第1244話 互いの戦闘態勢

(またこいつに借りを作っちまったな。絶対に生き延びて返さねぇと)


 この状況になってようやく自分の魔力が少なくなっている事に気づいたキネツグだったが、その絶望感をチアキのおかげで何とか最小限に留められた様子だった。


 しかしその安堵感を得た事でキネツグは、少しだけ周囲を見渡す余裕が生まれてしまい、妖魔退魔師達が全員自分を見ている事に気づくのだった。


(くそっ! 奴ら明らかに俺を注目していやがる。流石に第一線で活動している妖魔退魔師様の洞察力は伊達じゃねぇって事かよ!)


 キネツグは『煌鴟梟』のアジトで戦った同じ妖魔退魔師組織の『予備群』達と、今眼前に居る本物の『妖魔退魔師』は同じ組織に所属している者達でも全く別物だという当たり前の常識を改めて思い知ったようであった。


 『魔瞳』の警戒を行いつつもどこかに穴がないかと常に必死に探っている妖魔退魔師にしてみれば、一人だけ『式』を出さずに突っ立っていた自分は格好の的だったのだろう。


 加えて一度隙を見せて注目を集めた後に、こうして他の仲間に『式』を出してもらっているところを見られたのだから、俺に『魔力』があまりないという事を理解しているかどうかは分からないにしても、奴らは間違いなくここが狙い目だと判断しているだろうとキネツグは悟り、内心で舌打ちをするのだった。


 こうしてランク『4』の『鬼人』をチアキに護衛としてつけてもらえた事で、周りを見る余裕が出て来たキネツグだったが、今相手をしている連中はランク『4』の妖魔をモノともしない『妖魔退魔師』なのである。


 正面きって戦うのはこの場での自分の役目では無いという事は明白だった。


 そこでキネツグはちらりと妖魔退魔師達から目線を外して自陣の周囲を見る。


(この場で一番ランクの高い妖魔を使役しているのは、ジンゼン様のランク『6』の『野槌のづち』と『妖狐ようこ』か。次いで他の先輩方も『妖魔山』で契約を果たしてであろう『虎人』や『鉄鼠』も基本のランクが高い妖魔だ。術式をまだ使っていないという事は、相手の動きに合わせて都度対応するっつー感じか……、しかし妙だな。何故ジンゼン様は『王連』を出さないだろうか? 野槌と妖狐も確かに高ランクの妖魔ではあるが、妖魔退魔師の幹部達を相手にすると分かっていて『王連』を使役しない理由が分からない)


 旅籠町で捕縛されていたキネツグ達を助けに来てくれた時には、間違いなく『王連』を出して見せていた。あの時は予備群を相手に『王連』は過剰火力過ぎないかとも感じられたキネツグだが、この場でこそ必要性を感じるランク『7』以上である『王連』を出していない事に同じ妖魔召士であるキネツグであっても違和感を感じるのだった。


 キネツグが冷静に周りの状況を見ながらそんな事を考えていると、遂に妖魔退魔師側に新たな動きが見られた。


 門の前に居る彼ら全員が刀に何やら『魔力』を込めるように、青色のオーラのようなモノで包み始めたのである。


 妖魔退魔師は妖魔召士のように『魔力』に長けているわけではないが、これまでも高ランクの妖魔と戦う時には『妖魔退魔師』達は今の彼らのように青色のオーラを纏わせながら戦っていたのをキネツグは見てきた。


 どうやらこちらの様子見を終えて、これからが本番というように戦闘態勢に入ったという事だろう。


 キネツグがそう考えていると、どうやら他の仲間の妖魔召士達も同じ考えだったようで、紅い狩衣を着た先輩方が、各々に手印を結び始めたり、魔瞳を発動させながら可視化出来る程の『魔力』を体現し始めるのだった。


「来るわよキネツグ。アンタはひとまず後ろに居なさい。そして『鬼人』、あんたはキネツグを契約主だと思って死ぬ気で守りなさい」


「あ、ああ……」


「分かった。契約主のお前がそう命令するなら従おう」


 前を向いたまま口を開いたチアキの言葉に、キネツグとチアキの『鬼人』が同時に言葉を返すのであった。

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