第1022話 ソフィの第三形態

 ノックスの世界の空間に亀裂が入り、ソフィの詠唱に呼応するように見目麗しい魔神が出現を果たす。


 この世界では三度目。一度目は加護の森、二度目は旅籠町のソフィの結界内で召喚されたが、今回は『煌鴟梟こうしきょう』のアジト内に姿を見せる事となった。見目麗しい魔神はソフィの姿を見るといつものようにニコリと微笑みかける。


「はぁ……? な、何だお前……」


 片腕を失った状態で『魔瞳まどう』を使い、ソフィを動けなくしていたチアキは突如、目の前に現れた魔神を見て、茫然としながらそう告げた。


「――!」(まさかこんなに早く呼び出してくれるなんて、とっても嬉しいわ!)


 しかし魔神は一切チアキの言葉を無視して、嬉しそうにソフィに話し掛けるのであった。


「すまぬが魔神よ、どうやら前回の分だけでは少々魔力が足りないようなのだ」


「――」(まぁ……! ? 今の貴方の魔力程であれば、すでに規模の小さな世界であれば、丸ごと消せる程だと思うけど)


 今のソフィは『』を使用しており、アレルバレルの世界や、リラリオの世界でもこれだけの力を見せた時の方が、少なかったくらいである。


 ――これ以上ともなると一つ間違えれば、世界そのものに影響を及ぼす程である。


「ふむ、我もそう思っておったのだがな。どうやらこの世界は『アレルバレル』よりも強き者が多く居るようでな? 今も我はこやつの魔瞳まどうの力によって、動けなくされておるのだ」


 ソフィがそう言った瞬間、これまでその存在が居る事すら認識していなかった様子の魔神は、チアキをその視界に収めた。


「なっ……! 何だテメェは?」


「――」(。確かに貴女は素晴らしい力を持っているようね)


 ソフィが目の前に居る女に動けなくされていると聞かされた魔神は、チアキをその視界に入れた後、数秒程チアキの力を測っていたようで、最終的には強者の枠組に入る存在と認めたようである。


『魔神』は右手をチアキに向けると、何かを呟いた。


「むっ!」


 ソフィが眉を寄せたと同時に魔神の右手を眩い光が包んだかと思うと、高密度のエネルギーが集約されていく。どうやら力の魔神は目の前のチアキという『妖魔召士ようましょうし』の人間を力を有する強き者と認めたようで、自らが手を下してもいいだろうと判断して、処理を開始しようとしたようである。


「魔神よ勝手は許さぬぞ? お主を呼んだ理由は、あくまでお主に預けておる我の力の返還だ」


「……」


 真面目な顔でそう告げられた魔神は、絶大な殺傷能力を誇る高密度のエネルギー波を放つ直前で、チアキから一切視線を外さずに、無言で自身の思考に陥り始めた。


 そして魔神は無言のまま、その手を下に降ろすとちらりとソフィを見た魔神は、預かっているソフィの力の一部を素直に返還した。


 次の瞬間『ソフィ』の力がこれまでとは、比較にならない程に増幅される。そしてソフィの背中から『』の漆黒の翼が生え始める。


 第三形態にしてこの『』が体現された姿は、アレルバレルの世界でかつての支配者であった大魔王『ダルダオス』を姿であり、ソフィの第三形態の更に『姿』である。


 単なる第三形態でさえ『魔神級』のシスや『代替身体だいたいしんたい』時のレキよりも強く、この四翼を生やした戦闘特化の状態であれば、が相手になったとしても全く引けを取らないだろうという姿である。


 そしてソフィは『魔神』に預けていた魔力を用いて、先程の第二形態時では解除が出来なかった『チアキ』の『青い目ブルー・アイ』を解除しようと試みるのだった。


 ――ソフィの目が金色に輝くと、あっさりとチアキの『青い目ブルー・アイ』は解除された。


 そしてソフィが、魔神はまだ、何も聞かされていない状態だが、に全力で周囲一帯に結界を張り始める。


 大魔王ハワードを葬った時に張った『結界』やこれまでのような結界の規模ではない。魔神がソフィの魔力コントロールを信用していないというわけではないが、あくまで形式上の世界の崩壊を防ぐ為に『魔神』がその力を行使したという『』である。


「お、お前らは一体何なんだ!?」


 漆黒の四翼の羽を生やした大魔王や、神々の中でも上位に数えられる魔神を前にしてチアキは、余りにも現実離れした事象にパニックになり始めるのであった。


「――」(黙りなさい矮小な存在よ。この方はもう貴方程度が、


「な、何言っていやがるか、わかんねぇんだよ!!」


 チアキはこれまで戦ってきた『妖魔山ようまざん』に居る妖魔達よりも更に禍々しさを感じるソフィの魔力とその姿に、不安からか本能でソフィ達を排除しようと力の行使を行う。


 ――魔瞳まどう、『青い目ブルー・アイ』。

 ――捉術そくじゅつ、『動殺是決どうさつぜけつ』。


 『妖魔召士ようましょうし』であるチアキは再び、先程の第二形態のソフィを動けなくした魔瞳まどうと、エイジがキネツグの『式』に対して行った物と同じ捉術そくじゅつを『』と『』に対して同時に放つのであった。


「――」(愚かな俗物が)


「……」


 ――大魔王ソフィと力の魔神は同時に力を行使する。


 妖魔召士ようましょうしチアキの『青い目ブルー・アイ』は、ソフィの『金色の目ゴールド・アイ』によって相殺されて、相手の脳を強制的に支配する筈の『捉術そくじゅつ』は、魔神の力によって即座に掻き消された。


「殺しはせぬ。ひとまずは眠ってもらおう」


 ソフィはそう告げると右手に魔力を集約していく。

 バチバチと音を鳴らしながら、その具現化された迸る魔力を完全にコントロールしている状態で、ソフィはゆっくりとチアキ向けた。


「ま、りょくの……塊?」


 先程の魔神の高密度エネルギーに似たそのソフィの魔力を眺めていたが、やがてソフィがそれをチアキに向けて放った瞬間であった――。


 放たれたソフィの魔力は、一瞬で目の前に居たチアキに向かっていく。

 『妖魔召士ようましょうし』として、魔力の扱いに長けているチアキだが、その魔力に何の反応も出来ず、眩い光が生じたという認識を最後に白目を剥いて意識を失うのであった。


「完全に魔力をコントロールしていた筈だが、少しだけ我の出そうとした、魔力よりも威力が高かったか?」


「――」(ええ、その認識は間違いはないわよソフィ。貴方私と戦った時よりも更に強くなっているとこの私は断言する)


 これまでであっても全力を出した事がないソフィだというのに、彼の総力値の下限の部分の底上げが行われているようであった。


 先程のチアキに向けた魔力圧は、ソフィが放とうとした物より想定の一割程、威力が上がっていたようで、相手が相応の実力者でなければ今ので絶命していてもおかしくはなかったと、暗に魔神はソフィに知らせるのであった。


 ……

 ……

 ……

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