契約を交わした『ミョウイ』に他の『鬼人』を使役する妖魔召士を紹介してもらったりもした。


 彼の紹介してくれた『鬼人』と契約を交わしている『妖魔召士』の数は存外に多かった。

 凡そ、その数は数十人に上ったのだが、結局彼の探している『同胞』を見つけられなかった。


 その『ミョウイ』曰くこれだけ探していないのであれば、もう今の『妖魔召士』組織に在籍していない過去の妖魔召士の可能性があり、既にこの世を去ったのではないかと告げられた。


 しかし本当にそうであったならば契約が破棄されたということになる筈で、彼の『同胞』は山に戻ってきている筈なのである。


 もしかしたら入れ違いで彼の代わりに『同胞』の鬼人は『妖魔山』に戻ってきている可能性も無い事はない。ミョウイがやられるまではこの鬼人は自由に山に戻ることは出来なかったのだから、山に戻れば再会出来る可能性も残されてはいる。


 だが、今度は契約状態がなくなった『同胞』が、妖魔を討伐することを生業とする『妖魔退魔師』の手によって、その命を奪われる可能性が生じるのである。


 『妖魔召士』の『式』であった頃であれば、契約が破棄されるまでは何度でも使役される可能性が残されるが、その契約自体がなくなったあとならば、その『同胞』は『妖魔退魔師』組織に属する『予備群』程の者達でさえ、戦えばあっさりと死んでしまうだろう。


 ――彼の同胞は妖魔ランクでいえば『3』。


 妖魔召士達の扱う術式とやらで一時的にランクを『3』から上げられることはあっても、契約無しでは『3』なのである。


 つまり戦力値換算でいえば凡そ戦力値は1000億となり、一般的な地方に派遣されている『予備群よびぐん』と同程度程であろう。


 妖魔を発見した瞬間にあっさりと討伐を行う『妖魔退魔師』に見つかれば、山に戻る前にあっさりと死ぬことが容易に考えられるのである。


 だからこそ彼は自分の生存を許可してくれた『ミスズ』と『シゲン』の前で、必死に『同胞』の存在のことを説明し始めるのであった。

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