第1181話 結ばれた協力関係

「つまりヒュウガという男は、ゲンロク殿に隠しておきたかった裏の諸々の事情をソフィ殿に明るみに出された事で、ソフィ殿に逆恨みをして部下達に襲わせようとしたが、そのヒュウガの部下は何の手違いかソフィ殿ではなく我々妖魔退魔師組織の者達を襲い、うちと事を構える事になりその責任から逃れる為に、ゲンロク殿の里から自分に従う者達をごっそりと組織から引き抜いて里から去ったという事でしょうか」


 ソフィの話を聞いたミスズは、妖魔召士達の間で行われた事を推測し、仮定を並べ立てていくのだった。


「そういう事だろうな。実際にコウゾウ殿達を襲ったあの二人組の『妖魔召士』の意図はよく分からぬが、ヒュウガは本当は我を襲わせたかったのだろうと思っている。しかし上手くは行かなかった上に、その襲撃を行わせた実行犯を『旅籠町』の『予備群』達に捕縛させられてしまい、計画を行ったヒュウガが仕方なくその捕縛された者達を救出する為に旅籠町の屯所を襲ったのだろう……」


「……」


 あくまで推測の範疇ではあるが、順序立ててゲンロクの里でソフィ達がヒュウガの行いを明るみに出した事から、この一連の妖魔退魔師襲撃事件が始まっているとしたら、当然一番悪いのは部下達に襲わせるように指示を出したヒュウガではあるし、実行したチアキ達妖魔召士の所為で間違いはないだろう。


 しかしソフィ殿は自分が関わった事でコウゾウ殿を巻き込んでしまい、死なせてしまったのだと考えているようで、彼は責任を感じてこうしてミスズやシゲンの居る前で事の詳細を話してくれているようである。ミスズはそのソフィの考えを理解した上で、再度シゲンの方に視線を送ってみるが、どうやらシゲンの方もミスズと同じ気持ちを抱いていたのだろう、ミスズの視線に直ぐに合わせて頷いてくるのであった。


 ミスズはコウゾウがようやく自分の部下になる事を決心してくれた矢先に、こうして帰らぬ人となってしまった事で、頭を冷やす前は悔しさで冷静さを失う事態にまで陥っていたが、屋上で一人になってしっかりと自分の中で答えを出した後、同じ辛い気持ちを抱いていたシグレとも話をした事で落ち着きを取り戻す事が出来た。だからこそ彼女はあえてこの言葉を口にする――。


「ヒュウガ殿を捕縛して諸々の事情を全て説明して頂かないといけませんね。ソフィ殿、申し訳ありませんが貴方のお力もお借り出来ませんか?」


 ミスズのその言葉を聞いたソフィは、少しだけ驚いている様子が見て取れる。やはり彼は自分の責任で『コウゾウ』を死なせてしまったと考えていたようだ。


「旦那。俺にも手伝わせてくれよ。俺もそのヒュウガって野郎を捕まえて話をしたい」


 どうやらシグレを相当に気に入っているセルバスは、さっきのシグレ殿の様子を見て堪えきれない何かがあるのだろう。普段は天然なところもあるセルバスだが、今の彼は真剣な表情をしていて冗談など決して言えない顔つきをしていた。その表情はソフィは詳しくは知らなかったが『煌聖の教団こうせいきょうだん』の最高幹部の大魔王としての顔をしていたのであった。


 ソフィはミスズとセルバスの話を聞いた後、ちらりとヌーの方を見る。


「ちっ、分かってるよ。さっさとそのヒュウガって野郎を捕まえて『エヴィ』を見つけに行くぞ」


 ソフィはヌーの言葉を聞いて、本当に丸くなったと感じながら頷いて視線をミスズとシゲンに向ける。


「我達で良ければ、こちらこそ手伝わせてもらいたい」


「感謝します。それでは現在本部に居る二人の捕縛している妖魔召士を使って居場所を炙り出します。当初の予定ではうちの予備群を使って行う予定でしたが、ソフィ殿には可能であれば先程の『魔瞳』を彼らに使って居場所を聞き出して欲しいのですが」


「それは構わぬが、先にゲンロク殿に一度会って話をつけた方が良いのではないか? ヒュウガを捕らえるにしても、元々はあやつは妖魔召士組織に所属していた奴なのだろう?」


「ここからゲンロク殿の里までの移動を行う時間を考えると、ヒュウガ達に遠くへ逃げられる可能性があります。里にも勿論使者を送りますが、ここは捕縛した妖魔召士を使って直接ヒュウガの居場所を探した方が良いでしょう」


「時間なら気にせずともよいぞ? 会おうと思えば我の『魔法』で今すぐにでもゲンロク殿に会えるのだが」


「え?」


 ゲンロクの里には既に一度行っているソフィは『移動呪文アポイント』を唱えるだけで直ぐに会いに行けると伝えると、ミスズは直ぐに計画を練り直し始めたかと思うと、早速ソフィに願い申し出るのであった。


 ……

 ……

 ……


 こうしてソフィ達は『ヒュウガ』達を捕縛する為に『妖魔退魔師』と協力関係を結ぶ事になるのであった。

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