第1304話 シゲンの懸念と煌鴟梟のイツキ

「こいつは件の組織に幹部として属していた『サノスケ』という男です。どうやらこの男が言うには『退魔組』に居るイツキという男は『退魔組』の頭領である妖魔召士『サテツ』の補佐役を務めているようなんですが、この頭領補佐のイツキは、実はこいつらの組織であった犯罪集団の『煌鴟梟こうしきょう』の初代のボスだったらしいんです」


「旅籠町を脅かしていた犯罪集団のボスだった男が『退魔組』の頭領補佐ですって……?」


 流石にミスズでも知り得ない情報だったようで、その不可解な結びつきに驚きの声をあげた。


「お主の名はサノスケと言ったな。今のヒノエ組長の告げた話は真か?」


 シゲンは鋭い視線をサノスケに向けながら、本人の口から本当かどうかを話させようとするのだった。


「あ、ああ! 間違いねぇよ。イツキ様は俺達を束ねていた『煌鴟梟こうしきょう』のボスだった。今は代替わりを果たされてイツキ様は『退魔組』の頭領補佐をやっているが、あ、あんた達が追っている『ヒュウガ』って男は俺達の牢まできて、今の煌鴟梟のボスをしている『トウジ』様と、俺と同じ幹部だった『ミヤジ』を連れて『ケイノト』の『退魔組』にイツキ様を迎えに行くって、い、言ってたんだ! 俺が直接この耳で聴いたから間違いねぇよ!」


 サノスケの話に耳を傾けていたシゲンは、ちらりとミスズの方を一瞥する。視線を向けられたミスズは軽く頷いてシゲンの代わりに質問をするために口を開くのだった。


「貴方の話が本当だったと仮定して気になる点がいくつかありますが、しかしそちらを尋ねる前に、まず貴方自身にお聞かせ願いたいのですが『煌鴟梟こうしきょう』とはつまるところ、どういった組織なのですか? 我々は『旅籠町』で人攫いや人身売買を行う卑劣な犯罪集団という認識でいたのですが、貴方が口にした通りならば『煌鴟梟こうしきょう』とは『妖魔召士』の組織と何らかの深い繋がりがあるということなのでしょうか?」


 ミスズは眼鏡をくいっと上げながら、サノスケの口から『煌鴟梟』という組織の全貌を検めさせようと尋問をするのだった。


 サノスケは何処まで組織の内情を喋るか僅かに悩んだが、もう組織自体が壊滅してしまっていて、更にはヒノエに情報をある程度渡している以上は、隠す必要もないだろうと全てを明るみに出そうと口を開いた。


「イツキ様の代に集められた『煌鴟梟こうしきょう』は、あらゆる分野に精通する者達が揃っていた。アンタらの認識通りに『犯罪』を行う集団というのも決して間違いじゃねぇ。長年ガキや女を攫ったりしていた連中も居れば、その攫った奴らを足がつかねぇように売ってみせる連中も居た。だが『煌鴟梟こうしきょう』の全員が人攫い専門っていうわけじゃない。俺やミヤジは元々は一流の商売人を目指して活動をしていたし、トウジ様は地方の領主と深い繋がりをいくつも持っていた。あんたらが何処まで知っているかは分からねぇが、俺達『煌鴟梟こうしきょう』は『妖魔退魔師』組織や『妖魔召士』組織の次にこの世界で『影響力』を持つ事を目指していたんだ」


「成程……。表向きは単なる人攫い集団と見せかけておいて、裏では『影響力』を持つことを目指すことを共通認識とするだったというわけか」


 シゲンは合点がいったとばかりに頷いていたが、見る者が見れば分かる程度に不満といった様子が顔に出ているのだった。


 それもその筈で、いつからそのイツキという男が『煌鴟梟こうしきょう』という組織を運営していたかは知らないが、これまでシゲン達は全国に『妖魔退魔師』組織の人間を散らばらせて目と耳の役割を担わせていたというのに、表立ってはこういう結社のような集団の存在は一切情報として入ってきていなかったのである。


 どれだけの規模で動いていたのかは分からないが、人数が多ければ多い程世の中に明るみになる確率は高くなる筈なのである。


 たとえ数人程度で組織されていたのだとしても、イツキという煌鴟梟を取りまとめていた男が『妖魔召士』組織の『退魔組』の頭領補佐という地位についているにも拘わらず、その男の情報がこの『ノックス』の世界で二大組織として君臨している『妖魔退魔師』組織の総長『シゲン』や副総長の『ミスズ』ですら認識出来ていなかったというのは、相当に危ういことなのであった。


 その『煌鴟梟こうしきょう』という組織に集められた者達が、余程に優秀な人材達であったのか、はたまた『イツキ』という男が統率性に優れた一流の曲者であったのか。


 もちろんその『煌鴟梟こうしきょう』という組織の活動期間が僅かであるならば、そこまで大した話ではないとまだいえるが、イツキという男が代替わりを果たすまで『組織』を担っていた挙句に『退魔組』の頭領補佐まで上り詰めているのだとしたら、十分にシゲンから見ても『情報間隙じょうほうかんげき統率とうそつ』に影響力を持つ脅威として認めてもいい存在と呼べるだろう。


 同じ『組織』の長という人を束ねる上に立つ者として、シゲンはどれだけこの『イツキ』という男がこれまで難しいことを成し遂げてきたのかと深い関心を持つのであった。

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