第1234話 退魔組、加護の森へ

 既に門前で戦闘が開始された後、ようやく空を飛翔しながらケイノトへと近づいていた『ヒュウガ』達は、一派の『上位妖魔召士』達が放った第一陣の『狗神』達が戦っているところが視界に入った。


 妖魔退魔師達に刀で真っ二つにされたり、串刺しにされたりしている姿を見た『キクゾウ』やそれに他のヒュウガの側近達も驚いた様子だった。


「術式を施してはおらぬとはいえ、あれだけの数のランク『4』の妖魔達があのように一方的にやられていくのか!」


 空の上で妖魔召士の一人がそう告げると、ヒュウガ一派のNo.2である『キクゾウ』が耳聡くその言葉に反応を見せた。


「まぁ奴ら妖魔退魔師にとっては、術式も施して居らぬランク『4』程度の妖魔は敵ではないという事だな。しかし流石に術式を施したランク『6』や『6.5』の領域に届く者達が相手ともなれば、奴らもいつまでも平然とはしてられぬ筈だ」


 キクゾウが若い妖魔召士にそう説明をしていると、同じく空を並走している『ヒュウガ』も口を挟む。


「その通りです。それにあくまで今回の目的は『退魔組』の同志達を迎えに行く事です。奴ら妖魔退魔師の『三組』が相手であっても、その組長のキョウカ殿は居ない。彼女が足止めを受けている内に我らの目的を達成さえすれば良いのですから、何も問題はありませんよ」


 ヒュウガの言葉を受けて『キクゾウ』や若い妖魔召士数人は、ヒュウガにコクリと頷いて見せるのであった。


「ふふ。今回である程度幹部連中の数を減らしてもらえると、今後の事を考えると楽なのですがねぇ?」


「あの『王連おうれん』を使役するのですから、流石に妖魔退魔師の幹部達の数人の命は奪ってくる事でしょう。彼らは生粋の妖魔を相手にする事には長けているでしょうが、直接禁術とされる『術式』を好んで扱う『妖魔召士』の同志達と、その術式を施された高ランクの『式』を相手にした事は無い筈です。我らを自分より弱い者達だと侮っているならば痛い目に遭ってくれるでしょうね」


「ふふふ、そうですねキクゾウ。では我々もさっさと目的を果たして『加護の森』で報告を楽しみに待つとしましょうか」


「はい、ヒュウガ様」


 そこで彼らの会話は止まり、一直線に『加護の森』へと向かって空を飛翔していくのだった。


 ……

 ……

 ……


 ケイノトにある退魔組の屯所の奥の部屋に居るサテツは、各方面へ『特別退魔士とくたいま』を当分任務から外すようにという旨を伝える書状を書いているところに、食事処へ向かった筈のイツキがノックもせずにドアを開け放ちながら戻って来るのだった。


「そんな血相変えながら飛び込んできてどうしたんだよ?」


 肩で息をしているイツキを見たサテツは、書状を書いていた手を止めて声を掛けた。


「さっきヒュウガ様の放たれた『式』と町の中で会いました」


「ほう?」


 思いも寄らない言葉を聞いたサテツは完全に書状を書く気を失い、そのまま持っていた筆を机に放り投げて続きを話すように視線で促す。


「直ぐにここに居る連中全員を連れて『加護の森』へ来るようにとヒュウガ様達からの伝令です。ここはもうすぐ戦場になるかもしれないとも言っていました」


「ちっ……! 全く何から何まで急なんだよなぁ……っ!」


 サテツはそう言うと机の上の書きかけの書状をビリビリに破り中身が分からないようにした後に、何やら筒の中にその紙屑を入れて机の中に入れると立ち上がり、イツキの肩に手を置いた後に手前の部屋へと向かっていく。


「おいお前ら! 全員直ぐに出る準備しろ! これから『加護の森』へ全員行くぞ」


「「へ、へい、わかりやした!」」


 『退魔組』預かりの部屋住み連中や、位の低い退魔士達が雑談をしていたところに突然サテツが大声でそう告げると、一斉にその部屋に居た者達は飛び上がるように立ち上がってサテツに返事をするのだった。


「おいユウゲ、直ぐに町の入り口に居る『特別退魔士とくたいま』達にも伝えてこい」


「サテツ様、もう既に外に居た連中は移動を開始している筈です。我々に伝えに来たのが最後だと言っていましたから」


「そうか? よし、じゃあ俺達も直ぐに森へ行くぞ!」


「「はい!」」


 退魔組に居る者達は全員がサテツの言葉に頷いて返事をするのであった。

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