第1240話 嵐の前の静けさ

 妖魔退魔師の選りすぐりの隊士が居る『三組』の者達が、妖魔達からケイノトの町を守る為に刀を抜刀して立っている。その彼ら妖魔退魔師の前には妖魔召士が放った、それぞれランクが異なる妖魔の『式』が並び立っており、その式を挟んだ向こう側に八人の妖魔召士が姿を見せている状況である。


 ――その八人の妖魔召士の内、六人が『上位』の妖魔召士達である。


 今でこそ下位や中位そしてその上に上位、更には最上位と分けられているが、少し前までは『妖魔召士』に選ばれた者は下位も上位も分け隔てなく全員が『妖魔召士』として平等に扱われていた。


 そもそもが『妖魔召士』は生まれついての『魔力』適正が高い者だけがなれる、いわば選ばれし者達なのである。


 別世界では『妖魔召士』に選ばれる程の存在は『勇者』候補の扱いといったところだろうか。


 この世界には『理』というモノが一切存在していない所為で『魔法』という概念はない。つまり別世界のように『魔法』を使って少量ずつでも『魔力』を高めていくといった事が出来ず、生まれ持った『魔力』の資質が低ければ少量の魔力で扱える『捉術』すら使えず『魔力』を伸ばす手立てが全くない為に幼少期の頃に『妖魔召士』と認められない者は、一生『妖魔召士』になることは出来ない。


 だからこそ今はもう先代となる『ゲンロク』が、もう少しで妖魔召士となれる『魔力』を有する者達を『退魔組』に集めて『退魔士』として迎え入れたのである。


 その名残もあってか『妖魔召士』達の間でも最近は『下位』『中位』『上位』そして『最上位』と区分が分けられているというワケである。


 そしてこの場に居る『六人』の上位妖魔召士達は『鬼人』や『妖狐』といった元からランクの高い妖魔を契約出来るだけの『魔力』を有する者達である。


 残った二人の『上位』ではない妖魔召士は『キネツグ』と『チアキ』であるが、彼らもゲンロクが編み出した禁術を用いれば、元から高ランクの妖魔と同程度のランクまで能力を引き上げる事が出来るが、それだけ魔力消費が著しく、更には元から高ランクの者達が同様の禁術を用いれば、更に『下位』の妖魔召士達の『式』達よりランクを上げられる為、そこに『下位』と『中位』以上の妖魔召士達に区分となる開きが生じるというわけである。


 『上位妖魔召士』ではない『キネツグ』や『チアキ』がランク5以下の妖魔達を『禁術』を用いてランク『6』以上へと能力を昇華させて『式』として従わせる事は可能だと述べたが、あくまでそれは妖魔達の自我を消失させて本能を剥き出しにさせて半ば強制的に操っている事に他ならず、キョウカと戦った上位妖魔召士の『ミョウイ』の『式』と同じように、禁術で無理矢理操った妖魔は本能で動くために指示に従わないと言う場合もある。


 更にはこの禁術を用いて強引に使役している場合は、その間中ずっと魔力を消費し続ける為に、結局『下位』や『中位』の妖魔召士では、ランク『6』以上の高位の妖魔を上手く活用が出来ずに張り子の虎と呼べる状態となる為にあまり現実的ではない。


 他の妖魔召士と協力を行う時には、ある程度役に立つ事もあるだろうが『上位妖魔召士』と『下位妖魔召士』では、やはり同じ高ランクの妖魔を従えていてもこれだけの差が生まれてしまうのである。


 だが、今の状況がまさしく『他の妖魔召士と協力を行う時』である為、上位妖魔召士ではない『キネツグ』や『チアキ』が自前の『式』に禁術を施す事で、曲がりなりにも彼らも戦力として立派に数えられる状況であると言える。


 そんな『キネツグ』と『チアキ』はヒュウガ一派の妖魔召士としてこの場に参加しているわけなのだが、どうやら『チアキ』の方はソフィと戦った時に使役した『鬼人』の妖魔である元々の妖魔ランクが『4.5』の『英鬼』が再び禁術である『縛呪の行』を用いられてこの場に出ているが、その隣に並び立つもう一人の『上位』ではない妖魔召士『キネツグ』の方は『式』を出さずに何やら焦っている様子で周囲を見回していた。


「ちょっと……! 早くあんたも『式』を出しなさいよ。この場に居るのは私だけではないのよ? 上位妖魔召士の方々にヒュウガ様の側近の『ジンゼン』様も見ているのだから、勝手な行動を起こして目をつけられるような真似をして私を巻き込むような事は絶対やめてよね?」


「あ、ああ……。分かっているよ! あ、あれ……?」


 既に『煌鴟梟』の一件で予備群達に捕縛されるというミスをしてしまい、ヒュウガ達に直々に助けてもらった事で外に出られている『キネツグ』と『チアキ』だが、当然ヒュウガの周りに居る者達からの心証はあまりよくないだろう。


 ここにきて更に足を引っ張るような真似をすれば、寛大な心を持つヒュウガだけは許してくれるかもしれないが、その周りの妖魔召士達も許してくれるとは限らない。


 その事を懸念する『チアキ』は『キネツグ』の事を想ってそう口にしたのだが、注意をしてもキネツグは何やら戸惑っている表情を浮かべながら、一向に『式』を出そうとしないのであった。


 ……

 ……

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