第1021話 逃亡を図る者
エイジは間違った道へと進んでいたキネツグに、お灸をすえる意味も兼ねてもう一度正しき道へ戻す為に『
根本となる魔力を奪い二度と魔力を操る事を不可能にする事もエイジや、そのエイジの師であるサイヨウであれば当然可能ではあるが、どうやらエイジはそこまでするつもりはなく、キネツグ程の若さであれば、自分の年齢を迎えるまでには、再び『
真面目に研鑽を積み直すならばいくらでも力を貸そうとは思うが、今後もしやけっぱちになるようであればエイジは今度こそ彼に引導を渡すつもりのようである。
キネツグの事を考えていたエイジだったが、やがて後ろを振り返りソフィと『
「どうやらあちらもそろそろ終わりそうだな……」
エイジの視線の先ではチアキが使役した『式』である『
当然ゲンロクの編み出した禁術を使う事に
エイジは自分と同じ前時代に生きて来たヒュウガの事を考えながらも、禁術を施された鬼人をあっさりと倒したであろうソフィを流石だと認めながら、ゆっくりとヌー達の元へと向かっていくのであった。
…………
「さて、次はお主の番だな?」
「くっ!」
まさかランク『5.5』相当の『
(こ、こいつがヒュウガ様が言っていた奴か! な、成程ね、あたしら『
チアキはソフィ達が『
(こ、こうなったら情けないけど、キネツグと共に一度里へ戻り、戦力を整えてからもう一度こいつらを襲う。ヒュウガ様の息のかかった者達は、里にもまだまだいくらでもいるんだ。事情を話せばいくらでも、協力は取り付けられる筈だ)
ゲンロクの作った里ではあるが、ジワジワと内部からヒュウガ派は勢力を伸ばしてきており、すでに『
ここでヒュウガ派を多く動かせばゲンロクにバレるかもしれないが、そうなったらそうなったでヒュウガ様を『
そんな事が現実に起きれば『
(よし『
この場に来た時のように鳥類の妖魔を使役して脇目も振らず、この場から離脱しようと企むチアキは、近づいてくるソフィから一旦視線を外してエイジと相対しているキネツグの様子を見る。
「へ……っ!?」
しかしそこでチアキは素っ頓狂な声が口から漏れ出てしまった。彼女の視線の先では、あのキネツグが倒れて転がっていたのである。
(エイジ殿は現役から離れて久しくまた本来の『
「何を慌てておるのだ? お主はヒュウガとかいう者から我達を消す為に、この場に差し向けられたのだろう? さぁお主も遠慮はいらぬぞ、存分に我が相手をしてやろう」
そう言うとソフィはチアキの前まで足を運ぶ。
「ちょっ、調子に乗るなよ! 天才エリートの『
チアキは色々と思い通りに事が運ばない事に苛立ち、半ばヤケっぱちになりながら魔瞳である『
「むっ……!」
ソフィの手足が重く感じたかと思えば、その場から動けなくなっていく。
鉛のように重くなるというよりは何やら建物の柱の一部になったかのような感覚であり、強引に動かせば地面の土ごと大地を揺るがすような、そういった不思議な感覚を味わい、無理に動かせば足がぼきりとそのまま折れてしまうようなイメージを抱かされるのであった。
「またこの青い目か……。どうやら『
この世界に来た時にエイジの子からも受けた事があるこの目は、どうやら第二形態となっている今のソフィであっても動けなくなり、まるで抵抗が出来なくなる様子だった。
(ふむ……。これは戦力値や適当な力をいくら増加させても外れそうに無い感覚だな。では魔力が本題という事か?)
一つの結論に至ったソフィは、試してみる価値はあると思い始める。
「ヒャハハハッ! 無駄なんだよバーカ!
そう言って懐から『式札』を出したチアキは空に向かって放り投げると、ボンッという音と共にこの場に彼女たちが現れた時に乗っていた『鳥類』の妖魔が出現する。
『式』を出した後、チアキはもうソフィを見ておらず、視線を同じ『
『
つまりチアキの『
チアキはこの場から里に戻る為には『
いくら力が強いソフィであっても『
しかしどうやらエイジ殿はこちらを見てはいるが、コイツを動けるようにしようとは考えていないのか一向にこちらに向かってくる気配が無い。
(仲間というワケではないのか? まぁそんな事はどっちでもいい、向かってこないというのならキネツグには悪いが、あたし一人で戻らせてもらうよ!)
今が好機だと判断したチアキは自身の『式』に飛び乗ろうと、視線をエイジから自身の鳥類の『式』に移した。
――しかしその時であった。
恐ろしい重圧を感じたチアキは、視線を再び目の前に居る者に移させられる。
最初は鮮明で綺麗な紅色。次にくっきりと鮮やかな青色。最後に眩い金色がソフィの周囲に纏わり始めていった。
チアキは一瞬マズイと思ったが、オーラを纏い始めたソフィにそれ以降動きは見られなかった。
どうやら『
(あ、焦らせやがって!! あたしの
それでも冷や汗を浮かべながらチアキは、短髪の頭をガシガシと掻きながら心の中でソフィを罵倒する。
「クックック! 素晴らしいではないか。お主の
「ハァッ……? 誰だよ『レキ』って……」
突然笑い始めたかと思えば、誰か分からない名前を出し始めたソフィにチアキは、訝し気に眉を寄せながらそう口にする。
しかしそのチアキの言葉に対するソフィの返答はなく、代わりに何やら『詠唱』のような物をソフィは呟き始める。
「『無限の空間、無限の時間、無限の理に住みし魔神よ。悠久の時を経て、契約者たる大魔王の声に応じよ……」
「何だ? 何を言っていやがるんだ? て、テメェ……」
突然、奇妙な言葉を吐き続け始めたソフィを見て、彼女はよく分からない焦燥感に襲われ始める。
そしてそんなチアキに、ソフィは視線を合わせると『
――「『我が名は、ソフィ』」
……
……
……
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