第1235話 囮役を買って出るイツキ
「待ってくださいサテツ様。今はまだ数名の妖魔退魔師が裏路地の方で監視を続けています。まだ向こうには情報が届いていない事が予測されますので、もうしばらくここで待機を続けた後に、相手の監視が薄まった時に移動を行うべきだと思います」
「ちっ! そういやまだ面倒なのが町の中をうろついていたな。しかしもう外では戦闘が行われているんだろう? 早くしねぇと大所帯では出られなくなるぞ?」
「それでしたらユウゲ様を少し私に預けて頂けますか? 上手く我々で奴らを『裏路地』へと誘導して折を見て合流しますので、私達が奴らを引き付けてから坂のある方の裏口から『加護の森』へと向かって下さい」
「ああ? お前とユウゲだけで何とか出来るわけがねぇだろうが……っ、まさかお前……?」
イツキの突然の提案に反論を行うサテツだが、その顔は途中から何かに気づいた様子であった。
「ヒュウガ様はサテツ様を頼りに『退魔組』へと訪れたのでしょうから、貴方が無事であればどうにでもなる筈です! ここは私達に任せて他の『退魔組』の隊士達をお頼みします!」
「イツキ……、わぁったよ!」
どうやらサテツはイツキが『退魔組』の隊士達と『サテツ』を守る為に、そしてヒュウガの元へと合流を果たさせる為に身を犠牲にしようとしていると考えたのだろう。
どこか熱い瞳をしながら無理矢理に自分を納得させるようにイツキに頷いてくるのだった。
「お前はいいのか? ユウゲ」
イツキの決心を理解はしたサテツだが、いきなりそのイツキに巻き込まれる事になったユウゲの方を見て、サテツはお前は文句がないのかと尋ねるのだった。
「そうですな。退魔組の頭領補佐とはいっても『
そう言って溜息を吐いたユウゲは、表面上は素晴らしい覚悟を決めたイツキに仕方なく付き合いますよと言っているように見える。そして当然サテツもその言葉に感心したようで真剣な表情を浮かべていた。
「そうか……、分かった! てめぇらが無事に後で合流出来たら、俺が責任を持ってヒュウガ様にお前らを引き立ててもらえるように進言してやる。いいか? 絶対に無事でいろよ?」
どうやらサテツはイツキとユウゲのその真摯な姿勢に男気を感じたようで、目頭を熱くさせながらそう口にするのだった。
(絶対イツキ様は口だけだろうけどな)
咄嗟のイツキの案に乗らされたユウゲだが、内心でそんな事を考えるのであった。
「ありがとうございます、ユウゲ様。それでは我々が先に出て見張りをひきつけますので、十分に距離を離した後に出てきてください!」
イツキはユウゲに形だけの礼を告げると、サテツの方に向き直ってそう口にするのだった。
「分かった。おいてめぇら話は聞いたな? 囮役を引き受けてくれたイツキに感謝しろ!」
「「ありがとうございます! 頭領補佐イツキ様!」」
その場に居る退魔組の連中もまた、サテツに言われてイツキに感謝の言葉を口にするのだった。イツキはその細目を少しだけ開いて、彼らにこりと笑いかけるのだった。
…………
「おい! 外で『三組』の方々が突如現れた大群の妖魔と戦闘を開始なされたようだぞ!」
「どうする? 俺達はこのまま命令通り『退魔組』を見張っているだけでいいのか?」
「交代が来るまで勝手に動いたらまずいだろうが!」
「だけどよ? その妖魔の大群が野良じゃなくて『退魔組』の連中と合流する為に現れた『ヒュウガ』一派だったら、何としても捕縛しないといけないんだぞ?」
町の門を守っていた元々の『退魔組』の見張り達が血相を変えて、門の方から妖魔が現れたと町の中で騒いでいるのを聞いた『退魔組』の監視を行っていた妖魔退魔師衆達は、俺達も門の方へ応戦に向かうべきか、このままここで見張っていればいいのかと見張り同士で口々に会話を行うのだった。
そして答えの出ない妖魔退魔師衆達の前で、ガラガラと『退魔組』から再び人が出て来るのであった。
(おい……! あれを見ろ!)
(あ? あいつはさっき食事処から戻って来た退魔組の頭領補佐の確か『イツキ』とかいう奴だったか?)
(ああ……。町の連中があれだけ騒いでいるのに、そっちに見向きもせずに冷静に歩いて行きやがる。何か怪しくないか?)
イツキともう一人『退魔士』の人間が並んで出て来るところを見た見張りの妖魔退魔師衆達は、先程までよりも小声でひそひと話し合い始める。
(どうする……? もしかすると表門の妖魔の大群は囮で、あの退魔士はこれからヒュウガ達に会いに行こうとしているのかもしれんぞ?)
(成程、確かにそれはあり得るな。よしアイツを尾行してヒュウガ一派の妖魔召士が現れたら、一斉に捕縛するぞ!)
(そうだな。ここで無駄に見張っているだけならば、そちらの方がいいだろうな)
(よし、決まりだ……!)
…………
「イツキ様、奴らどうやらイツキ様の思惑通り、こちらについてきていますよ」
「ああ。まぁこれでサテツ達は裏門の方から『加護の森』へ向かう事が出来るだろうよ」
ゆっくりとした足取りでイツキ達は歩き一つ目の裏路地へと続く道ではなく、ミヤジが裏路地の住人と揉めた方の道を目指していく。一つ目の裏路地への道は、今のユウゲの話にもあった妖魔退魔師衆の見張りが居たからである。
「それでイツキ様、このまま『裏路地』に向かうという事は長屋に?」
「ああそうだよ。俺の家で待機しているミヤジを放置していくわけにもいかないだろう?」
妖魔退魔師衆に尾行をされているというのに、少しも焦ることなく普段通りの振る舞いを見せながらそうユウゲに告げるイツキであった。
……
……
……
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