第1236話 退魔組、頭領補佐のイツキ
「よし、イツキが見張りの奴らを引き付けてくれたようだ。今の内に全員で『加護の森』を目指すぞ」
「「はい!」」
「いや、ちょっと待ちやがれ!」
サテツの号令で一斉に退魔組に居た退魔士達が外に出ようとするが、再びそこでサテツが入り口に立って制止する。
「どうしたんですか? 頭領」
「まだ居やがった。どうやら少しだけ見張りを残していやがったらしい」
サテツの言葉を聞いた退魔士達に緊張が走るのだった。
相手がたとえ僅かな人数しか居なかったとしても、退魔組を見張っているのは『妖魔退魔師』なのである。妖魔退魔師ではなくその下の妖魔退魔師衆だったとしても『
(ちっ、ここで俺自身が妖魔退魔師組織の連中に手を出せばもう後戻りは出来ねぇ。しかしヒュウガ様の組織につくと決めた以上、ここで引き下がるわけにもいかねぇ! よし! やっちまうか!!)
「どうしますか? この騒ぎでも残っているって事はあの見張りはずっと残ると思われますが……」
退魔組の部下の言葉にサテツは笑みを浮かべた。
「俺がアイツの相手を引き受けるから、てめぇらは西から加護の森へ先に行け! 間違っても『式』で空を飛ぶような真似はすんじゃねぇぞ? 常にみられていると考えながら妖魔退魔師の居ない方、居ない方を意識しながらいけ!」
「わ、分かりました……!」
サテツの言葉に頷いた退魔組の退魔士達は、その言葉を最後にサテツの視線の合図で勢いよく一気に外に出て行った。
「むっ……!! やっぱりさっきの男は囮か!!」
そう言って退魔組を見張っていた最後の妖魔退魔師衆の男は、路地裏に繋がる道の陰からこちらも勢いよく飛び出して『退魔組』へとひた走っていくのだった。
「止まれ……! お前達に聞きたい事がっ……!?」
先に退魔組から出た退魔士に制止を呼びかけた退魔退師衆は、最後まで言い切る事が出来なかった。
退魔組の玄関口の前を通りかかった瞬間に、サテツが男を蹴り飛ばしたからである。
「ぐっ……!」
全く意識をしていない方向から思い切り蹴り飛ばされた男だが、空中で見事に態勢を立て直して地面に手をつきながらしっかりと受け身を取って立ち上がり、そして攻撃をしてきたサテツに視線を向ける。
「き、貴様……!! 我々に手を出してただで済むと思っているのか!」
「ああ!? いつまでもネチネチ張り付きやがって! 目障りなんだよテメェ、ぶっ殺してやる!」
首をポキポキと鳴らしながらサテツはそう言い放つと、両手に『魔力』を集約し始めるのだった。
「先程の一撃に、今の言葉。我々『妖魔退魔師』に対する明確な敵対行為とみなして『退魔組』頭領の『サテツ』お前を捕縛させてもらう!」
「上等だてめぇ、やってみろや三下!」
「全く馬鹿な野郎だ! その短気な性格の所為でお前は、痛い目にあった後に更に後悔する事になるんだ」
ヒュウガ一派と繋がりがあるという疑いだけでは、直接手を出す事はかなわなかった妖魔退魔師衆だが、直接蹴られて殺すと告げられた事で、本部に連行する口実が出来上がり、妖魔退魔師衆の男は笑みをこぼすのだった。
……
……
……
退魔組の前の表通りでサテツと残っていた『退魔師衆』の男と戦闘が開始された頃、先に退魔組を出て裏路地の方へと歩いていたイツキとユウゲの元にも、監視を行っていた者達が複数名追いかけてくるのだった。
「止まれ! お前達、何処へ行く! 門に居る大群の妖魔達はお前達の差し金か!?」
ユウゲが片目を閉じながら、前を歩いているイツキに視線を向けるが、イツキは後ろから追いかけてくる男の言葉が聞こえていないかのように、そのまま無視して歩き続けるのだった。
「オイ! 聞こえているのか、何処へ行くんだと言っているんだ貴様!!」
(『
「ユウゲ、余計な事はしなくていいぞ?」
ユウゲがそんな事を考えていると、そこでようやくイツキがピタリと足を止めて振り返りながらそう告げた。
「ようやく止まったか! お前達がヒュウガ一派をここに手引きさせたのか!」
「はい? 一体何を言っているのですか? 私は仲間と一緒に長屋へと戻ろうとしているだけですが」
イツキは本当に困っている様子を表情に出しながら追ってきた妖魔退魔師衆達に告げると、彼らはにやりと笑い始めるのだった。
「語るに落ちたな。これだけ町中が騒ぎになっているというのに、町の治安を預かる『退魔組』のお前が原因を探ったりもせず、町民を助ける素振りも見せずに自分の長屋へと戻るだと? 嘘を吐くにしてももう少しマシな言い訳を……」
「ふふっ……。ユウゲ、確かに今のは苦しすぎたか?」
「え! えっ、ええ……、せめて準備を整える為に家に戻ろうとしたと付け加えるべきだったのでは?」
「ああ……、じゃあそれでいいや。妖魔を倒す為の
「き、貴様! 馬鹿にするのも大概にしろよ!」
ユウゲが信じられないモノを見るような目をしながら適当過ぎる言い訳をしたイツキを見ていると、もう我慢の限界だとばかりに短気そうな男が声を荒げながら前に出てくるのだった。
イツキはそのまま男に胸倉を掴まれたが、何も抵抗せずに笑みを浮かべたままだった。
「……やれやれ。お前から手を出して来たんだ、覚悟しろよ?」
そう言うイツキの身体が金色のオーラに包まれ始めた。
「なっ!?」
胸倉を掴んでいる男は突然のイツキのオーラに目を丸くして驚いていたが、そこでイツキの胸倉を掴んでいる男の手を今度はイツキが掴んで捻り上げた。
「あ、イテテテ……! ぐ、ぐぁっ……!!」
細目の優男とは思えぬイツキの握力の強さで腕を捻り上げられた妖魔退魔師衆の男は、立っていられずにイツキに腕を掴まれた状態で膝を地面について脂汗を流し始めた。
「ユウゲ、この状態で一番使える『
「……はぇ? え、えっと……、その距離でしたら私ならば『動殺是決』を使いますが……」
呆然と成り行きを見守っていたユウゲは、突然イツキに話し掛けられた事で咄嗟にそう答えた。
「よし、それでいこう」
「いつまでも大袈裟に痛がってないで、こっちを向けよ」
「ぐぁぁっ……、うぐぐっ!」
腕の関節を極められていた男は、一言文句を告げようとイツキの顔を見上げた。そしてそこでイツキは空いている左手で男の顔を掴むと口角を吊り上げて不敵に笑う。
――捉術、『
次の瞬間、イツキの全身を包んでいた『金色のオーラ』が、男の顔を掴んでいる左手に集約されていったかと思うと、手印等も結ばずに『妖魔召士』が扱う捉術である『
「あぇっ、……――」
イツキに術を使われた妖魔退魔師衆の男は白目を剥きながら、ダラリと力無くそのまま意識を失った。
――否、イツキに命の灯を消されたのだった。
……
……
……
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