第1239話 誤った思考と無意識裏の経験意識

「あれだけの数の妖魔が出現した以上、当然現れる妖魔召士の数が一人や二人ではないと思ってはいましたが、まさか八人も一気に現れるとは……」


 そう口にしたのは妖魔退魔師『三組』に所属する隊士だった。妖魔召士側の放ったであろう数十を越える妖魔の集団を無傷で倒した彼らは流石妖魔退魔師の幹部達といえたが、そんな彼らであっても『妖魔召士』が一気に八人も現れたという事に驚きを隠し切れなかったようである。


 これまで互いの組織で武力を伴った争いは前例はなかったが、それでも互いに妖魔を相手に戦い町を守って来た者達同士。妖魔とどう戦うのかという事は両組織共に相手の事を研究し終えている。


 そんな妖魔退魔師の幹部の隊士は『妖魔召士』が複数人居る事の意味、それも八人という数がもたらす『武力』は決して侮れないものだと口にしたのであった。


 そしてそんな隊士の呟きを最後尾で聞いていた『ヒサト』は反応を示して返答を行う。


「もちろん妖魔の数も厄介だが、奴らの本懐はその『魔力』を用いた捉術という事を忘れるなよ。妖魔の攻撃の最中も決して妖魔召士を意識しろ。とくに『魔瞳』の魔力の波を察知したら『式』に攻撃を行う際中であっても、直ぐにその場から離れて距離を取れ。魔瞳の影響を受けてしまえば、その時点で死が待つと思え」


 ヒサトはこうして返答を口にしている間も視線は、妖魔召士達から外してはいない。彼らは予備群ではなく妖魔退魔師と呼ばれるに見合う力量を有してはいるが、それでも一度魔瞳の影響を受けてしまえば決して逃れる事が出来なくなる。魔瞳を解除出来ない以上は常に警戒をしつつ回避の意識をもたなければならないのであった。


「はい……、心得ています!」


 それでも妖魔退魔師だからこそ、魔瞳を警戒するだけで済むのである。これがランク『3』相当の予備群達であったならば、いくら警戒を行おうとも使われたら回避など出来ずにその時点で終わりである為、妖魔退魔師もまた如何に人外な存在かという事が『魔瞳』一つとっても理解に及ぶというものであった。


 ヒサトは自分の組の隊士の呟きから『式』の妖魔だけではなく、妖魔召士自身に対しての注意力が散漫にならないように釘を刺した後、その八人居る妖魔召士の魔瞳を警戒しつつ、一人一人の顔を確認していく。


(どうやら『ヒュウガ』殿と彼の懐刀と呼べる『キクゾウ』殿の姿はないようだ。会合に参加していた俺が後からここに合流したからこそ、奴らが『妖魔召士』組織から離れた『ヒュウガ』を筆頭とするはぐれの一味だと知る事が出来ているが、最初からここを守るように言われて派遣されていた『三組』の者達だけならば、彼らがヒュウガ一派の襲撃なのか、それとも『ゲンロク』殿の『妖魔召士』組織の者達なのか判別が出来なかっただろう。もしやそれがヒュウガ一派の狙いだったのだろうか? それが理由で『ヒュウガ』と『キクゾウ』が居ないというのであれば、確かにこの場に居ない筋が通る)


 確かに上位クラスの『妖魔召士』がこれだけの数現れて、妖魔退魔師達を襲撃するような真似をすれば、何も知らされていなければ、会合を行う事だけを先に知らされてこの場に派遣されていた『三組』の妖魔退魔師達は『妖魔召士』組織との会合で何かあったのかもしれないと勘違いをするかもしれない。


 これまでならば冷静に考えればそんな筈がないだろうと、誰もが直ぐに分かる事ではあったが、既に『加護の森』の一件から立て続けに両組織の間でいざこざが生じており、それは前例がない程に連続している。これ以上おかしな事が起きる筈がないとなのである。


 そんな状態で襲撃を行われてしまえば、実際に襲われた者達にしてみれば『妖魔召士』が襲撃を行ってきたという目に映る真実が刷り込まれて真実になってしまう。それがヒュウガ達の狙いなのかどうかはまだ分からないが、単純な事の方がこういう場合は意識に左右されず、無意識なところで認識が出来ない部分に影響を及ぼすのである。


 人間の深層心理の成り立ちに至る状態とは、その人間のこれまで生きてきた。あるかもしれないと断言出来ない事には無自覚とは寛容で、そんな筈がないという自覚に関しては明確な否定が意識内で行われる。だからこそ『まさかそんな筈が』と思わせられる事が実は真実だったりするのである。


 ヒサトは相手の指揮官である『ヒュウガ』の狙いとは一体何なのか、そしてその狙いの末にどういう結果をもたらそうとしているのかを考えながら『ケイノト』の町の護衛を続けるのであった。

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