第1245話 ヒサトの号令

 ケイノトの門前で行われようとしている戦闘だが、どうやら『妖魔召士』達は『式』を出して『魔力』を展開はしているようだが、自分達から妖魔退魔師側に攻撃をするつもりではないようで、一貫して『待ち』を行う態勢を保持し続けていた。


 それは相手の攻撃をされるがまま受けるという解釈ではなく、相手の攻撃に対して効率的にやり返す事を目的とした『待ち』であり、相手の取った行動に対して100%嫌がる事を行う『後の先』を目的とした『待ち』であった。


 妖魔召士達が妖魔退魔師達と直接殺し合うような戦いをするのは、個人間や組織間を含めても大々的に行うのはこれが初であるが、当然互いの戦い方ぶりは過去の歴史からもある程度は理解が及んでいる状況である。


 つまり経験としては両組織の戦闘は皆無であっても、知識としては否応なしに頭に叩き込まれている。


 互いに妖魔と戦ってきた歴史は、それこそ数百年、数千年と続いており、幼少の頃に『妖魔召士』や『妖魔退魔師』として選ばれた者達であればまさに『義務』と呼ばれる程の教育の中で、先輩達の戦いぶりを見てきている。


 だからこそ、妖魔退魔師側としては妖魔召士の『魔瞳まどう』に対する訓練を積んできている事を理解している。


 その上で彼らも『ヒサト』という副組長の司令官の命令で先程まで『式』を出していなかった『キネツグ』を狙うという明確な作戦を打ち出しながら、戦闘態勢を保ちつつ相手の『待ち』がどれ程のモノなのかを冷静に見極めようと闇雲に突っ込んで行ったりさせずに様子を見ている。


 そして妖魔召士側としてもその事は織り込み済みである為に、闇雲に『魔力』の消費を行って『魔瞳』を掛けたりはせず、相手の出方を窺った上で必要と判断した時に行おうとこうして待っているのである。


 まさに互いに『妖魔召士』と『妖魔退魔師』の中で選ばれた上位陣、幹部陣、と呼ばれる者達であり、読み合いも卓越したモノとなっていた。


 『青』のオーラを纏わせながら、ヒサトは妖魔召士達の動きをその両目で観察を続けていたが、どうやら先程まで『式』を出していなかった少年(キネツグ)は、近くに居た別の紅い狩衣を着た妖魔召士に『式』の護衛をつかせてもらったところから省みても、彼は自分で妖魔を使役する気がない、または『魔力』が枯渇している様子なのだろうと理解をし始めていた。


(ジンゼン殿の方も何やら高ランクの蛇のような妖魔を出してはいるが、天狗の『王連』に比べるとそこまでピリついた感覚は感じない。つまり高く見積もってもランクは『6.5』から下で間違いはないだろう。何故『王連』を出さないかという疑念は解消はされてはいないが、ここで仕掛けるのがやはり最適解だろうな)


 何やら別に思惑があるのだとしても、現実に仕掛けるならばここがベストだと判断したヒサトは、相手に狙いがあろうが関係なく仕掛けるつもりで遂に号令を出すのであった。


「全員行動を開始だ! 作戦は最初に告げたが、相手の魔瞳や『式』の連携などを含めて臨機応変に動け!」


「「応!」」


 既に妖魔退魔師全員は刀に『天色』のオーラを纏わせつつ、今か今かと『副組長』の命令を待っている状態であった為、遂にその待っていた言葉が放たれた瞬間、声を揃えて隊士達は返事をするのであった。


 そして命令が出されてしまえば、後はその作戦を遂行する為に各々の達人たちは行動を開始する――。


 颯爽と駆け込んでくる妖魔退魔師達の姿を見た妖魔召士達は、既に自分達の周りに出している主力の『妖魔』とは別に、相手の行動を妨害する目的だと思われる『式』を懐から札を出しながら使役していく。


 一番最初に一人の妖魔が巨躯の妖魔の『幽鬼』を出すと、それを見た他の妖魔召士達も準備していた『魔力』を用いて、その最初の『幽鬼』を出した妖魔召士の意図を理解するかの如く同じ妖魔を出し始めると、更に次々に周りの妖魔召士達も同じ『幽鬼』を出していく。


 この『幽鬼』達も本来のランクはそこまで高いモノではないが、ヒュウガ一派の妖魔召士達は全員が『加護の森』で同じように『幽鬼』を使役していた『特別退魔士とくたいま』の『タクシン』よりも更に強力な禁術をこの妖魔達に施している為、戦力値が1000億を越えるランク『3』相当へと押し上げられていた。


 しかしこの場に居る『妖魔召士』達が揃って『幽鬼』を出しているのには明確な理由があった――。


 単なる物量差で押し攻める事は、先程の『狗神』数十体の結果を見た事で無意味だと知った。つまりこの場に居る妖魔退魔師達には、別世界で大魔王階級と並ぶ戦力値1000億の妖魔達が束になってかかったところで、そこまで多くの時間を稼げないという現実であり、それならば壁と見紛う程に巨躯の『幽鬼』を並べ立てる事で、相手の足止めを行う事に加えて、次の一手となる行動を陰に隠すという戦術を取り始めたのである。


 そうする事で輝くのは『魔瞳』に『捉術』の存在であった――。


 この場に居る妖魔召士は『最上位』とされる『ヒュウガ』や『ゲンロク』といった妖魔召士までは居ないが、それでも『上位妖魔召士』として普通の人間には持ち得ない膨大な『魔力』を有している者達である。


 そんな彼らが壁となり盾となる妖魔達で時間を稼げば、相手が妖魔退魔師達であっても自分達のやりたい事を出来る確率は僅かでも必ず上がると判断しているようであった。

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