第1226話 使い走り
怒鳴られて部屋を出て行ったユウゲを見たイツキは、残された退魔組の奥の部屋で思案を始めるのだった。
(妖魔退魔師の連中も『ヒュウガ』殿達が『退魔組』に足を運ぶと分かっているからこそ、このタイミングでケイノトへ見張りに出張ってきている筈だが、その隊長である筈の『隻眼』がその本丸の監視から離れて一人何処かへ去る理由……)
「しかしどういう理由があるにせよ『隻眼』が場を離れたのなら、今の内にヒュウガ様と合流が出来るように場を整えておく方が先決か?」
「罠かもしれませんよ? たとえばですが指揮官が場を離れた事で好機だと思わせておいて、俺達をヒュウガの元に向かわせて後から居場所を突き止める……。とかの可能性もあります」
物思いを耽っているイツキの方を見ずにまるで独り言のように喋るサテツだが、間髪入れずに返事を行うイツキであった。分かりにくいことではあるが、周りに人が居る時にサテツが話す時はだいたい会話を求めている時である為、付き合いがそれなりに長いイツキはその事を熟知して分かっている為にそう言葉を返すのだった。
「まぁ確かにな。これは本当に『隻眼』の居場所が分かるまでは動かない方がいいか」
そう言ってどかっと、椅子の背もたれに身体を倒しながら天井を仰ぎ見るサテツだった。
「それが賢明でしょうね『隻眼』が居なくなったとしても、見張りの妖魔退魔師数人の戦力だけでも『退魔組』だけではどう対処する事も出来ないでしょう。せめて『ジンゼン』殿か『キクゾウ』殿と直ぐに連絡がつけばやりようはあるんですがね」
ジンゼンとキクゾウというのは『上位妖魔召士』として『妖魔召士』組織でも活躍していた者達であるが、現在の『ヒュウガ』一派の者達の中でも存在感を示している大幹部の者達である。
特に『ジンゼン』という男が『式』にしている『王連』という妖魔は、あの鬼人女王である『
「その御二方と連絡が取り合えるなら一緒に居る『ヒュウガ』様と連絡が取れるじゃねぇか、お前も馬鹿もな野郎だな」
「そうですね、これは申し訳ありません」
イツキはサテツに例え話を告げたつもりだが、どうやらその事を理解してもらえなかった様子であったが、わざわざ弁明するつもりもないのか、軽く謝罪をするに留めるのだった。
「まぁ無い物強請りっつーかよ、出来る事がないのに考えても栓ない事だ。報告があがって来るまでは放っておこうぜ。そういやお前は食事処に『出前』を頼んだんだよな? ちょっとお前、今から俺の分も頼んでこいよ。ちっと腹が減っちまったわ」
「……蕎麦でいいんですか?」
「おう! あ、俺は二人分食うからよ、お前も欲しいんなら最低三人分は頼んでおけよ?」
「分かりました、それじゃあ今から行ってきます」
「おう。さっさと行け」
さっさと蕎麦を届けさせろと命令されたイツキは、サテツに頭を下げて奥の部屋から出て行くのであった。
(ちっ……! 何で俺が蕎麦を運ばなきゃなんねぇんだよ、しかも代金も払わねぇのかよ)
流石のイツキも腹が立ったのか、細目の彼には珍しく目を開いて胸中で愚痴を零すのであった。
奥の部屋から不機嫌そうに出て来るイツキを見たユウゲは驚いた顔を浮かべている。この場ではまだ他の部屋住みと呼ばれる『退魔士』ですらない、これからの退魔組若衆と呼ばれる者も居る為に、ユウゲは裏の顔を出すわけにもいかない為、声を掛けずに視線だけをイツキに向けるのだった。
めざとくその視線に気づいたイツキは、不機嫌さを露わにしている表情を無理やり笑顔に変えた。
「どうやら私が前に試した『出前』を今度はサテツ様も試してみたいらしく、食事処へ向かうところなのですが、ユウゲにお話ししたい事もありますので、宜しければご一緒に行かれませんか?」
イツキの本心を要約するとこうなるのだった。
(※サテツの馬鹿が飯を食いたいから蕎麦を持ってこいと言ってきやがった。後で話があるっていったが、道中で話すからお前もついてきやがれ)
「あ、ああ……。分かった」
(※わ、分かりました)
イツキは眉をぴくぴくと動かしながら何とか苛立ちを隠してそう言うと、意味を理解したユウゲは慌ててそう告げるのだった。
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