第973話 退魔組の戦力達

 ソフィ達が旅籠町に到着する少し前『退魔組』に属する三人の『特別退魔士とくたいま』達は、退魔組の頭領であるサテツの命令によって新たな任務を言い渡されて、これまで就いていた任務を切り上げて『加護の森』へと向かっていた。

 彼らの本来の任務は、他の上位退魔士達のような組員と違って妖魔の山の見張りや、各所の妖魔退治に他の町に点在する『予備群よびぐん』などの動きを見張ったりと、それぞれの役割がしっかり重視される大切な任務であった。


 しかし妖魔召士であり『妖魔退魔組ようまたいまぐみ』の長として君臨している『サテツ』に命令されてしまえば、それらの任務より優先されるのである。


 現在『加護の森』へと向かっている『退魔組』の者達は合計で六人。

 『特別退魔士とくたいま』が三人と、その『特別退魔士とくたいま』達についている護衛の剣士が三人である。


「ったくよぉ、サテツの頭領もいい性格しているよなぁ。いくら気に入らないからって『特別退魔士とくべつたいまし』のイバキを差し置いて、たかが一介の『上位退魔士じょうたいま』に現場の指揮を執らせるなんてよぉ!」


 先頭を歩いてブツブツと愚痴を零しているのが、三白眼が印象的で顔は痩せこけていて見ている者が不安になる程の男で、名前は『ヒイラギ』という『特別退魔士とくべつたいまし』であった。


 そしてその横に並び立つ彼の護衛剣士を務める『ミナ』。

 両手でガッツポーズをするように、顔の前に出してその通りですねと言わんばかりにヒイラギの言葉に頷いて見せている。


「仕方ないっすよー、あれだけ頭領様の命令に背いたり、ケチをつけたりして、まるで前時代の『妖魔召士ようましょうし』様方達みたいに、自分の意見をしっかりと持っているイバキ様は、頭領様の目の上のタンコブだったって事でしょうしー」


 両手を頭の後ろで組んで、ヒイラギの言葉に返事をする女性は、寡黙な『特別退魔士とくべつたいまし』である『クキ』の護衛を務める剣士であった。


 長い黒髪でテアと同じようにツインテールの髪型をしている。その名前は『サキ』といった。


「……」


 静かに彼らの会話を聞いているそのサキの隣に立つ男は『クキ』。

 額に目立つ大きな傷を持つ、三十路になったばかりの『特別退魔士とくたいま』である。


「イバキは才能溢れる若き退魔士だったが、少しばかり考えが青いところが玉に瑕だった。組織に属する以上はある程度、長い物には巻かれる事も覚えなくてはな」


 最後尾を歩くのが、白髪が多い初老の男『ユウゲ』。


「私はイバキ様やスーの生き方を否定したくは無いですけどね……」


 小声でぽつりとそう漏らすのは、ユウゲの護衛剣士『ヤエ』。


 退魔組に属する多くの退魔士は、二人組でコンビを組むようにサテツの方針で決められているが、どうやらこの場に居る『特別退魔士とくべつたいまし』達は、全員が男女で組まされている様子であった。


(※サテツに敬遠されていたイバキだけが、組織から護衛剣士を付けてもらえず、仕方なく昔からの仲間であった『スー』が立候補して護衛についた)


「今はイバキの事よりも、タクシンを葬った二人組とやらに注意を向けるべきだと俺は思う」


 それまで無言を貫いていたクキが、ヤエ以上に小声で言葉を出したが、その場に居た全員がクキの言葉をしっかりと耳に入れた。


「タクシンがやられたという事は、アイツが使役していた『式』の『動忍鬼どうにんき』もやられたという事だろ? タクシンの性格上、使役している妖魔に『縛呪の行』や、他の禁忌の『行』も迷わず使う筈だ」


 再びヒイラギが口を開くと横に居るミナは、ヒイラギを全肯定するように、何度も首を縦に振っていた。


「本当に『二人組』は妖魔だったんですかねぇ? 『動忍鬼どうにんき』や、タクシン様をやれる程の奴なんて、そんな妖魔が加護の森に居たら絶対その予兆が、何日も前から私たちに伝わると思うんすけど。もしかしたらですけど、お隣の森を管理している『サカダイ』の『予備群よびぐん』の方達だったりしたらどうしますー?」


 ぺろりと舌なめずりをしながら、ツヤツヤの長い黒髪を左右に結んだツインテールを揺らせて、サキは薄く笑みを浮かべるとその場に居る全員が、サキの思い付きの言葉が決して有り得ない話では無く、本当にサカダイの差し金かもしれないと、無言ではあるが全員が咄嗟に頭に浮かぶのであった。


 ……

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