第972話 咄嗟の演技力
「ひとまずはこれで、こやつの魔力は封じられた筈だ」
ソフィの言葉を聞いたヌーは、地面に蹲っていたセルバスの肩口を蹴る。座り込んでいたセルバスは、蹴られてそのまま後ろへひっくり返った。
「くっ……!」
今のセルバスはまだ
セルバスが歯を噛みしめながらヌーを睨んでいると、そのヌーから射貫くような、冷酷な視線を合わせられた。
「!」
『
「逃げようなどと、つまらない事は考えるなよ? てめぇは今から俺の質問に、馬鹿正直に答えろ」
――
かつてはこの目の前に居るヌーと同格のような気になって、偉そうに会話を交わしていたセルバスだったが、今、こうして『
このヌーと同格のように感じられていたのは、あくまで『
この大魔王ヌーと一対一で不遜な態度をとれる程、自分は大した器では無いと理解させられたセルバスは、質問を投げかけられても何も言えず、黙って見ているだけしか出来なかった。
「返事はねぇのか? この屑が」
無言で震えながらヌーを見ていたセルバスだったが、その恐怖の象徴である相手に舌打ちをされて、咄嗟に言葉が出ずに、隣に立っているソフィに助けを求める視線を送る。
「まあ待つのだ。こやつはどうやらお主の放った魔法の所為でまともに頭が回らない状態なのだろうよ」
セルバスからの視線を受けたソフィは、そう言って助け船を震えている魔族に出しながらそっと回復をさせる魔法をかけ続けた。
――神聖魔法、『
温かい光が再びセルバスを包み込むと、今度こそ完全に身体が回復したようで、先程までの吐き気は無くなり気分は完全に快調したようであった。
「す、すまねぇな……、助かったよ」
目の前で回復魔法をかけて治してくれたソフィに、そう礼を告げるセルバスであった。
旅籠町で
『
更に彼は体重もかなりあり筋肉も隆々な為、こうして立っているだけであっても相対する相手に相当の威圧感を感じさせる。
だが、ソフィもヌーもそんな威圧に圧されるような存在では無い為に、逆にこうして視線を下げながら身体を縮こまらせている今のセルバスは、自分でも矮小な存在だなと劣等感に近しい物を感じさせられるのだった。
「てめぇがテアを襲った連中の仲間で間違いはねぇな? 嘘やデタラメを言いやがったら、この場でてめぇを殺すぞ」
脅しでも何でも無いという事は、直ぐにセルバスにも理解出来るのであった。
「ああ。俺は最近『
ぽつりぽつりと静かに言葉を漏らしていたセルバスだったが、話していく内に突然に大きな声に変わっていく。
どうやら言葉を出してゆっくりと話をする内に、自分で自分の言葉の意味を脳内で理解していき、このままではテアという女とやらを襲った犯人に自分も数えられて、このままヌーに殺されると判断したのかもしれない。
傍から見ればセルバスの様子は、ヌーの威圧感に怯えているようにしか見えないからであった。
ヌーの両肩を掴んで必死に自分の弁護を始めるセルバスに、煩わしそうに顔を顰めながらヌーは、引き剥がすように男を突き飛ばす。
「うぜぇ! お前が襲ってようが、襲ってなかろうが、まずはその『
ヌーに突き飛ばされて尻餅をつきながらもセルバスは、何度も何度も首を縦に振るのであった。
(よし。この場でひとまず処理される様子は無さそうだ。後は奴らの元へ案内して、隙を見てさっさとこんな世界とオサラバだ!)
誰もセルバスを見ていないタイミングで、彼はニヤリと顔を歪めながら笑みを浮かべるのであった。
……
……
……
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