第1241話 魔力を感じ取れない理由

 他の妖魔召士達は各々が契約を果たしている『式』を出している。そしてケイノトを守り立つように並んでいる妖魔退魔師達の隙を窺うように視線を向けて『魔瞳まどう』のタイミングを図っているようであった。


 既に戦闘態勢が整いつつある両組織の者達の中で、まだ自分の『式』すら出せていない『キネツグ』は、必死に魔力を放出しようとするのだが、一向に慣れ親しんだ自分の『魔力』を感じられなかった。


(なっ、何故俺は自分の『魔力』が感じられないんだ!? 前回の戦い以降は『魔瞳』も『捉術』も一切使っていないし、魔力を枯渇するような真似はしなかった筈……)


 キネツグは自分の魔力が感じられないとボヤいたが、実際には良く集中をすれば感じ取れる筈であった。しかし彼が自分の魔力を感じ取れないと思えた理由も確かに明確に存在していたのである。


 ――それは『煌鴟梟こうしきょう』のアジト内で、彼がエイジと戦った事が原因であった。


 エイジは彼が間違った方向へと進み始めていた事に懸念を感じ、そのキネツグの道を正そうと考えてお灸をすえる意味を兼ねて彼の捉術『修劫しゅうごう』によって『魔力』を最小限だけを残しつつ奪ったのであった。


 魔力を失った彼が再び『妖魔召士』としての道を真面目に考えて、しっかりとやり直そうと考えるならば『エイジ』は彼の魔力を元の状態へと戻すつもりであったが、結局は成り行き上仕方がなかったとはいっても『ヒュウガ』達によって旅籠町の予備群の屯所の牢から連れ出されてしまい、その機会は永久に閉ざされてしまった。つまり彼は残された僅かな『魔力』で今後は、ヒュウガ一派として生きて行かなければならないのである。


 当然残された魔力では『禁術』を『式』に使うどころか、その契約を果たしているランク『3』以上の『式』を使役した瞬間に魔力枯渇を伴ってしまうだろう。


 最悪魔力を補うために生命力を犠牲に使役せざるを得なくなり、その僅かな使役時間と引き換えに彼は絶命するのがオチだろう。普段通りに自分の魔力が感じられない程に微弱となった『魔力』では、ランク『1』の妖魔を僅かな時間使役する程度が関の山であった。


 勿論自分がそんな状態なのだという事を存じていない彼は、何故自分の魔力が感じられないのか、そしてその理由にも思い至る事もなく、必死に『魔力』を使って『虚空丸こくうまる』や『卓鬼たくき』を出そうと試みるのであった。


(魔力を感じられないだけじゃなく『契約紙帳けいやくしちょう』に『虚空丸こくうまる』や『卓鬼たくき』の名がなくなっている!? ど、どういう事だ? 俺は契約を解除した覚えはないぞ)


 身に覚えのない事ばかりの連続でキネツグはただでさえ焦っているというのに、隣に居るチアキからも早く『式』を出せと急かしてくる為に混乱から頭を抱え始めるのだった。


 妖魔退魔師側の『三組副組長』であるヒサトは、敵となる妖魔召士達の『魔瞳』を警戒して一人一人の表情を窺っていた為に、当然パニック状態に陥っている『キネツグ』のその様子を見逃す筈もなかった。


(あの若いガキの妖魔召士、何か問題が起きているのか? 周りの連中はそこそこにランクの高い『式』を出している上に『魔瞳』を使う魔力の準備も出来ていそうな余裕っぷりだが、あのガキはまだ『式』すら出せていない。これは好機か? あれが演技なら大したものだが、そうでないのならばあそこから崩せる!)


 妖魔召士自体の人数は、この場に居る妖魔退魔師側の『三組』の数に劣るが、当然妖魔召士達は『式』と呼ばれる契約を果たしている妖魔を魔力が続く限り使役が出来る。つまりは『妖魔召士』一人であっても、戦力として数えるならば決して侮れるモノではないのである。


 そんな妖魔召士の一人が何かトラブルを引き起こしているのならば、そこを突かない理由が妖魔退魔師側にはない。こちらにそう思わせるのが彼の思惑だったとしても、こちらに何も不利益はないのだから罠であっても乗るべきである。


 ――そう考えた『ヒサト』は、組の部下達に新たな命令を出すのであった。

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