第1225話 いらぬとばっちり
妖魔退魔師の最高幹部の一人、三組組長の『キョウカ』がケイノトの南にある湿地帯で戦闘を繰り広げている事など露知らず『退魔組』のサテツ達の元に、特別退魔士の『ユウゲ』が報告に訪れていた。
「何だと? 町の外を見張っていた、いけ好かねぇ
「ええ、どうやらその『隻眼』以外の連中はまだ居るようですので、奴らのこちらを窺う監視や見張りの任が解かれたわけではなさそうですが、交代というわけでもなく『隻眼』だけが持ち場を離れて去ったようです」
イツキも居る『退魔組』の奥の部屋でユウゲは、イツキではなくサテツに報告を行っている。ここでのイツキは単にサテツの補佐を務めてはいるが、単なる『
ここではイツキよりも特別退魔士の『ユウゲ』の方が立場は上である。
「妙な話だな? しかし今はヒュウガ様も里の連中の方からも情報を得る事は難しいしどうするか……」
悩む素振りを見せるサテツの横に立って二人の会話を聞いていたイツキだが、ゆっくりと一歩下がってサテツの視界から少し外れる位置に移動する。当然サテツはそのイツキの行動に気づいてはいないが、正面に立っていたユウゲは視線でその移動を行ったイツキを追う。
イツキは親指で自分を指差しながら、その後に人差し指で右の壁を差し始めるのだった。
しかし直ぐに気づかない察しの悪いユウゲに、イツキの表情が徐々に曇っていく。
(何だ? イツキ様に注目しろという事か? それに壁……? はっ、ま、まずい! な、何だ、考えろ! 必死に考えろ! あ、あの方向は裏路地にあるイツキ様の長屋の方向か。成程、イツキ様の家で話があると言いたいのか!!)
気付いたユウゲは慌ててイツキを見ながら理解した事を伝える為に、にこやかに満面の笑顔を浮かべて歯を見せるのだった。
イツキの手の合図の意味が直ぐに理解が出来なかったユウゲを見て、イツキが失望するような視線をユウゲ向けた事で、このままではイツキに見捨てられてしまうと考えたユウゲは、その後に何やらぶつぶつとサテツが口にしているのを全て頭から除外して、イツキの手の合図のみに全神経を集中させて考えた事でようやくイツキの言いたい事を理解出来たようであった。
「……っい! おい! きいてやがんのか! なぁにを……笑ってんだぁっ! 俺を舐めてんのか、てめぇ!」
しかしイツキの手の合図に集中しすぎていた所為で、退魔組の頭領であるサテツの話す言葉を全て無視していたユウゲは、サテツがどんな顔をして自分を見ているのかという事に気づけなかった。
そしてサテツは目の前で自分の言葉を聞かずに、いきなり馬鹿みたいにへらへら笑い始めたユウゲを怒鳴りつけるのだった。
「ひ、ひぃ! す、すみません、ち、違うんです! は、歯……、そ、そう! 朝から堪えきれない程に歯が痛くてつい自分を誤魔化そうとして……!!」
自分でも何を言っているのか分からないが、このままだとイツキだけではなくサテツにも殺されるかもと本気で考えたユウゲは、慌てて何でもいいから口に出してしまえの精神で必死に言葉を吐きだした。
「うるせぇ! 気分が悪い、もう話は終わりだ! さっさと出ていけこのクソボケが!!」
目の前の机を蹴り飛ばしながら怒号を発するサテツに、慌てて頭を下げるユウゲだったが、顔をあげると同時にイツキがサテツから見えない位置で、腹を抱えて器用に声を出さずに大爆笑している姿が見えた。
(く、クソ……! ま、またアンタの所為で俺が怒られたじゃないか!)
ユウゲはイツキに非難をするように視線を送るが、イツキはそれを平然と受け流しているのであった。
「ま、まぁまぁ落ち着いて下さいサテツ様。今は彼ら『
いつの間にやら表情を元に戻して『退魔組』の頭領補佐の役回りでそうサテツに進言するイツキであった。
「ちっ、確かにお前の言う通りだな。おい、今もお前以外の奴が外の連中を見張っているんだろう? だったら他の連中を使って『隻眼』の場所を探り出せ! 見つけるまでは休ませねぇ、交代出来るとは思わねぇことだな!!」
「は、はい! つ、伝えておきます!」
要らぬとばっちりを受けた彼だったが、ここで更にサテツの機嫌を悪くするわけにはいかないユウゲは、慌ててそう告げて部屋を出て行くのであった。
……
……
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