第1233話 妖魔討伐を生業とする達人達

 空に居る妖魔召士達に使役された『式』達は、地面に降り立ったかと思うと一目散に『ケイノト』へと向かっていく。やはり四足の狗神達は素早く、あっという間に空を飛んでいるヒュウガ達よりも早く門前へと到達するのだった。


「全員抜刀開始! 『ケイノト』の町の中に妖魔の侵入を一体も許すな!」


「「応!」」


 妖魔退魔師『三組』副組長『ヒサト』の号令に『三組』の隊士達は声を揃えて返事をする。


「しかし何という数だ。妖魔召士の『式』だと分かっていても、これだけの妖魔の一斉襲撃は『妖魔団の乱』を彷彿とさせるな」


 帯同している刀を抜きながら『ヒサト』は、奇しくも同じここ『ケイノト』の町に起きた『妖魔団の乱』に討伐隊として参加していた時の事を思い出しながら迫りくる妖魔達を視界に捉え始めるのであった。


 …………


 ケイノトの門前に居る妖魔退魔師の『三組』の幹部達の元に、七人の『妖魔召士』とその妖魔召士達が使役した『式』の妖魔が凡そ数十体規模で出現していた。


 この場に居るヒュウガ一派の中では、あの『煌鴟梟こうしきょう』のアジトで戦った『キネツグ』や『チアキ』でさえ位が低く、最低位と呼べる領域の妖魔召士である。つまり他の降り立った五人の妖魔召士達は、そのキネツグとチアキよりも『魔力』が上で『上位』にランク付けされる『妖魔召士』達なのであった。


 …………


 門前に居る妖魔退魔師達の元に遂に、ランク4以上の狗神達が数十体規模で到達する。


 対して門前に居る『三組』の妖魔退魔師達は全員を含めても、こちらに向かってきている『狗神』だけが相手だとしても『ケイノト』の門前を守る彼ら人間達の数は少なかった。


 しかし数は少ない彼らは単なる町の護衛を務める者達ではなく、襲撃してきたこの妖魔達を討伐する為の組織に所属する妖魔退魔師であり、そしてその妖魔退魔師の中でも指折りの幹部達で構成された『三組』所属である。


 ――覚悟を決めた妖魔退魔師達の目は眼光を鋭くして、襲ってきた妖魔達を前にその力を示した。


 ヒサトの『抜刀開始』という言葉を受けた隊士達は、全員が自身の周囲に『天色』のオーラを纏い始めたかと思うと、次々とその青のオーラを自身の得に形成付与を行っていく。一人の隊士を例に挙げたわけではなく、その場に居る全員が一斉に僅かコンマ数秒で纏わせたのであった。


 ――「全員! 迫る妖魔を討伐せよ!」


 そしてヒサトの命令に従う妖魔退魔師の隊士達は、四肢に思いきり力を入れて地面を蹴って飛び掛かって来るランク『4』以上の『狗神』の集団を相手に一斉に『討伐』にかかった。


「グルルルルッ!!」


 飛び掛かって来た先頭の『狗神』に向けて、後方に居た隊士の一人が更にその狗神の頭上にいつの間にか跳躍を果たしたかと思えば、そのまま狗神の脳天から胴体までを串刺しに突き刺した後に、強引に腕力で振り切るとヒサトの言葉通りに『狗神』の身体は真っ二つになった後に、ぼんっ! という音と共に式札に戻って行った。


 そして誰もそちらに一切視線を向けず、彼ら隊士は自分達に向かって来る妖魔を『自分の獲物』だとばかりに、次々と討伐を行おうと向かっていくのだった。


 袈裟斬り、刺突、横凪ぎ――。


 妖魔退魔師『三組』の隊士達の刀は全てが、二の太刀要らずであった。


 彼ら隊士の全てが妖魔を討伐したその刀を振り切った態勢のままで制止し、まるで弓道の『残心』を行うかの如く態勢を変えずに姿勢を保ちながら、目だけをぎょろりと動かして視界に入る次の獲物を捉えようとする。


 そして近づいてくる妖魔達を同じ所作を繰り返しながら、確実に数を減らしていく。


 この場に居る妖魔退魔師その全ての隊士達が『特務』に居る者達よりも、数段上の技巧を兼ね揃えた妖魔を討伐を生業とする達人達なのである。


 瞬く間に速度を活かして最前線を突っ切って来た、数十体の『狗神』達は全滅を余儀なくされるのであった。


「全員! 隊列を戻せ、ここからが本番だ! 精神統一!」


 隊士達は精神を研ぎ澄ませるかの如く全員が、一様に同じ所作を行いながら目を一度閉じたかと思えば、一斉に同じタイミングで目を見開き、再び各々が『天色』の青のオーラを得に宿し直して構え直す。


「全員! 視界に映る全ての妖魔を討伐せよ!」


 ヒサトの命令が響き渡ると『狗神』の襲撃で一人も欠ける事がなかった『三組』の隊士達は、視界に映り始めた次の妖魔の大群を前に、再び討伐を行う妖魔退魔師の顔になるのであった。

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